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サザンクロスの花束を  作者: かのえらな
プロローグ【重い思い出】
1/13

失恋と奮起

 「ごめん、好きな人できちゃってさ、私たち別れよ?」




 その言葉と小さくはにかんだ笑顔がまぶたの裏に焼き付いたまま

朝を伝える日差しがカーテン越しに光を届ける。

 嫌な目覚めに意識は朦朧としながらも鮮明にしつこく繰り返される彼女の声は

その辺のアラームよりずっと頭の中に響いていた。


 まぶたを押しつぶそうとに腕を押し当て、ついでに朝日からも逃げるように隠しても

あの時の彼女の言葉だけはどうにも頭から離れなかった。



―――――


 大学生活も2年目、もう通いなれたこの道は携帯を注視しながらでも何となくで着いてしまう。

そもそも大学から近いという理由だけで借りたアパートなだけあって、

徒歩15分もあれば到着出来てしまうのは本当に助かっている。


 ボロアパートということ以外は何も文句はない。


 自転車ならもっと早いが1年目に半年もたたずに盗まれた。

田舎から上京してくるときに、あれだけ親に気をつけろと言われいた手前

「盗まれました」なんて言えるはずもなく、

渋々徒歩で通学することになったが、大学へのモチベーションがない今。

いや、むしろマイナスな今にとっては

気持ちの切り替への準備時間と思えてラッキーなのかもしれない。


 そう思えるほどに今はアンラッキーなのであった。



 おもむろに取り出したケータイ画面には通知が二件

大学の友人から昼ご飯の誘いと、Amazenの荷物お届け時間のお知らせだけ。

友人には適当にスタンプを送るとケータイを腹立たしそうに雑にポケットにねじ込む。


 先週までであれば、もう一人から必ず返信がきていたからだ。

思い出すだけで少し足が重くなり、少しだけ早くなった。



「あ。今日は二限目からだったか・・・はぁ・・・また早く来てしまった・・・」


 ぼーっと思い更けている間に足は大学にけだるそうな体を運ぶ。

いつもとかわらない大学は正門から中庭まで沢山の人の出入りで賑わっていた。

教科書を両手に抱いて笑いあう女性達、悪ふざけに肩を組む男達。


「きっとみんな幸せなキャンパスライフ送ってるんだろうなあ」


 風船のようにどこへ向かうでもないぼやきは晴天の空に溶けていく。



≪パチンッ!≫


 瞬間風船の割ったような炸裂音が学内に響き、辺りの人の注目を集めた。

その音は頬を両手でめいいっぱい叩いた音。


「こんなんじゃダメだ!もっとシャキッとして次の恋!どうせ女なんて星の数ほどいるんだ!」


 無気力な自分に喝を入れる。ここ最近自分は落ち込みすぎていた。

それこそ食欲も落ちて頬の肉がだいぶ落ちたのを自分でも感じる程に

失恋は仕方ないこと、過ぎたこと

自分のキャンパスライフは始まったばかり、これは序章に過ぎないのだ!


 冷静になって考えれば友人にも気を使わせていたかもしれない。

そうだ、今からでも連絡して、今日はうまい飯屋にでも誘おう!


そうと決まればさっそく連絡を・・・


「ん。確かこのポケットに・・・」


 ポケットにねじ込んだはずのケータイがない。

逆ポケットも確認してみる。


   ない。


あるはずのない胸ポケットを探し、

両手で胸を押さえ慌ててる不審者のような動きをする自分の背中についに声がかかった。


「かーくん?」


 その声に体は絶対零度の瞬間凍結ように一瞬にして体は凍り付き

そして解凍されていくようにゆっくり振り返った。


 覚えのある高く甘ったるい声、子供をあやすような優しい口調

振り返りざまに目に入るその体躯は華奢で小さく、

紺のキャロットスカートから覗く白くすらっと伸びた足は日の光を受けて真珠のような眩しさを放つ。


 体勢は今さっきまでしゃがんでいたのだろう。

前かがみに体を起こす様から見える鎖骨と、

その奥に見える二つの巨大な峰を襟の広い純白のデコルテティシャツが包み隠し

かがんだ際流れた細くススキのようなミルキーブロンドの髪を耳の後ろにかけなおしながら

上目遣いでこちらに疑問の念を送っていた。


「瑠璃音・・・ちゃん・・・」


思わず声が漏れる。


 1週間ぶり聞いた声とその姿は、何一つ変わっておらず

小さな顔にそぐわない大きな瞳があの時と同じ可憐さで、こちらを不思議そうに見つめる彼女は

別れた後、一日たりとも忘れることの出来なかった【元カノ】だった。


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