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第十三話


 目が覚めると、そこは見覚えのある景色だった。

 ここはどこだろう、と辺りを見回すと、そこはかつて祖母と暮らしていた田舎にある山の中だった。

 何故ここにいるのだろうかと思っていると、大きな樹の幹に(うずくま)る幼い自分の姿を見つけた。


(あぁ、これは夢なんだ…)


 どこか遠くを見るように自分の姿を見つめながら、その時のことを思い出した。

 両親がある日突然、いなくなってしまったあの日。

 一人残されてしまった凛を、祖母以外は誰も引き取りたがらなかった。

 幼いながらも周囲の感情に敏かった凛は、『老いた祖母に預けるなんてとんでもない』と言う大人たちの裏事情に気付いていた。

 それでも頑として自分を育てると言う祖母の気持ちは嬉しくはあったが、自分のせいで大好きな祖母が欲に(まみ)れた大人たちに酷いことを言われるのが嫌だった。


『どうして、おれだけがいるんだよ…?』


 自分さえいなければと思い山の中へと逃げ出した。けれど小さな足では頂上まで登りきることが出来ず、程よい平面に大きく(そび)え立つ樹を見つけてそこに身を寄せていた。


『何をしている?』


 ふいに頭上から落とされた声に驚き、小さな凛は反射的に顔を上げると、そこには背の高い銀色の髪をした大人が立っていた。

 容姿は見たこともないほど美しく整っており、色の違う双眸がこちらを見つめている。


『ここは私の領地だ。お前は何故この場所におるのだ?』


 冷たく問いかけてくる声は無機質で、けれど何処にも敵意を感じられない。

 直感的に敵ではないと感じた凛は、真っ直ぐにその人を見つめ返した。


『おれのいばしょが、ないから…』


 凛が答えると、その人は怪訝そうな顔をして続きを促してくる。

 なんとなく、この綺麗な人は自分の話を聞いてくれそうな気がして、小さな胸に秘めていた思いを零してしまった。


『おとーさんとおかーさんがきえちゃったんだ。ばーちゃんがおれとくらそうって、言ってくれたけど、まわりのおとながメーワクになるからダメだって…。シセツってところか、おかねがあればオバさんちでもイイって言ってた…』


 自分で言っていて思わず涙ぐむ。けれど、最後まで言わなくちゃいけないような気がしていた。


『おれもそうしたほーがイイって、おもったんだ。だけど……』

『だけど、なんだ?』

『ひとりは、さみしいからイヤなんだ……』


「だからココにきたんだ」と言って、胸元のシャツをぎゅうっと握り締めた。

 怒られると思ってこれからどうしようか悩んだ。

 不慣れな村で行ける場所はこの山だけ。山を降りれば大人たちに見つかってしまうし、かと言って村に降りずにこの山以外の場所へ行くことは難しかった。


『ココは、さみしくないのか?』


 ふいに問いかけられた意味がすぐには理解出来なかった。この場所にいたのは偶然だった。ただ、以前両親と登ったことのある山にもう一度来たかっただけなのだから。

 途中で道を間違えていたかもしれないと不安になっていた時に、この樹を見つけた。


『…なんかね、このき、あったかいんだ』

『暖かい?』

『うん…。おれ、まえにきたときはなかったとおもうんだけど、このきをみつけたとき、ちょっとうれしかったんだ。このきがね、おれもさみしいって、言ったようなきがしたから』

