表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サザンクロスの花束を  作者: かのえらな
プロローグ【重い思い出】
9/13

本音とメロンソーダ


「もうっ!広瀬さんったらここガフトだよー?探すほど広くないよー」


 満面の笑みで彼女―――広瀬にツッコミを入れる蒼汰だが、

彼女は蒼汰を全く見ずに目線はこちらを一点に見つめていた。


「紹介するよ!さっき食堂で知り合った広瀬さん」


「ご挨拶するのは初めてだよね?広瀬です。名前は知ってるよね?」


広瀬千柑のオレンジのシャーリングトップスに、ステッチワイドストレートジーンズを合わせた

爽やかな恰好だが言葉は重みを感じ爽やかさはない。



「いや、どうかな・・・有名人だったら名前くらい聞いたことあるかも・・・」



「馬鹿野郎め!広瀬さんはなぁ!1年生の時ミスキャンパスに選ばれた大学の顔だぞ!

知らないとはそれでもお前は男か!」



まるで我がもののような顔で怒る蒼汰の横に断りもなく黙って座る広瀬

確かに蒼汰と比べても顔が小さく整っている端整な立ち

それでいて童顔なのか目も大きく吸い込まれそうな瞳をしている。

大学の顔と言われるのもなんの違和感もない美人だ。


「で、なんでお前がお前が偉そうなんだよ・・・」


「それがな、この俺をわざわざ探してごはん一緒に食べようと誘われたんだ。

本当は広瀬さんと二人で食べようかって話したんだけどよお

お前と約束してるって言ったらじゃあ三人でって話になってな、

彼女と俺のやさしさにありがたく思えよ」



『完全に利用されているぞ蒼汰・・・お前は俺を探す足がかりにされているだけだッ』



「そんなことよりさ、食堂に来る前に蒼汰君以外に誰かと話した?」


偉そうに腕を組む蒼汰を押しのけるようにずいっとテーブルに着いた肘を前に身を乗り出す

大きいわけではないがそこまで前かがみにされると胸を強調されているようで目のやろどころに困る。


「いや、誰とも話してないけど。なんなら旧図書室でアラームで起きてすぐ電話したから今日は誰とも話してないし、誰の声も聞いてないなあ」


「へぇ。そうなんだ、よかったあ」


まるでカエルを捕食する前の蛇のようにシュルリと顎を引き背もたれに肩を掛けた


『まさか自分がこの話を誰かにしていたら自分以外にも消される?

ならいっそのこと蒼汰を道づれに・・・』



彼女はそれ以上何か言ってくることはなかったがまるで脳内に聞こえてくるような目つきでこちらに微笑み


『よかった。消さなきゃいけない人が増えちゃうかと思った』


という音声が脳内で自動生成されていた。


「お、俺も水持ってくるよ・・・二人はメニューでも見て待ってて。」


すっと腰をずらし席を立とうとした瞬間だった。



――ダンッ!


立ち上がる自分の足がテーブルの下で何か細いもに静止させられる。


この位置、まぎれもなく広瀬の足だ。

お前は逃がさんとする強い意志を感じる



「ん?どうした樺月・・・俺メロンソーダでいいぞ」



「私が持ってくるよ蒼汰君、樺月君だっけ?手は人間には二つしかないもんね」


「なんて気配りができる子なんだ・・・じゃ。氷なしでお願いしてもいいかな?」



大人が夜のこじゃれたバーで度数の強いカクテルを頼む風にかっこつけてるところがあほ丸出し過ぎて助船を出すどころではない


それと広瀬という女、愛想よく振りまいてるように見えるが完全に暗殺者の顔をしている。

手はふたつって何!人間じゃないような形体に変えられるってこと?


「樺月」


「なんだよ蒼汰、あとその顔やめろ」



「広瀬ちゃんに手、出すなよ?」


出さないよ!むしろ出されそうなのこっちだからね、手なくなるかもだからね!


