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第十話


短めです。



全てが暗闇に閉ざされていた彼を救ってくれたのは、小さな手だった。

深い闇と孤独に包まれ、常に生死の境を彷徨(さまよ)っていた彼に差し出されたひとつの光。

淡くて(もろ)く、あまりにも頼りないその輝きは、その儚さとは裏腹にとても温かなものであった。

決して知ることの無かったその柔らかい光と温度。

彼にとって、人など自らが生き延びるための(かて)でしかなかったはずなのに。

皮肉にも、その手は光であると同時に己を切り裂く刃でもあった。


呪われた血を受け継ぐ彼は、人の生気を摂取しなければ生きられぬ身体であった。

本来、彼らの一族は不老不死に近い長命な種族であり、他者に頼らなくともその強い生命力だけで生存し、美麗な姿を保つことが出来る。

一族によっては多少は異なるが、基本的には同族同士で繁殖を繰り返し、その稀なる血族を守りながら繁栄してきた。

絶対個数があまり増えないのは長命であるがために子が出来にくいという弊害(デメリット)があるからだ。

それゆえ、異種間の交わりを強く禁じていた。

しかし長い歴史の中で掟を破ったものが過去に2度。

いずれも同じ一族の者であった。

一度目は永久に一族の屋敷内で幽閉とされ人間の記憶を消すことで不問とした。二度目は両者とも消滅(・・)させることで、二度とこのような惨事が起きぬよう処置が行われていた。

しかし、半分だけとは言え絶対的な力を持った魔女の子は、種族の中でも歴史が長く高位の一族でもあり、その絶大な能力と権力を惜しまれて生き延びることを許されていた。

通常の半分ほどしか生きることを許されていない彼は、暗い牢とも言える屋敷の中で一人…ただそこに存在しているだけであった。

常に監視者に見張られ、ろくな自由もない虚無の時間。

己を知るものなどほとんどなく、無意味に長い空虚な時間をただ流れのままに過ごし、いずれは消え行く存在であると彼自身何の疑いもなく当たり前のように受け止めていた。

それなのに。


「なぜなのだ……」


知ってしまった(きぼう)

知らぬのなら、知らないままでいたかったのに。

この世界に生を受けてから一度も動くことの無かった心を狂わすその存在を、幾度消してしまいたいと願ったことか。

そして運命のままに己の存在が消滅してしまえばいいと、どれほど想ったことか。

忘れたままでいて欲しいと願いながら、心のどこかで己を求めて欲しいという矛盾。

(あやかし)である己がそのようなことを想うこと自体、間違っていると彼自身分かりきっていることなのに、それでも止めることなど出来ようはずもなかった。


「なぜ、思い出そうとするのだ…」


やめてくれ、と小さく零した言葉は、闇の中へとあっけなく消え去っていく。

強大な暗黒の前では、ほんの小さな(あかり)など簡単に飲み込まれてしまうのに。

それでも捨て去り切れない深い想い。

己を求めるその声に、幾度慰められたことか彼自身知る由も無かった。

ただ、本能のままに人を食らう獣のままでいたかった。

そうすれば…己が醜いことにさえ、気づくこともなかったのに…―――――


「約束は、決して果たされてはならぬのだ…」


刻々と迫り来る死神の足音。

もうすぐ時を終わらせる大鎌は振り下ろされる。

その瞬間(とき)が訪れるまでは、どうか――――――――



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