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サザンクロスの花束を  作者: かのえらな
プロローグ【重い思い出】
10/13

犬と虎

「タイミングがない・・・」



 ある日の午後自分の不出来を呪った。


 元カノ、七瀬瑠璃音と居酒屋での一件以来全く話せていない。


 お昼や講義がない時間にそれとなく探している自分がいる。

そして見かけてもなぜか安心している自分がいる。



 彼女が常に友達に囲まれているというのもある

でもそれは言い訳だ。



 「もう諦めろよ、ストーカーみたいになっちまうぞー」


 大学の旧図書館の隅で講義も終わり暇を持て余していた。


 「この前まで応援するって言ってたじゃないかよ」


「いや、まぁそうだけど、死地に赴く友をみすみす送るようなのは気が引けてきてなぁ」


 「酒のつまみにするとか言ってた極悪人はどこ行ったんだよ・・・」



 この旧図書館は新図書館が出来てからすっかり学生のたまり場になっていた。


 「あれだろ?夏前に彼女欲しいから焦ってるんだろ?」


 「んなわけねーだろ、まあいればそれに越したことはないけど・・・」


 カレンダーは6月になり、考えてみれば去年の夏も男としか過ごしていない

今年は海とか祭りを彼女と過ごしたい自分がいることは認めよう


 不本意に七瀬瑠璃音のビキニ姿を想像する。

あの低身長で抜群のプロモーションだきっとどんな水着でも似合うし色んな男の目を引くだろう。


いやいやいや!なんか今の自分はストーカーみが増した気がして首を振って煩悩を回避する。


 「そういや蒼汰は妙に落ち着いてるよななんか彼女に飢えてる感が薄くなったっていうか・ ・ ・」

 

 「モテる男は余裕があるから」


 そういってケータイを取り出し画面を見せてきた。

そこには広瀬千柑の登録された連絡先が表示されていた


「向こうからさぁなんかあったら連絡するから連絡先教えって頼まれちゃって。ようやく俺の魅力に気付ける人が現れたって感じ?。」


「ああ、ね」


 もっさりマッシュヘアの前髪をかき上げ謎のどや顔。


 『なんて幸せな男なんだ。自分も連絡先交換したことは黙っておこう。』


 「ほらほら噂をすれば・・・」


 ウキウキで見せてきたケータイ画面にはメッセージ通知。広瀬千柑の名前が表示されていた。


 蒼汰は椅子にもたれながら慣れた手つきで返信を返す。

が次第に笑顔が消え先ほどのけだるそうな顔に戻っていった。


 「明日買い物に付き合って欲しいから都内の駅前で集合だってさー」


 「なんでがっかりしてるんだよ、デートの誘いじゃん、嬉しくないのか。」


 「お前も来いとさ・・・」


 がっくりと机に伏せる蒼汰。だがすぐさま針金のようにピンと起き上がった。


 「あ!わかった!恥ずかしいのかも、二人でデートするの!」


  何もわかってない


 「そんな女にはみえなかったぞ」


 実際のところそんな女ではない。広瀬には好きな男がいる。そしてその告白現場を見てしまってから

何日か経ったが彼女からの通知が鳴りやまず、いよいよ悩まされていた。


 最初は他愛のない内容だった気がするがここ最近は、

「男の趣味とは何か」「どこまでが浮気か」

「好きな異性にラインを聞いて自分が好きだってばれないか」


など、『異性関係にかかわる100の質問』と題した企画番組でもはじめるかのようにひっきりなしに聞いてくる

かわいい異性といえど、ひっきりなしにかかってくるラインにうんざりしていた為彼女からの通知をミュートにしていた。


 「樺月、おまえは女心ってのをわかってない。初めてのデートに誘いたかったがまだ知り合って日も浅い。積極的にアプローチしたい広瀬さんだが奥手なピュア心がそれを邪魔してしまう。

