鬼の血をひく少年は日本人初のバロンドールを取る予定ですが、チームメイトの妨害を受けてもハットトリック決めちゃいます。
※「なろうラジオ大賞3」の参加作品の為、合計1000文字しかありませんご了承ください。使用キーワード『ハットトリック』
うぉおおおおお!
観客の熱気に包まれるサッカー競技場。
試合の時計はあと数分。
MFのリッカルドが最後の攻めで右サイドからドリブルで駆け上がる。
しかし敵のDF3人にコーナーの隅へ追い詰められた。
誰もが終わったと思った瞬間、
一体どうやったのか分からないターンで、
リッカルドはDFを一気に抜き去る。
「おらっ、上げてやるよ。最高のボールをなッ」
セリフの通り、最高のボールがゴール前に入れられる。
ただし、このチームの【最高のFW】マルコにとってはの最高だった。
ゴール前にマルコはいない。
そもそもマルコはケガでこの試合を欠場しているのだ。
今FWの位置にいるのは、今日すでに2ゴールを決めている新入りの日本人少年である。
「お前になんかにもったいない最高のボールだぜ。まあ、触ることさえ出来ないだろうがな」
日本人がこの試合であと1点とればハットトリックを達成してしまう。
チームのオーナーが突然どこからともなく連れてきた、痩せっぽちの黄色い肌の少年が。
それは非常に気に食わない。
だが、手を抜けばすぐに監督にバレて後で叱られてしまうだろう。
それも面倒だ。
そういう理由で「あいつがマルコだったら決めてくれたのに」というクロスをリッカルドは選択したのだった。
身長192cmのマルコの頭に完璧に合わせた鋭いクロス。
日本人少年は身長170cm。
奴がこのクロスに合わせられるワケがない。
「はは……はっ?」
リッカルドから思わず出かけた苦笑が疑問の声に変わる。
日本人少年が球に背を向けたのだ。
(諦めたのか?)
一瞬そう考えたリッカルドの目に飛び込んできたのは、
「はぁぁあああ!?」
日本人少年が後方に宙返りし、バイシクルシュート――いわゆるオーバーヘッドキックを繰り出さんとする姿だった。
「お、おい、ウソだろッ!?」
その右足は、チーム最高のFWマルコの頭と同じ高さに達していた。
ピッチ上の全ての選手が――そして、全ての観客の目が、日本人少年が右足の甲で、最高打点で完全の完璧にボールを捉えるのを目撃した。
ボールがスローモーションのようにゴールに吸い込まれていく。
そうリッカルドは感じた。
自分に出せる最高のパスを出した。
気に食わない相手だが、それを最高のシュートで応えてみせたのだ。
「ぐぅぉおぉおおおお!?」
大量の脳内麻薬が強烈な快感となり、リッカルドの脳を焼く。
正体の知れない日本人少年をリッカルドが認めたのは、この瞬間だったのかも知れない。