男達と兎達②
「お、男性陣全員集まってんね」
ふすまを開き、片手の甲を額につけ挨拶しながら女性が入ってきた。
―――黒褐色の肌に黒のショートアッシュヘア、前髪脇のこめかみから長い髪が目じりから
あごのラインまで長く垂れている。
瞳の奥は明るい黄色が透けて見え、こちらを見る姿はクロヒョウのような女性という第一印象。
動きやすそうな灰色のノースリーブパーカーが包み、袖まで黒のニットが細い腕を包んでいた。
露出こそないものの健康的な肉付きとスキニーパンツの上から見える足のラインから
彼女はスポーツマンもしくは運動を好んでするタイプだとすぐに察しがついた。
同い年くらいに見えるが声はハスキーでどこか色っぽく
それでいて後に引かないさ爽やかな口調で蒼汰と挨拶を始めた。
「今回女の子を集めてくれた幹事の子だよ。」
ぼそっと隣の山下が耳打ちをする。
男側の配置は通路に近いから自分、山下、河野、箕島の順番で
最初に女性陣と目が合うのは自分だった。
「こんばんはぁ」
二、三人目とおしゃれに身を包んだ女性が入ってくる
自分たち、いや自分には敷居の高い女性たちばかりに見えた。
山下も河野も決してイケメンというわけではない。ごく一般的な大学生という感じだ。
幹事の蒼汰もおしゃれをとことん勉強して今は中の上くらいの容姿
それでいて合コンや飲み会を毎月開ける人脈の高さには不思議としか言いようがない。
席に着いていく女性たちをぼんやりと眺めながらそんなことを考えてたが、
自分が初めて出来た恋人も蒼汰が用意してくれた飲み会の場で出会った子だった。
飲み会の場所にくれさえすれば少しでも気持ちを切り替えられると思ったが、
また、七瀬瑠璃音を思い出してしまう。
『いかんいかん!今日は久しぶりの飲み、自分が落ち込んでいては周りにも気を使わせる。』
小さく首を振りまとわりつく悲壮感振り払った。
「失礼します」
最後の四人目が入ってきたとき、その悲壮感は嵐の突風のように一瞬で吹き去った
ダークブロンドのロングヘアは胸までまっすぐに艶を帯び、
背中に垂れる毛先は繊細に切り揃えられている。
前髪を分けて覗かせる長いまつ毛が座敷に入る所作と供に上品に揺れていた。
その可憐さを際立たせるような純白のコールドショルダーからは、
華奢で細い肩が露わになり白い肌が透けて見えるようだった。
腰より高い位置に履いている紺のプリーツスカートは細いベルトで強めに留めてあり
そのせいか胸のラインがはっきりわかる。
服装で大きく見せているのでない、胸が実際に大きい。
本来であればそのせいで全体がダボついて見えてしまうところを
ハイウエストにスカートを着こなすことで本来の細さに見せている。
彼女は男性陣を見ることもなくテーブルに目を伏せながら座布団に腰を下ろした。
そんな何気ない動きにも花のような品がありかがんだ際に目にかかった前髪を耳の後ろにかけるしぐさまで目を離すことは出来なかった。
―――――
「そうそう!それでさ美里ったら先輩の前でぇ」
都内の和風居酒屋「きっちり」
完全個室と幅広いメニューが自慢のこの居酒屋は今日もかわらず満室の夜を迎えていた。
「あ、サラダお代わりしますか?」
店内の明かりは間接照明が使われ、明るすぎないムーディな雰囲気に包まれていた。
蒼汰のセンスはは時々良い時がある。
「あの?大丈夫ですか?」
全員の視線がこっちを向いていたことに気づき思わずハットした。
「えっと・・・サラダ・・・」
斜め向かいの席に座っていた女の子が立ち膝でトングを片手にサラダボウルを受け取ろうと手を伸ばしていた。
「あ、あぁ!ありがとう、えっと・・・」
「篠原美穂!一回で覚えてくださいよぉ」
頬を膨らませながらも最後は満面の笑みでサラダをよそってくれた彼女―――篠原美穂は慣れた手つきでサラダを取り分ける。
栗色のミディアムヘアに毛先を内側に巻いた毛先が彼女のふんわりとした物腰によく似合ってる。
篠原は一通りみんなのお皿を見渡すと河野の都市伝説話に混ざっていった。
数分前に乾杯と自己紹介を済ませたばかりだが内容は右から左に抜けていた。
目の前の席の女性が視界から外せなくなっていたからだ。
柴 彩芽―――
一番最初に自己紹介をしたクロヒョウのような彼女は
蒼汰とスポーツ系のサークルの打ち上げで知り合ったらしく
