第28章──真堕羅のオロチ復活Ⅳ
Ⅴ
「あっ!」大鳥舞子は手を滑らせて、持っていた写真立てを落としてしまった。
写真立てのガラスが割れた音に驚いて葉子が部屋に飛び込んできた。「お姉ちゃん大丈夫?」
「うん…。錫さんと初めて会った時に三人で撮った写真──ちょっと見たくなって身体を抜け出してソファで見てたのよ。それを元の場所に置こうとしたら手を滑らせて…」
「お姉ちゃんにケガがなければそれでいいわ」葉子は心配そうに舞子を見たが、何事もなさそうなのでホッとした様子だった。
「ねぇ、つくづく不思議だと思わない?…錫さんのおじい様があの虎ノ門さんだったなんて。なんだか偶然とは思えないのよ…」
「見えない何かがあるのかもしれないわね…。錫さんやお姉ちゃんに見えない力があるように…」葉子は飛び散ったガラスの破片を片付けながら言った。
「そうかもね…。錫さん大丈夫かな…?何もなければいいんだけど…なんだか心配…」錫の写真を落としたことに妙な胸騒ぎを覚える舞子だった。
Ⅵ
布羅保志之綿胡は日・月・光を手に昨夜の体験を長老に語り始めた。
モノノケは綿胡の霊力に執着しているようだった。強い霊力を取り込めばそれだけ強いモノノケになれるからだ。
執拗に襲いかかるモノノケに綿胡も最初は戸惑い逃げ回った。その時、綿胡の心に霊神が囁いた。
「オロチまで退治したお前が何に怯えている?お前は天然で臆病な男だな…。自分を信じろ──私の力を存分に利用するんだ!」
「そ、そうだな…。恐すぎて逃げることばかり考えていた…」綿胡は日・月・光を出現させ両手にしっかりと構えた。
「ケケ…?なんだそれは…?いいぞいいぞ、そいつをよこせ!それがあればオレさまは最強になれそうだ」モノノケは前にも増して激しく襲いかかってきた。
綿胡は自らの霊気を日・月・光に溜め、襲いかかるモノノケを左に躱して剣先を脇に突き刺した。
「ほう…そしたらどうなった?」長老は身を乗り出して綿胡の話にかぶりついた。
「そしたら…大きな光の玉がモノノケを包み込みました。奴は熱い熱いと苦しみながら…」そこで綿胡は一旦話を中断した。
「…あのな……わしはもう老いぼれだ。こうしている間にもぽっくり逝くやも分からん…。頼むから生きている間にその続きを聞かせてくれ…」長老は冗談を言って綿胡に続きを催促した。
「長老…これが見えますか?」そう言って綿胡は日・月・光を消し、今度は違うモノを出現させた。
「ほぉ~…変わったモノじゃのう…。だが気味悪い…」
「見えるのですね…さすがです。──モノノケはこの奇妙な玉になりました…」
「ほっほぉ~…不思議なことがあるもんじゃ。お前さんやっぱりただの若者じゃないぞ…」
「霊神が教えてくれたのですが、玉を天に放り投げれば、神がちゃんと処分してくれるそうです」
「なんともはや…、この世にはまだまだわしの知らぬことがたくさんあるのう…」
「私の話はこんなところです…。それでですが…」
今度は綿胡が長老に尋ねた──どうしてここの村人だけがモノノケに襲われなくなったのかを──。




