第32章──絆Ⅱ
Ⅱ
「一松刑事、例の一件の報告書類一式、デスクに置いておきますね」
「すまない…」一松譲二はもう一度事件に目を通しておきたかった。
「どうでもいい話ですが、雪島が飼っていた三匹の雌猫を覚えています?」
「あぁ、もちろん!」
「あいつら、飼い主亡きあと餓死したんだそうですよ」
「餓死?」
「誰がエサを与えても、まったく口にしなかったそうです」
「ふ~ん……如何なる理由だったのか…?まぁ、これは迷宮入りだろうがな…」一松は〝ふふんっ〟と鼻で笑った。
雪島繁殺人事件は一松譲二の刑事人生にとって、忘れることのできない事件になった。
「香神錫…大鳥舞子──なんて組み合わせだったんだ…」
〇
「嵐姉さん…そろそろ行こうよ」
「そうだね──ここに残る理由もなくなったし……潮時だね。雛も幹もよく頑張ってくれたよ」
「世間では私たちのことを化け猫って言うんだよね?」幹はわざと目を吊り上げて言った。
「殺された主人のために餓死までして敵を討つ。こんな健気な猫が他にいるもんか」雛が前足を舐めながら答えた。
「あっちでご主人様がお待ちだよね嵐姉さん?」
「もちろんだよ。あっちに行ったら、化け猫の名前とはおさらばして、ご主人様のつけてくれた元の名前に戻すんだよ!あたしゃ嵐、雛は雛、幹は幹にね」
「あいよ!ラン・ス―・ミキだね」
仇討ちを果たした三匹の雌猫の魂は主人の元へと旅立っていった。