今回の飲みの場も彼女と蒼汰で企画してくれたらしい。
彼女曰く、蒼汰とスポーツの話で盛り上がったことをきっかけに飲み会でまた語ろう
という話になりこの人数での飲み会になったようだ。
そもそも蒼汰が運動出来るなんて話は聞いたことないし。
スポーツの話題なんて出たことが今までに一度も出たことがなかったが、
運動が趣味だったとは意外だった。
柴はあいさつの最後に
「今日は楽しく飲むために来たから変なレクリエーションとか無しで、会計も折半。
寒いノリは無しで二次会はするなら参加自由で」
締めくくった。
今回の飲み会に彼女は出会いなど求めてないことがなんとなく理解できた。
そもそも服装がアウトドアなスポーツウェアで周りの女性陣で浮いているのが何よりの証拠だ。
その隣―――櫻井美里
隣の篠原美穂と楽しそうに話している。
どうやら同じ文学を専攻しているらしく会話の内容によく相槌を互いに打っている。
特に目立った話もしていないがなんとなくいい子に見えた。
最後に自分の目の前に座る彼女―――旭川 奈桜
彼女はケータイでもいじっているのだろうか
男性陣、女性陣の他愛のない話をきいては下をみてなにかしている、座敷の席でテーブルの下は
を見ることは叶わないし何より女性陣はスカートが三人、下から覗く行為は万死に値するだろう。
「今夜はよろしくお願いします。頑張ります。」
と挨拶していた。
一体何を頑張るのだろう。今日の場合は一応出会いの場として蒼汰に誘ってもらった以上
彼女も出会いを求めているだろうかと思った。
しかし実際はほとんど会話に参加せず真剣に話を聞いていることが多くほとんど話に入ってくることはなかった。
「話すのが苦手なの子なのかも」
心の声を代弁するかのように隣から小声で山下が耳打ち。
最初は自分もそう思った。でも真剣に話を聞いているしその会話で毎回こちらの反応に目線を向けている、なんだか観察されている気分だ。
凛とした目じり、澄んだ瞳。吸い寄せられてしまうほど彼女の瞳は強く深い色をしていた。
「そんなことよりほら!」
続けざまに山下は小声でまくしたて小さく肘で小突いてきた。
あごでこちらの箸置きを指示する。
完全に忘れていたうさちゃん大作戦
自分のうさちゃんは完全に廊下を向き女性陣とは全く違う方向を向いていた。
同時に他男性3人の迷えるウサギたちを確認する
すでに三人とも作戦意図は投了済みだった。
山下は目の前に座る桜木、河野は篠原、そして蒼汰は柴
それぞれのうさちゃんたちは迷いもぶれもなく目の前の女性たちに臨戦態勢であった
『お、かぶりもないし席の移動もなくていい。とりあえずうさちゃん作戦大成功じゃないか』
心に謎の安心感を覚えながら三人の邪魔をしないように自分もなんとなくうさちゃんを正面に向け
グラスを飲み干した。
「今日は楽しもう」
さっきまで変な緊張感があったが意思疎通が出来た仲間たちを見て肩の荷が下りる。
これだけ美人がいる飲み会なんてそうはない。自分は援護に徹しよう。
会話こそ頭に入ってきてなかったが女性陣も楽しそうにお酒を飲みよく話をしているし
恋人になれずとも良好な関係は築けるに違いないと感じた樺月は、
安心感から気をゆるみ尿意を催した
「ごめんちょっとトイレ」
「その通路右にまっすぐいったらあるよ」
一瞬全員から注目を集めたが柴が優しく教えてくれた。
「ありがとう柴さん」
退出際に旭川へと視線を送るとこちらをじっとみつめていた。
愛想で微笑むこともそらそうとするわけでもなく、襖を閉めるまで視線が切れることはなかった。
「不思議ちゃんなのか、まさか冷やかしか・・・。
あれだけ美人だ、自分は勝ち組で恋人のできない俺たちを笑いに・・・いやない・・・
真ん中の二人は柴さんが割り勘がルールっていってたところから、
たかりにきた女性達ではないし終始真剣にこちらの様子を観察していた。
「まあ、きょうは蒼汰が用意してくれた会だし。ちょっと話をして飲んで食べて気持ち良く帰ろう。」
狭い居酒屋の手洗い場で自分の浮かない表情に両手で喝を入れると
気持ちを切り替えて部屋を後にし、廊下を歩きだした
「あれ?かーくん?」
幻聴でも聞き間違いでもない。振り返らずともわかるそのあまい声は前へ進もうとするその足を
いともたやすく急停止させた。