なんて言ったら様子を見ている広瀬がどんな行動をしてくるかわからない。


「め、メロンソーダね。了解。」


ドリンクバーまでの目と鼻の先なのにこんなにも遠いのかと感じるほど後ろを歩く広瀬の気配が詰めてくあ

おどろおどろしい



氷を入れるようとついに並んでしまった


「どっから聞いてたの?」


声のトーンは先ほどの明るい広瀬と変わらない


「え、何の話」―――


なんてすっとぼけは二度も通じるわけがないとわかっているため返事は出来ない。


「聞いててどんな気持ちだった?」


「・・・」


「馬鹿な女だって思った?」


変わらず明るい声で一人話す彼女はどこか他人ごとのように聞こえた


そんなことはない。


そう思い口にしようとするころには

彼女はメロンソーダとアイスティーをグラスに注ぎその表情を見ることもかなわず席に戻って行ってしまった。


―――「そんでさ俺が一生懸命話してるのに樺月はぜんz」


注文通り届いたハンバーグ三品を前にしながら話が止まらない蒼汰

自分はそそくさと箸を手に取り食べはじめる

いつもと同じような食事風景だが今日は蒼汰の隣に美人が座っている

実のない話でもうんうんとうなずきながら広瀬は蒼汰の話を聞いていた


『きっといい子なんだろうな』



「そんで樺月の前の彼女がさ・・・あ、この話はまずかったか・・・」


快速電車のようにノンストップで話す樺月だったが停車駅に着いたように失速し、沈黙する



「いや、いいよ。笑い話だ」


実際人に話されて気持ちがいい話でない

でも人の弱いところを盗み見見た自分に負い目とさっきの広瀬の言葉に。自分の失恋も興味あるなしにかかわらず話すべきだと思った。


「でも俺講義まだ残ってるしちょっと戻るわ。二人とも食べてて会計は済ませとく」


「悪かったよこの話はしないよ!」


立ち上がり会計伝票を手に取ると慌てて立ち上がり蒼汰が止めに入る


「いや、本当に講義あるから戻るんだよ」


実際に講義が残っているし、別に嫌な気分になったわけでもないから

笑いながらなだめるように蒼汰の両肩を席に沈める


さっきの話が気になるのか広瀬は自分たちのやり取りをアイスティーを飲みながら傍観していた。


「広瀬さんだっけ?。コイツ悪い奴じゃないしちょっとのことじゃ動じないから適当なタイミングで帰っていいから、気使わないでね」


蒼汰の眉をおでご一杯にあげ不満そうにする変顔を無視し席を離れ、会計を済ましレシートにさっくり目を通しながら

外に出た


「ハンバーグだけだって行ったのにドリンクバー三人分もおごらせれたな」





時計の短針は下に下がり始め、外は薄暗さと遠くの夕日で陰りを見せていた。


「五月になるとはいえまだ夜は肌寒いな」


日中の服装で出歩くには動きやすい薄めのパーカーだがこの時間にもなると少し物足りない


街灯も多く並び他の町中で見る光より少し明るい。防犯対策なんか資金が潤ってるから電気量でもあげているのかちょっと考えるが面倒くさくてすぐやめた。


まだ講義をしているところもあって窓の明かりもあってより少し活気づいて見える。


「ちょっといい?」


待ち伏せをしていたのか館内をですぐの街灯の下で声をかけていたのは広瀬千柑

街灯にもたれかかり背を斜めに預け腕組にケータイをいじっている


「今日の一件で終わらないとは思っていたがまさか待ち伏せしていたとは・・・」


「勘違いしないで!今日の一件のことでまだ話があるだけだから!」



剣幕に肩にかかった茶色の髪がふわっと広がる



「正直悪かったと思ってる。ごめん。でもハンバーグおごったし俺の失恋話も聞いてお相子ってことにできないかな」

「ヘッションッ!!」


返答はくしゃみ


「寒いなら場所変えるけど」


「余計なお世話よ覗き魔が」


