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序章

子供のころ、何の疑いもなく信じていたんだ。

ただただ、純粋にそうであると思ってた。



透き通るような銀の長い髪。

キラキラしていてとても綺麗だと思った。

小さな手を伸ばしてそれに触れようとすると、その人(・・・)は優しく微笑んでくれた。

触りやすいようにしゃがみ込んで、代わりに頭を撫でられる。


触ってしまったら()けて無くなっちゃいそうだったけど、好奇心に勝てずに恐る恐る触れてみた。

けれどあまりのなめらかさにすぐに手の中から滑り落ちてしまう。

何度掴んでみようと思っても、やっぱりスルリと零れ落ちていく。

ムキになって挑む自分を見て、その人は可笑(おか)しそうに笑った。


「お前はバカだな」


くつくつと妖艶に微笑みながら頭の上に乗せた手でグリグリとかき混ぜる。

母親譲りらしいぬばたまの黒髪がぴょこぴょこと跳ねてその人の指先をくすぐった。


「おれは違うもん。バカって言ったやつがバカなんだよっ」


ちょいちょい悪戯するその大きな手のひらを払いのけようとするが、オトナとコドモほどの体格差から良い様に遊ばれてしまうだけだった。

ひとしきり駆け引きにもならないやりとりを楽しむと、やんわりと手を離して立ち上がった。


「あれ?どこか行くの?」

「もう日が暮れる。ココは夜になると危ない。おうちへお帰り」

「やだっ。もっと―――と一緒にいたいよ!おれ、―――のこと好きだもん!!」

「ふふ…困ったヤツだな。いつか、お前も私のことを忘れてしまうのに」

「そんなことない!だって、―――はこんなにキレーだし、いつもおれと遊んでくれてるじゃん。おれ、友達のことわすれたりなんてしない」


どうしてそんなことを言うのだろうか。

自分にとって、この人は大切な存在だと思っているのに。

それともコドモだから相手にしてもらえないのだろうか…。

どうすればこの人の一番になれる?

何をすれば、ずっとずっと一緒にいてくれるんだろう?

そういえば…とひとつだけ思いついた。


「ね、『やくそく』しよっ。ずっとずっと、えいえんに一緒にいられる『やくそく』」

「永遠に?」

「うん。おれはずっと―――が好きだもん。もしもオトナになって…ゼッタイありえないけど、それでももしも…おれがわすれちゃってても、また思い出せるように」

「お前が大人になっても、か…」

「…おれ、オトナになったら―――の一番になりたい。今はまだコドモだから、―――は相手にしてくれないのかもしれないけど、オトナになったらもっかいチャレンジする。そんで、『お前が私のイチバンだ』って言わせるんだ。そうしたら、ずっとわすれないでしょ?」

「くく…面白いやつだな、お前は。どうしたら私がそれを言ったらお前は忘れないってことになるんだ?」


まるで夢物語のようにまるきり話を信じてくれず、その人は不思議そうに聞いた。

(おれはホンキなのに)

自分の気持ちがまるで伝わっていなくて悲しくなる。

忘れてしまうのは最早決定事項になっていて、全然信じてくれない。

この人がそうまで言うのなら、もしかしたら自分は本当に忘れてしまうのかもしれない。

だけど、どうしても忘れたりなんてしたくなかった。

もしも忘れてしまっても、絶対に思い出したかった。

(この人の、イチバンになりたいんだもん…っ。)

自分がそうであるように、この人にも自分のことを好きになって欲しかった。

友達だと思って欲しかったんだ。


「おれ、はくじょーじゃないもん。むしろ、あいじょーたっぷりあるほうなんだ。だから、―――に『イチバンだ』って言われたらうれしくてないちゃうし、ゼッタイにわすれらんない。いっしょーかけてちかってもいいよ。―――のイチバンになれたらケッコンしてもいい。ほかのヤツなんてどーでもよくなっちゃうよ。だれかのイチバンになるって、それっくらいスゴイことでしょ?」


最近聞いたばかりの言葉を並べて、精一杯にこの人の気を留めようと必死になる。

本当の意味はまだよく分かっていなかったけれど、『ケッコン』すれば『いっしょー』一緒にいるってことだけはなんとなく分かってた。

『いっしょー』の意味が分かんなかったけど、たぶんずっとずっと、長い時間を一緒にいられることなんだって思ったから。

その人はぽかんと少し呆けているようだった。

もしかしたら何処かオカシな言葉を使ってしまったのかもしれない。

どうしよ、と思うも、これ以上どう言えばいいのか分からない。

流れるような白銀の髪と全てを見透かすような左右色の違う瞳。

海のような碧い瞳と焔のような紅い瞳を見上げると、そのふたつが思案するように少しだけ伏せられるがすぐに真っ直ぐ見つめてくる。

見たこともないほど真剣な眼差しを向けられて、ちょっとだけ怖くなった。

(怒ったのかな…)