だから人数を増やして俺への恋心を悟られないようにカモフラージュする作戦、つまりお前はダシに使われたってことだ」


 とダシが申しています。

と喉元まで出そうになったがそれも我慢した。


「とりあえず明日11時に駅前に集合だってさ土曜日は混むかもだから昼前がいいってさ」


 蒼汰が事務的にラインの内容を伝えてくるが、上げ調子の口ぶりから察するにかなりテンションが高いことがわかった。


「俺はいいよ、土曜日電車混むし・・・」


「そんな落ち込むなって!俺だって普段合コンと出会いの場提供してんだからたまには手伝えって」


 返事に詰まった。蒼汰にはいろいろ聞いてもらっている立場もある。友達として買い物の付き合いの付き合いくらい出るのも筋というものだ


 「・・・わかったよ11時な。」



 こうして樺月のケータイスケジュール表に久しぶりに〇がついた





――――――――






 「予定より20分も早くついてしまったか・・・」



 駅前のモーメントの前、天気も良く街に植えられた木々たちは夏に向けて若葉を伸ばし始めていた。

その下を有象無象に溢れんばかりの人々がせわしなく行き交い信号に従って歩み、そして止まる。


 この犬のモーメントに集合したのもたくさんの人の数に集合すら難しいからだ。

自分以外にもたくさんの男女が待ち人としてこの場所でその時を待っている。


 「今日は暑くなるのかな・・・」


 誰に聞くでもないその独り言は街の雑音で瞬間に消え去り、

少し見上げたショッピングビルの電光掲示板に流れるお知らせをぼんやりとみていた。


沢山の人、車、そして放送の騒音、まだ暑くないのに暑苦しいと感じる今日、

自分は都会を向いてないと改めて感じた。


 「おい、あの子かわいくね?」

 「まじだ!てか足長っ、モデルかよ・・・」


 ざわつく人々のささやきに

時間までケータイでも見て待とうとするのをやめ、声の方に目を向けた


 セミロングのキャラメルブロンドの髪をまっすぐに伸ばし、前髪を状態をケータイを鏡のように使い確認する女性の姿

 黒の長袖ニットにコーヒーブラウンのフロントベルトで閉められたフレアスカートが小さく揺れ

全体的に落ち着いた服装という印象だが、つま先の丸いミドルブーツが女性をちょっぴりわんぱくに見せる。


 その女性を30メートルほど先に横から拝む形になったがすぐわかった、広瀬千柑だ。


 まわりのざわつきも周囲の目も気にすることはせず、時折手首の内側を見るように腕時計を確認しては肩で大きくため息をついていた。


 蒼汰の姿はまだ見えていないが先に合流しておこうと思い、重い腰を上げたその時だった。



 「ねぇ君暇?かわいいね。この辺の子?」

 「俺たちさ、結構金持ってるんだけどどっかでお茶しないおごるよお兄さんがさあ―――」


 都会に馴染んでいない自分でもすぐわかる。ナンパだ。

自分より年上であろう男二人組、黒髪短髪でばっちりワックスで決めている男と色の抜けきった金髪の男が広瀬を挟むように寄っていく


 話す距離ではない近さまで寄る男二人に樺月は救援に向かおうとしたがなんて声をかけていいかわからなくなった。


 男達が怖かったわけでも、ナンパに割って入る口実が思いつかなかったわけでもない。

広瀬千佳は男2人相手にに全く動じず軽く腰を掛けた場所からケータイしか見ていなかったからだ。


「ねえねえ、何か欲しい?見た感じブランドものとか好きっしょ?なんか好きなの一個買ってあげよっか?」


「てか、女友達待ってる感じ?ならその子もいっしょ4人でさぁ、いや女の子3人でもいいよ。おれマジコミュ力高いから。」


無言の彼女をいいことに手振り身振りでおどけながら薄笑い広瀬の肩に腕をかけようとする。

次の瞬間だった


「あれ。」


ようやく彼女は口を開きその細い手でまっすぐ目の前を差した


その場でやり取りを聞いていたすべての人がその先を見る



その一点が差し示す先は道路の路肩にとめられた一台の車、ただ一つ

【ロールスロイス ファントム】

V型12気筒の大排気量エンジン搭載、驚くほど静かな静粛性と スムーズで揺れの少ない圧倒的な乗り心地から、「魔法の絨毯」と称されている推定価格6000万の高級車である


