第29章──再会Ⅲ
Ⅲ
「蚣妖魎蛇様、まず誰から消しますか?」矢羽走彦が尋ねた。
矢羽走彦の腹は、ここに居る全員を消したあと真堕羅のオロチを支配している蚣妖魎蛇に取り憑くことだった。直接真堕羅のオロチを支配するより失敗がない。危険なことは蚣妖魎蛇が請け負ってくれたのだ。石橋を何度も叩いてそれでも慎重に渡ろうとする矢羽走彦には、もはや勝利の二文字しか浮かばなかった。
「まずは錫雅尊…お前からだ!お前は赤い巨人が手にしている自分の晶晶白露によって邪身玉となれ。その玉は私が飲み込んでやるから心配するな」
「……わ、私を邪身玉にしてもいいけど、みんなは解放してよね」本心は邪身玉にされたくない錫だ。
「ふははははは…解放?ここからは誰も出られない。ただお前を最初に処分するというだけだ」
「どうして私が一番なのよ」
「何故かと聞くか?──それはな…虎慈尊が一番かわいがっていたお前が憎いからだ…ただそれだけだ」
「憎い理由があるの?」
「ある……奴が私を嵌めたのだ。天甦霊主からまんまと全気滅消の瑠璃玉を盗みだすことに成功した私は矢羽走彦に言った──お前に拗隠の国の抜け穴を防ぐ任務が与えられたと…。抜け穴を防いだのち助けが来る──そうすればお前は英雄だと…。もちろん天甦霊主の心が奪えることも付け加えてな…。言葉だけなら疑心もあったろう──だが瑠璃玉をチラつかせたら完全に信じたのだ。──なあ、そうだろう?」そばで聞いていた矢羽走彦に尋ねた。
「そのとおりです。今やあなたも私も邪心に満ちた者──そんな話を聞いたところで意味などありません。ただ白の国を奪うのみです」
「ぐははは…そうだろう辰夜代──いや矢羽走彦よ、気に入った。私たちは同じ志を持った友も同然。まずこいつらを始末するぞ」
──「そうだとも──こいつらを始末した後、お前ごと真堕羅のオロチを取り込んでやるから楽しみにしていろ」矢羽走彦にとって真実を知ったところで今更の話だった。
──「たった一人で拗隠の国に行き白の国を救った。その結果がどうだ──今ここにこうして追いやられている」気の遠くなるような長い長い年月は、矢羽走彦にとっていかなる理由も意味をなさなかった。
「話はこれくらいでいいだろう。さぁ、赤い巨人よ、錫雅尊を晶晶白露で邪身玉にしてやれ!」矢羽走彦は顎で合図をすると、赤い巨人は縛られて身動きのできない錫に向かって晶晶白露を振り上げた。
Ⅳ
「胸騒ぎがする…落ち着かないなぁ…。葉子、きっと錫さんに何かあったに違いないわ…」
「お姉ちゃん顔が真っ青」葉子は冷たい水を持ってきて舞子に飲ませた。
「どうしよう…錫さんが………」舞子は暫く思案していたが、おもむろに立ち上がって葉子に言った。「葉子、これから虎ノ門さんを呼び出すわ!そして錫さんを助けてあげるようにお願いしてみる!」
「呼び出すって…今ここで?」驚いた葉子が尋ねた。
「うん、私に出来ることはそれくらい。虎ノ門さんならきっと…」舞子は部屋のカーテンを閉め、気持ちを落ち着かせると天登虎ノ門こと香神虎を呼び出した。
──「どうか私の身体を借りてオリてきて…。お願いしたいことがあるのです…」念じてみたが香神虎が舞子にオリる気配はなかった。二度三度繰り返して祈ってみたが結果は同じだった。
「おかしい…こんなことはないのに…」
「お姉ちゃんの霊能力が弱まったとか?」
「ううん、あり得ない…それは自分で分かる…。もしや…虎ノ門さんの魂は…」舞子に一つの仮説が浮かんだ。