我侭ばかり言ったから、嫌いになってしまったのかもしれない。

ただ、自分のことを好きになって欲しかっただけなのに。

不安になってその端整な顔を見つめると、その人は射抜くような視線のままそっと自分の頬を撫でた。


「お前が私の一番になってしまったら、困るのはお前の方なのに…」

「なんでそうゆーコトいうんだよっ。おれのこと、そんなにキライだったのかっ?」

「そうではない。お前が嫌いだとかそういうことなのではなくて……ただ、私は―――――なんだ。お前と共に生きるには、支払う代償が大きすぎる」


苦しげに告げられた言葉が上手く聞き取れない。

シハラウとかダイショーとかって言葉の意味も分かんないし。

ただ、その表情からスッゴク大変なことなんだってことだけは分かった。

だけど、それでも。


「―――の言ってるいみがよくわかんないけど、それでもいいよ。おれ、いのちと―――のこと以外だったらなんでもあげるよ」

「本当に…?」

「オトコにニゴンはないっ」

「ふふ…そうか、小さくともお前も立派な男だったのだな。分かった、約束しよう。お前が大人になって、それでも私のことを思い出すことが出来たのならば、お前に私の一番をあげよう」

「ホントウ!?」


約束すると言われてテンションが舞い上がる。

ゼッタイにわすれたりしないもん…っ。

半ば意地みたいになりながら心の中で再度決心した。


「もちろん。ただし…」

「ただし?」

「お前が十七を迎える(とき)までだ。それを過ぎたら、私はお前に関する一切のことを忘れよう。それでもいいのか…?」

「じゅーしちって…なんでそんなちゅーとはんぱなんだ…?はたちとかのほーがキリがいいのに」

「だめだ。1秒たりともまけてなどやらぬ」

「けちー」

「私はケチなどではないっ。それ以上我侭を言うのなら約束などしてやらんぞっ!」

「あああぁぁ~~~っ!!!ごめんなさいっっっ、いいよそれでっ!!!!」

「ふん、最初から素直に頷けば良いのだ」


そっけなく言うけれど、まんざらでもない様な顔でニヤリと笑みを浮かべている。

やっぱりコドモの自分では、この人に良い様にあしらわれてしまう。

いつか、オトナになったら。

ココロの中で強く誓った。


「ね、『やくそく』のちかいしよっ」

「誓い?どうしたいのだ」

「ちょっとこっち来て」


ちょいちょいっと手招きをして顔寄せてもらうと、その頬にちゅっと口付けをした。

するとびっくりしたように双眸(そうぼう)を大きく開いて瞬かせている。

しばらくすると、プッと零れるように笑われてしまった。


「なんでわらうんだよーっ」

「くく…っ、いや、お前らしいなと思ってな」


尚も笑い続けるこの人に、なんだか悔しさを感じる。

まぁでも、約束してくれたのだから良しとしよう。


「ね、おれにもして」

「なぜだ?」

「だっておたがいにちかいあわなくちゃ、やくそくにならないじゃん」

「あぁ、そうか」


その人は両の手で幼い顔を包み込むと、そっと柔らかい唇に口付けを交わした。

なんでほっぺたじゃないの…?

ちゃんと同じようにしてくれなかったことがちょっぴり気に入らないけれど、触れられた部分が柔らかくて少し冷たかった。

恥ずかしかったけれど、それでも今までよりもずっと距離が近づいた感じがして嬉しくなった。


「約束、だな」

「やくそく、だよ」



もう一度念を押すように約束をしてから別れ、次の日にまた訪れるけれど、そこにはあったハズのものが何も無かった。

あの人の家も、二人で過ごした大きな1本の桜の木も―――あの人自身も。


苦しくて悲しくて、その日はずっとその場所で途方に暮れていた。

それまでの日々がまるで夢であったかのようにボロボロと崩れ落ちていく。

幼い心に残された大きな傷。

しばらくは自分がどうしていたのかそこだけは今でも思い出せなかった。



―――そうして俺は、あの人との記憶を失ってしまった。





新システム移行時に一部文字変換が違ってしまっていたため修正しましたが、内容に変更はありません。

すべて修正したつもりではありますが、誤字・脱字など、おかしな部分がありましたら教えていただけると助かります。

それとは関係なく、評価・感想いただけたらめっちゃ嬉しいです(^^)

どうぞ宜しくお願い致しますm(_ _)m



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