ガフトにいたときは蒼汰がいた手前怒りをあらわにしていなかったが

こうして言われるに怒っているなんなら嫌われてる


「覗き魔っていうのやめてくれ。だから悪かったって」


「絶対許さない。あんたみたいな恋愛対象にもならないような男に私の一世一代の賭けを見られて・・・」


照明越しにわかる彼女のうるんだ瞳、罪悪感がより増していく

自分からしたらなんてことないことかもしれない。

でももし自分のせいいっぱいの何かが見知らぬ誰かに見られ陰で笑われていたりどこかに広められていらと思うとぞっとする。


「わかったよ!おれにできることがあれば何でもするよ」


こんなこと言っても彼女の傷は癒えないしできることなんて限られているかもしれない


「何でも?」


彼女はうつむき前髪で表情を落とす


「できる範囲なら・・・」


勢いで行ってしまった。


「どんなことでも?」


「危ないのと、痛いの以外なら・・・」


「・・・じゃあ付き合って!」


問答が続き最後は顔を上げると同時に決意の瞳がはっきりと光った


「えっ?それって」


ただならぬ覚悟に二つ返事するわけにはいかない

そう直感が知らせるほどに彼女は真剣な表情だった


「私、好きなの・・・ほとんど会話もしてないし。軽い女って思うかもしれないけど見た時から

、あ、この人とかもって思って気付いたらいっつも探しちゃってて―――」


「ちょ、ちょっと待って、だって今日あんなことがあったばかりだよ?」


顔を赤らめマシンガンのように口調が早口になる広瀬を静止にかかる


「確かに今日は色々あって気が動転してるのかもしれない。でもあんたのこと待ってる間ずっと考えてて

やっぱり私はこの人が好きってなってそしたら時間もあっという間に過ぎて、こんなこと頼み感覚でお願いするのって違うかもしれないけど私は本気だし、あんたに嫌われてでもこのチャンスは逃しちゃいけないって思ってそれで―――」

「わかったわかった。広瀬の気持ちは分かったよ。でもことには順序ってものもあるし

連絡先も交換してないし」


「はい!これあたしの連絡先、登録して?」


彼女はオレンジ色のスマホカバーのケータイを差し出し連絡先差し出してきた

彼女の童女のような嬉しそうな笑顔に思わず見入ってしまう


「登録はしたけど、友達になるとこから始めてみない?ちょっと情報の整理が追い付かないよ」


正直彼女はかわしい、昼間に蒼汰も言っていたがミスキャンパスに選ばれたというのも納得の可愛らしさだそれはさっきの笑顔で確信した。


「そうね確かに軽率だったわ、でもこれでいつでも連絡取れるしわからないことは聞けるわ」



「知っていくことは大切だよね。俺も広瀬のこと知っていけたらなとは思う」



「いや、別に私のことは知る必要ないけど・・・」


「いやこういうのってお互いを知っていくのが大切だろ。俺も・・・未練とかあるし」


そうだ、自分にはまだ好きな人がいるさんざん言われてもそれでも一緒にいたときの思い出がいろあせないほどに好きな子が


「私たちお互いを知ることはないと思うわ、あんたは私に服従さえしてくれればそれでいい!」


「ふ服従?そういう恋愛関係は・・・ヒフティな関係がいいんだけど」


「恋愛関係?」


さっきまでの赤面した可愛らしい顔どこえやら当惑の眉を顰める


「え、誰と誰が?」


「俺と広瀬が」



その言葉の瞬間彼女は忍者のような身のこなしで俊敏なバックステップを踏むと自らの両肩を力いっぱい抱きしめ震えながら樺月を虫が口に入った後のような顔で責め立てた


「はああ!?キモッ!!意味が分からない!キモい!何をどう解釈したら自分にこの短期間っで好意を寄せられているって勘違いできるの?それだけ自分に魅力があるっておもってるってこと?馬鹿なの!?信じられない、ありえないどういう脳の構造してるの?。」