「私、ブランドだーい好きだからあれ買って欲しいな」


死んだ魚のような眼はようやくナンパ男に向けられた

固まり顔を付け合わせれる男二人、広瀬がおとなしい女性に見えていたのか急な無茶な要望にさっきまでの饒舌さはなかった


「え?ちょ冗談やばすぎっしょ?お金はあるって言ったけどさぁ」

「一個好きなブランド買ってくれるんだよね?あれのオレンジがいいな。」


声色ひとつ変えず棒読みのように催促すると男たちはたちは顔面蒼白

そして男たちに向けられていた千柑の無機質な視線はたじろく男どもを飽きたのか

視線を横に滑らせ、ようやく樺月がいることに気が付いた。


「よっ」


っと声には出さなかったが手振りだけで気まずく手を上げ挨拶すると

千柑は男2人の間を割って歩き出し、両手の力を腰に押さえつけながらまっすぐこちらにずかずかと向かってきた


「あんたずっと見てたんでしょ?何で助けないのよ!!」


「いやぁどう助けたらいいかわからんくて。初めて知り合いがナンパされてるところ見たし・・・」


さっきの死んだ魚の目とは一転猛虎のような鋭く瞳に変わりにも襲い掛かりそうな威圧感

そこに見かけたときのたたずんでいた淑女のような気品さ一切感じられなかった。


「なんでもいいから助けなさいよ私ああいうの怖いんだから!」


「怖がってなかっただろ!怖いのはどっちかって言うと千柑の方だけど―――」


虎の瞳の瞳孔が開く、今にも牙が見えそうだ


でも確かに彼女の手は少し震えていた。



「あのさそれとは別に言いたいことあるんだけどさ・・・

あたしこんなに人に怒ることもコケにされることもないんだけど・・・」


「はい・・・」


「あんた私のラインブロックしてるよね!まえから全然返信返してないし!電話にも出ないし!」


今までのうっ憤を晴らすような大声で周囲の視線を再び集める。


「何!?なんか気に障るようなことした?嫌なことあったら直接言えばよくない?無言でブロックって何!?」


「いや、ブロックはしてないよ!ちょっとミュートに・・・」


さすがに最初はミュートも気が引けたが返信返さなかった次の日に何度も通知が鳴り気づけば

未確認通知が10件回りだしたときには迷いなくミュートボタンを押していた


「あんた協力するっていってよね!?口ではあたしを言いくるめて人のこの世で最も恥ずかしいところを最初から最後までじろじろ見て、コソコソしてさ!満足したらブロックしてポイですか!?」


「いや言い方!」


顔を真っ赤にして吠える千柑の暴走にさらにあたりがざわつく


「え?コイツ彼氏?。さっき自分の彼女ナンパされてるのに助けにも入らなかったよな」


「恥ずかしいとこって・・・てかコソコソってなに。人間として最低のやつじゃん」


「こんなかわいい子に・・・どんだけ図が高いんだよ。・・・」



周囲の目線が冷たくとげとげしく刺さる。というか貫通する。



「うおぉおおい!お待たせ!」



タイミングがいいのか悪いのか蒼汰が笑顔で手を振り名が走ってきた


「二人とも早いな!」


蒼汰はあたりの冷たい視線を全く理解できておらず

次第にあたりの空気はぬるくなっていったが心に刺さったつららの槍は刺さったままだ。


「あ!蒼汰君!道中お疲れ様、私達も今来たところなの、ねっ?」


殺気までの猛虎の姿はどこへやら。

さりげない自然な笑顔に少し驚いたが最後の一言にただならぬ猛獣を感じさせる。


彼女ちかと連絡先を交換した初日に一つだけ取り決めをした。(ほぼ一方的だったが)


どんな話であれお互いの恋愛話の一斉を他人には話さないこと。


もしその約束が破られたときはどんな報復をしても良いという取り決めだった


自分は広瀬千柑の告白劇場を誰かに話すつもりはないが

なにかの拍子にぼろが出て千柑の機嫌を損ねるようなことがあれば自身の失恋話もばらされてしまう。

自分は辱めをうけようとかまわないが、七瀬瑠璃音に話が広まりなにか迷惑になるようなことだけは絶対にさけなければならなかった。


「お、おう!ちょうどどこ行こうかって話してて」


「え?広瀬さん行きたいとこあるって誘ってくれたんじゃないの?」


広瀬から閃光のような眼光を瞬間向けられる


「そ、そうなのよ!でも二人も行きたいとこあるのかなって思って。あ!もう少しで予約したお店の時間だからいこっか!」


そういって彼女は水面を歩くかのように後ろに手を組んでブーツのかかとから足をつき跳ねるように歩き出した。


「予約したお店って広瀬さんどんだけ俺とのデート楽しみにしてるんだよ」


蒼汰がにやけ顔で耳打ちしてくる。


「私は黒子のようにサポートに徹しますよ大根役者さん」


棒読みで返すと先に行く千柑を追うように役者と裏方も休日の街へと繰り出すのだった。









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