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サザンクロスの花束を  作者: かのえらな
プロローグ【重い思い出】
7/13

白い夜

「ごめん。ちょっと場所変えたい。歩ける?」


 樺月は思考が全く追いつかないまま背後の電柱と同化してしまっていた。


 誰がどう見ても美人な女性が、彼女いない歴=年齢の自分に話しかけてくれている。

それも飲み会の場でも全然話せていないような男にだ。



「もしかして誰かに言われた・・・?」


 『最悪だー。飲み会で介抱役をさせられたことがあったが

あれは友達だから付き合うわけであって、初対面の異性にしてもらうようなものではない。

そんな面倒を押し付けられたりでもしたら。それはもう罰ゲーム以外の何物でもないぞ。』


 彼女はもしかしたらカラオケに行きたかったのかもしれない。

それを酔っぱらった男の介抱役にさせられ、その上実は酔ったと嘘をついて帰ろうとしている空気読めない男でしたーなんてことを知られた日には絶望でしかない。


「ほんと最低!嘘つきゴミ男」


 彼女の言われもない勝手な妄想の一言が脳裏に響く。

しかし彼女からの返事は思いのほか質素に軽いものだった。


「言われてないわ、私も帰り道こっちだし、明日1限目からあるから帰ろうと思ってて

そしたらあなたが居たから。」


「そ、そうなんだ。俺は大丈夫!、全然大丈夫。全然歩けるし、ちょっと休憩してただけ。」


 今日はとことんついてない日だ。

これだけ踏んだり蹴ったりな一日の最後に初対面の子を巻き込むわけにはいかない。

出来る限り笑顔で貞操を装ってみたが、

彼女はこちらの気遣いなど知ったことではないと言わんばかりに顔色一つ変えずこちらに歩み寄ってっきた



「私虫苦手だからとりあえず歩いて」


 旭川は顔色変えず澄ました顔で樺月の手首を掴むと

人さらいのように繁華街のさらに外に招くように引っ張り連れ出された。


腕がまっすぐに張る前に一緒に歩きだす。

暗がりのせいか彼女の細く白い手は時折通る車のライトに照らされて白い服と同じように照らされて

白玉のように可憐に見え

手を引く彼女の後ろ姿は、周りその先の街灯たちがぼやけたレンズの装飾に見えるほど

彼女は美しかった。


隣を歩いて自分を引っ張る理由も聞きたかったが

いまはこのまま少し後ろで歩き揺れる黒髪の雅さと温かく手首に伝わる感触に浸っていたかったから黙って後ろをついて歩いた。



―――――――――



「ここ座って?」


「あ、うん」


急に手首から離れた温かく柔らかい感触が消え、少し名残惜しそうにその抜けていく熱を見つめる。

繁華街を離れ住宅街が側にある歩行者専用道路の舗装された小道にあるベンチに案内された。

街灯もぽつぽつと照らし

小道を覆うように木々が綺麗に並び植えられている。


「お茶でよかった?」


樺月を座らせ、すぐ横の自販機に立ち寄った旭川は

ベンチに座り気まずそうにしている樺月に浅雛は何の躊躇いもなくお茶を差し出した。


「ありがとう。」


その先に言葉を続けることも出来ず、謎の沈黙に耐えられるわけもなくもらった

ペットボトルの封を勢いよく開け一気に飲み干した


『勢いでここまで来てしまったが何を話せばいいんだ!。今日の飲み会の話でもするか。

無理だ!瑠璃音ちゃんの一件で頭いっぱいで飲み会の話なんて何にも覚えてない!。

休日何してるとかありきたりな路線はどうだ。

無理だ・・・もし飲み会中にその話題が出てたら、今日の飲み会聞いてなかったのがバレる

なにをどう話せばいい!』


「吐いちゃった方が楽って聞いたことがある」


沈黙の口火を切ったのは旭川だった。




「実は別に酔ってるわけじゃないんだ。ここまで付き合ってくれてこんなこというのも何なんだけど」



「やっぱり・・・なんとなく知ってた。なんて言っていいかわからないけどそんなに気にしなくていいと思うわ」


気にしなくていい?何のことだ、もしかして今日の元カノとあったこと聞かれていたのか


「え?もしかして聞かれてた?」


「あれだけ大きな声だったら普通に聞こえるよ私も近いところにいたし」


確かに旭川は通路側の席、一番聞こえやすい場所ではある


「これじゃあみんなにも聞こえてたよなぁ気使わせたかなぁ」


大きく沈むようなため息に旭川は小さく首をかしげるだけだった。


「もう修復できそうにないの?」


「見てたんだろ・・・もう粉々、大玉砕、修復なんて無理だよ」


「そう・・・すぐには無理だと思うけど時間がたつと気にならなくなるしあとは慣れが解決してくれるよ


「そうだよな。生きてれば誰もが経験することだしいるまでもうじうじしてられないよな」


当たり障りのない会話、自分ってこんなにも会話が下手な男なんだと再度痛感させられた。


「まあ。いきなりあんな風に言われたら精神的に来るものをあるかもしれないし、たまたま運が悪かっただけってポジティブに考えるしかないんじゃないかしら」



「旭川さんていい人だな、こんな俺をわざわざ励ましてくれて」


「別にいいわよ、ただ私も向かいの席で何も話してあげれなかったし。

ただ自分がよく利用してる店にはいった方がいい