罵声に次ぐ罵声キモイは言い過ぎではないか


「え。だって付き合っていうから!」

「それは私の恋路を手助けしてって意味!今日の告白聞いてたんだから普通わかるでしょ!」


「じゃあ手助けしてって初めから言ってよ!」


「いやよ!あんたなんかに助けを乞うなんて恥ずかしいこと言えないわよ。

ていうか何、広瀬って!?急に呼び捨て?彼氏気取り?ほんと無理!きもい!」


「じゃあ何かい!今日散々フラれた男がまだ好きであきらめられなくてその恋を手伝えってことか!?」


自分の勘違いで変な話に進めてしまった恥ずかしさでむきになって嫌味をいってしまった


「・・・そうよ・・・そのとおりよ」


さらに非難の声が返ってくると思ったが帰ってきたのはしおらしい声


「え、本当に?」


「彼、大和やまとっていうんだけど。私ひとめぼれで、最初は気になるくらいだったんだけど

一年生の時体育祭で彼が走ってる姿見てすごいかっこよくて、そのあとの体育祭打ち上げの飲み会の席で私、知らない先輩に絡まれちゃって、そのとき助けてもらってそれからずっと・・・」


広瀬はおろおろと街灯そばのベンチに力なく腰かけた。


「話したこともなかったのか?」


「うん。彼いつも友達に囲まれてる人気者で話すタイミングもなくて飲み会以来話すのは今日が初めて・・・」


すっかりしおらしくなり、辺りは暗くなっりうなだれる彼女の表情は街灯の影に全く見えない


「それだけ好きな人で大事な恋なのになんで俺なんかに。男友達なんて他にいるだろ」


「あんたも私と一緒だと思ったから」


「え?」


広瀬は再び顔を上げた。肩の荷が下りたようなリラックスした顔で彼女は続けた


「蒼汰君から聞いたわ・・・あんたフラれた前の彼女に未練があるんでしょ」


「ああ。まだ好きなんだ。もう壊滅的だけど」


隣に座るが先ほどまでの軽蔑的行動はされなかった


「付き合ってあげる。あんたがもう一回告白できるまで」


「そこはよりを戻すまでじゃないのか」


「そんなの叶えられるかわからないじゃない。・・・だからあたしの恋にも付き合って。

無事につきあえるように」


顔をあげこちらを向いた彼女は真剣だった。まっすぐな瞳でとても冗談を言っているようには見えなかった



「割に合わないのでは?俺はそっちが誰かさんと付き合えるまでなんだろ?


「そこはほら覗きの一件があるから!」


逆らえまいと、あきらめ交じりため息をつく


「蒼汰に聞いたんだろ俺のこと」


「飲み会で遭遇して話したってとこまでは」


「馬鹿にしないのか?」


「しないわ」


彼女の返答は即答だった


「あんたは覗きはするし、意味わからない勘違いするしそういう意味では馬鹿だなって思うけど

その恋は本物だと思うし素敵だと思うし、正直笑っちゃうほどうらやましい。多分私だったら、付き合えて一緒にいられた上でフラれた恋なら、きっとあきらめちゃう。こんなに尽くして、こんなに好きって伝えてるのにダメなんだってどこかで区切りつけちゃうと思うから」


「広瀬さん・・・」


「広瀬でいいよ、言い方戻されもキモちわるいし。私は自分の納得いかない気持ちに決着つけたい。たとえこの恋がどう転んでも。だからそのわがままに付き合って。代わりに私もあんたの恋に決着がつくまで付き合ってあげるから」


そういうと立ち上がり大きく伸びをした


「広瀬って意外と真面目なんだな」



自分も立ち上がる

彼女は 二歩 三歩き 


欠けた淡月を背に半身だけ翻し振り向き恐れを知らない童女のように笑って見せた




「馬鹿な女とでも思った?」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