表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サザンクロスの花束を  作者: かのえらな
プロローグ【重い思い出】
2/13

拒絶と再会


それはあの日と変わらない笑顔、鮮明に焼き付いた最後の姿。


「かーくん?、落としたよ?」


あの日から毎日見返したLINEだって―――


「もしもーし?。大丈夫?」


この香水の香りだって覚えている、一緒に歩いた時と同じ―――


「ッ!・・・わああ!ごめん!」


 彼女の甘い香水の香りが分かる所までこちらに顔を近づけていた。


 絹のようにきめ細やかなミルキーブロンドのふわっとしたミディアムヘア

左のこめかみから流れた毛先は赤紫のインナーカラーをヘアアイロンで綺麗に巻かれ

その髪から覗かせる大き目のイヤリングがトレードマーク

低身長に華奢な体だがそのスレンダーな体躯に不釣り合いな豊満なバストの持ち主こそ

彼女―――七瀬瑠璃音ななせるりねその人である。


「はい、画面は割れてないみたいだし、気を付けて持ってね。」


 そう言いながら彼女は拾い上げたケータイ画面を軽く払うと、

居心地の悪そうなこちらの右手を下からそっと掴み添えるようにケータイを乗せた。


「あぁぁ!ごめんごめん!うっかりしてたわ!あ、ありがと!」


 細い指と滑らかな感触が手首に伝わると思わず振り払うように両手を上げおどけて見せると

その反応に彼女は一瞬固まったように見えたがすぐに満面の笑みを返す。


「もう!おっちょこちょいなのは変わらないんだからぁ。拾ったのが私でよかったね!」


「あ。うん。ほんと助かったよ・・・ごめんね、なんか・・・」


 ずっと声が聴きたくてずっと顔を見たかった相手が目の前にいるのに、

胸に針でも刺さったかのように言葉は途切れ漏れるようにしか話せない。


「ううん。気にしないで。じゃあ、行くね、バイバイ!」


 終始明るい彼女の声に戸惑う時間も猶予もなく、

友達と合流し人混みに消えていく彼女に返事をすることも手を振ることもできずその場に立ち尽くすしかなかった。




――1週間前――


 別れは突然だった、考えてみれば付き合い始めたのも唐突だったかもしれない。


 友達が作ってくれた飲み会の席で初めて出会い一目惚れだった。

大学でもかわいいと話題になるほどの美人で人当たりもよく、誰もがうらやむ理想の彼女。


 そんな高嶺の花に一目ぼれをした身の程知らずを見かねたのか

友達が気を使ってくれて、玉砕するなら早いうちがいいと向かいの席にわざわざ変わってもらい

話す機会までを作ってもらって、連絡先を交換、

やがて電話をするようになって、誘った1回目のデートで告白


 特にデートは酷いもので会話もろくに広げられず

気まずい時間を過ごし、その耐え切れなさに勢い交じりの告白だったが


こたえはまさかのOK、


恋愛経験ゼロ童貞男の玉砕覚悟の告白は見事に実ったのである。


 それから毎日連絡を取るようになり(返してくれない日もあったが)

デートを重ね(二回だけ)

これから長いラブストーリーが始まるかと思った矢先に


「ごめん、好きな人―――」


 思い出したくない記憶が再びよみがえる。

端的に言うとフラれたのだ。


 それからその日は夜まで放心状態、

別れ際に何か話していた気もしたが復縁に結びつくような言葉でもなかったし、覚えていない。


 当然「はいそうですか」なんて聞き分けのいい大人の男を演じれるわけでもなかった自分は


 その日の夜に恥を承知で電話をかけた。


「ごめん。今日のこと、、、やっぱり考え直してほしいんだ」


 何をどう考え直してほしいかなんてわからなかったが、


 彼女を一分一秒でもつなぎとめておきたかった言葉はそれしか思いつかない。


「言ったよね。好きな人ができた・・・って」


 電話越しに返ってくる声は普段の明るい瑠璃音ではなく、落ち着いた一人の女性の声だった。


「良くないところばっかりだったかもしれないけど。何が悪かったかな・・・

ほら、俺馬鹿だからさ・・・言ってもらえると助かるんだけど・・ハハ・・」


 震えた声を悟れらないように平然を装ってみるが、渇き切った笑いに覇気はない。



「・・・悪いとかそういうのじゃなくて単純に私がダメな女ってことだよぉ」


 間を開けて帰ってきた返答は普段の口調に戻っていた。


「わたしが全部悪いから。かーくんは何も気にすることないよぉ。なんかほんとごめんね。」


「いや、なにも謝ることなんてないよ。こちらこそ短い期間だったけど幸せだったし。」


 初めて彼女に嘘を言った。


 謝ることしかないと思った、自分と付き合いながらほかの男と接点がない限り

他の人を好きになるなんてことはありえないと思った。


それでも彼女えお問い詰めなかったのは謝ってきた女の子に対して

「もっと謝れ」なんて言えるほど、男として落ちぶれてることを恐れたから。


 それ以上に最後になるかもしれないこの電話は謝罪を求めてかけたわけではなかった。


「もらった電話で悪いんだけどさぁ・・・お願いがあるんだけどいいかな。」


 葛藤に言葉を詰まらせていた沈黙に瑠璃音は続けて願い出る。


「俺に出来る事ならなんでも!」


「前みたいに友達として接しいの。別れたからって全く無視みたいなのじゃなくて

ほら、共通の友達とかもいるしさ。周りに心配かけたくないっていうか・・・」


「そのくらいなら全然、俺も普通に話したいし!なんならこの前約束した水族館だってまだ行ってないし来週とか―――」


「そうじゃなくて」


 決壊したダムにように滝のように溢れ出した感情と共に流れ出した言葉はすぐさま塞ぎ込まれた。


「あくまで周りから心配されたくないだけだから、連絡してきたり、大学で話しかけたりとかやめてほしいの。」


 ん、今なんて?


 誰に心配?、フラれた自分を心配?、よく聞く話だ


 ふった相手への罪悪感とか、気を使って社交辞令で、「友達としていてほしい」は定番だが

周りの人?一番今関係のある受話器越しの俺ではなく周りの心配をしている。


「えっと、つまりお願いっていうのは・・・」


「私に連絡とか話しかけるの今後一切やめて欲しいってことなんだけど。」



 状況の整理もで出来ず矢継ぎ早に告げられた完全否定の四文字に

ケータイ電話を落としそうになった。


 そもそも何かの気の迷いかもしれない、

まだやり直せるかもしれない、そんな気持ちでかけた電話でまさかの拒絶。

もはや寄りを戻したいなんて会話に持っていける状態ではなかった。


 大学デビューでようやくできた念願の彼女、しかも周りが口をそろえて言う


【不釣り合いな美人彼女】


 そんな鼻高く幸せな人生がこれから始まると思った矢先の失恋

短期間の付き合いでは大恋愛など胸を張ることも出来ず、

なんとも情けない恋の幕切れはたった二か月の恋をもって終了したのであった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