もしかしたら意外と簡単に元に戻せるかも」


「お店なんてもういけないよ。今まで一回も行ったことないし。今更なんて話したらいいか」


「一回も行ったことないの!?。普通に戻したいっていえば話くらい聞いてくれると思うけど。」


「ないよ!全部断られたり理由をつけて今思えばその時からもう終わりかけてたのかも」


「断られるって・・・よっぽどなにか悪いことしたの?普通の店ならそんな対応されないと思うけど」


「普通の店だよ!お茶しながらごはん食べたりできるところ。お話しできるようなとこだったしちゃんと調べたし」


「それって専門のお店じゃないんじゃ・・・」


「専門なんてあるのかよ・・・」


「あるでしょ!むしろいい大人なんだからそれ以外なんてないでしょ行きつくとこなんてむしろそこしかないでしょ!

そこで始まりそこで終わるようなもんでしょ」


『いい大人!?まさかホテルってこと

なんて大胆な女なんだ!やっぱり美人な女は外国のあいさつはハグレベルで

仲直りはホテルでってことなのか!』

 

と一瞬考えるが、そのよこしまとホテルで恥じらう旭川の顔を想像したが

簡単に現実の闇に消えた。


「いやでもそんなところいきなりいって引かれない?」


「今は予約制のとこもあるし、第一お店に入った時点で相手だっておおよそ目的わかってるわけだしすぐに理解してくれるわよ」


「そ、そういうものなのか。みんなそうやって大人の階段へと確かなる一歩を踏み進めていくのか。

でも緊張するな・・・うまくフロントの人と話せるかな」


「簡単よ、要件だけ伝えたら端末に案内してくれるから中にコード挿入してボタン一つで全部消してくれるし、過去のデータも全部消したりできるわ」


「な、中に!?ぼ、ボタン一つ!。そんな簡単に過去の男の記憶を上書きしてしまうほどの快感があるのか?」


「快感かどうかはわからないけど楽よ?、お店で貸してもらえる時もあったりもともと「置いてあったりするから

特別な用意はなくても大丈夫だし」


「用意!?あの振動するやつは見たことあるけど時代は進歩したんだな。ほかに何か相手に用意したり準備してもらうことってあるかな?」


「うーん、とくには、手ぶらで行ってもらったらいいんじゃないかな」


「手ブラ!?」


目をかっぴらきながらも妄想せずにはいられない。瑠璃音の白い柔肌を露わに両手で抱えた姿。


「あ、お金は自分である程度持って行った方がいいと思うけど」


当然だ!。手ブラなんて羞恥プレイを強行したうえでホテルに連れ込み支払いも相手にさせるなんてド畜生の甲斐無しにもほどがある。



「でも本当にそれで元に戻るのかな。余計悪化する気がするんだが・・・」


「さぁ、でも私もダメになったらお店に行くし、どうしても治らないって言われたら最悪乗り換えちゃうし」


「ダメになったらお店!?乗り換える!?そんな簡単に!?」


旭川は清楚系の美人だと思っていたのに、それだけストックが残っていて男に困っていないという事なのか。残機無限なのか・・・


「そんなに驚くこと?まあ初めてなんだったら仕方ないか。」


「自分、もう少し頑張って見るよ。完全に前の状態に戻せるとは思わないけど、」


「大丈夫よ。勇気をもって行ってみて。もしダメって言われたら私にまた相談して」


「え!!?それってどういう・・・」


「そのままの意味。ここまで話きいた以上は乗りかかった船って言葉もあるし。あくまでも行ってみてダメだったらっ話だから」


小悪魔女子のようなイメージが定着しつつあったが。再び彼女が純白の天使に見えてきた。


「わ、分かった。こんな相談友達にもしたことなくて、こんなにしてもらっていいのかなって・・」


「私たちもう友達でしょ、」


やっぱり天使でした。


「え?本当に?」


「本当ってなに・・・」


「ごめん俺、女の子の友達今までできたことなくて・・・」


「そうなんだ」


うつむいて目を向こうにそらし沈黙する。なんだこの反応、もしかして喜んでいる

初めての女友達って言われて安心したのか。もうデレなのか!?


「あんまり他の人にそういうの言わない方がいいと思うよ、可愛そうなやつって思われるわよ・・・」


違いました。すみませんでした。


「ごめん、全部話したら肩の荷が一気に下りてつい」


「私は気にしないからいいけど・・・とりあえず早めに行くことをおすすめするわ。」


「早い方がいいのか・・・こういうのって時間をおいてからの方がってよく聞くけど」


「早い方がいいに決まってるでしょ、日がたっていいことなんて何一つないわよ

変な人ね、でも元気が出たならよかった。ちょっと肌寒いしそろそろ帰ろうかしら」



「今日はありがとう。今からでもカラオケ間に合うと思うよ」


「いや、このまま帰るわ。私人前で歌うの苦手なの」



いたずらっ子のようにはにかむ彼女の笑顔ときっぱりと背を向けて帰るその姿は


どこか勇気をもらえ、遠く、それでいて柔らかい光を放つ月のように樺月の瞳に移った


『早く直るとといいな』

『早く直せるといいわね』




『別れた恋愛関係』

『割れた携帯画面』

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