『…お前は本当に不思議なヤツだな』


 その人はくつくつと笑って、小さな凛の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。


『いたっ、なにすんだよぅ』


 ぶーっと文句を言うと、尚もその人は楽しそうに微笑み、今度はもう少し優しく髪を撫でてくれる。


『くくくっ、気が変わったわ。お前だけは特別に、私の領地へ足を踏み入れることを許可してやろう』

『…? りょーち? きょか?』


 難しい言葉が並び、まだ幼い凛には理解出来なかった。けれど、怒っている様子はないので、きっとここにいても良いのだろうと思った。


『ねえ、おにーさん? おねーさん? どっちかわかんないけど、おなまえは? おれはりん。 おうみ りん。おとこだよ』

『……リン。良い響きの名だな。私の名は――――――シュトッツェルドラン・アーク・フェルーナだ。私には正確な性別などはない。だが、強いて言うのなら、男になるな』

『しゅと……らん……なんとか? おにーさんなの?』

『シュトッツェルドランだ。まあ良い。お前には特別に私の名をその身に宿すことを許そう』

『うう~ん? ながくてむつかしーなまえだなぁ。シューランってよんでもいい? おれといっしょで、どっちにもきこえるから』

『くくっ、そうだな。お前と一緒か。シューラン…中々良い愛称だ。私に愛称を付けるものなどお前くらいなものだ』


 シューランは嬉しそうに不思議な色の瞳を細めると、小さな手を取って自分の大きなそれと重ね、凛の胸元へと導いた。


『我、シュトッツェルドラン・アーク・フェルーナの名において命ず。この者に我の真名を宿し、いつ如何なる時にもその名において我を召喚することを許す』


 シューランが何事かを囁くと、急に触れられた箇所が暖かくなって輝いた。


『うわっ、なんだよこれ!?』


 驚いて光を感じたところを見つめると、心臓の辺りに小さな痣のようなものが出来ている。一瞬だけチクリとして痛みを感じたけれど、次に見た瞬間にはその痣はどこにも無くなっていた。


『うわーすげーっ。シューラン、なにしたの?』

『魂の誓約だ。これで私はいつでもお前が何処にいるのか分かるし、お前が何をしているのかも大体分かるようになった。その代わり、お前はいつでも私の名を呼べば、お前の傍に呼ぶことが出来る』

『うん…? おれにはシューランのこと、わかんないの?』

『お前がもう少し大人になれば出来なくもないが……まあ、ようするに、私の名を呼べばすぐにお前の元へ来るということだ』

『ホントウっ!? じゃあ…じゃあ、おれ、たくさんシューランにあいたいっ』

『かまわぬ。けれど、この誓約は私の真名でないとならぬのだぞ?』

『しんみょーって…さっきのながい、アレ?』

『そうだ』

『えぇ~…、おれにはちょっと、むり。じゃあっ、またココにきてもいいっ!?』

『くくっ、お前が大人になるまでは無理か。ならば、いつでも来ると良い。私はしばらく、ココに滞在しているからな』

『やったっ。シューラン、ありがとう!!』


 満面の笑みで抱きついて礼を言うと、シューランは驚いたように双眸を見開いた。なんで? と思っていると、やがて戸惑いながらも優しく抱きしめ返してくれるのを感じた。

 凛はもっと嬉しくなって、最上の笑みをシューランに向けていた。




「シューラン…」


 この時確かに、自分は幸せだった。

 寂しくて、祖母を苦しめたくなくて、でもどうしようも無かった幼い自分を救ってくれた手。

 結局祖母は周囲の反対を押し切って、自分を育ててくれたけれど、無理が祟って数ヶ後には亡くなってしまった。

 その後、時を同じくしてシューランとも会えなくなって、東京の伯母の下へと預けられた。

 中学までの生活費のほとんどは両親と祖母の残してくれたもので補ったけれど、伯母の家に養育費として奪われてしまったものの方が多かった。

 学費だけはどうしても桜華学院に行きたくて贅沢してしまったけれど、それ以外は全てバイト代で補うようになった。けれどそれはお金が足りないだけでなく、単に寂しいからあの家にいたくないだけだった。

 伯母の家では自分は――――いないも同然の存在なのだから。


「俺にはもう、シューランしかいないんだよ……」


 それなのに、あの人にとって自分は…必要のない存在なのかもしれない。


「シュトッツェルドラン・アーク・フェルーナ…」


 今その名を口にしても約束通り現れてはくれない絶望に、涙を抑えることなど出来るはずが無かった。




お待たせ致しました。ようやく全体が何となく書けてきたような気がします。クオリティーが低くてすみません。。。誤字脱字・ご意見・評価、どうぞよろしくお願い致します。また、活動報告にも記載致しましたが、前作「chronos」の移行が完了次第、こちらの作品もムーンライトノベルの方へ移行する予定です。読者様の年齢層が分からないので…。もし、18歳未満の読者様がいらっしゃるようでしたら、性描写無しで進めたものをこちらに投稿したいと思います。 早く更新しないと…っ、といつも思ってはいるので(実行出来てなくてすみません。。。orz)、今後ともどうぞよろしくお願い申し上げますm(_ _)m

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