第十四話
「何やってるの」
不意に頭上から落とされた言葉に、すぐに気がつかなかった。
「……なんで、泣いてるの」
泣いてなんかいない。
ただ、心が空っぽになったみたいに、今は何にも考えられないだけだった。
「どうしてキミは、僕を見てくれないんだろうね」
大きなため息と共に零された言葉は、どこか悲しげに聞こえた。
何を言ってるんだろう?
俺は、ちゃんと見てるじゃないか。
……アンタのことを。
「そういう意味じゃない。そんな瞳は、ただ姿を映してるだけだよ」
俺はただ、会いたかっただけなんだ。
あの人に。
夢じゃなくて、幻でもなくて。
そう――――……恋でも憧れでもなくて、ただの執着心だけなんだよ。
「だから?」
だから……アンタに会いたくなかった。
知りたくないんだ。
お願いだから……――――優しくしないで。
「ふふっ…、バカだね、凛は」
言葉とともに、柔らかな体温が身体を包み込んだ。
温かくて心地が良いのに、酷く逃げ出したい気持ちに駆られる。
「ゃ、だ」
小さく抵抗を示すと、尚更強く温もりに囚われる。
「ちゃんと、僕を見て」
ぎゅっと抱きしめられる力強さに、どこか安心感を覚えるのは何故だろう。
不思議に思ってそっと目線を上げると、泣き笑いみたいな顔をした男の表情があった。
「そんな顔してもダメだよ。僕にはただ――――優しくして欲しいってしか聞こえない」
何言ってんの…?
俺は、ただ――――
「ったく、可愛い顔して、意外と意地っ張りなんだから。そーゆーとこ、昔から全然変わってないね」
は…?
アンタとは去年からの付き合いだけど。
ぼんやりとした頭でそう心の中でぼやくと、何故か答えはすぐに返ってくる。
「好きだよ、凛」
唐突に贈られる言葉は、まるで蜜のよう。
「ずっと、キミだけを」
どこか耳に馴染む美声が、俺の思考を鈍らせていく。
甘く、緩やかに、けれど確実に大切なものを奪っていく感覚がした。
「だから、」
「ぃや、だっ!」
頭の中を警戒するように鐘が鳴り響く。
その先を聞いてはいけないような気がして。
聞いてしまったら、それが最後のような予感がして。
けれど。
必死の静止も虚しく、俺の胸を貫いていく。
「だから、アイツの存在は今すぐ忘れなさい」
発せられた言葉と共に、どこかでガラスの割れる音がした。
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現在、復帰に向けて準備中でございます。
すんごい微妙なところで止まってて申し訳ないです。
気がとっても長い読者様に、最大の感謝を申し上げます。
重ねて御礼申し上げます。