第28章──真堕羅のオロチ復活Ⅰ
真堕羅のオロチ復活
Ⅰ
月の明かりが仄かに青白く変化した。目もあやな衣を纏った天女が舞い降りてきたのは、それからまもなくのことだった。
「お待たせしました。信枝…綿…しばらくです」信枝と綿も世話になった月夜美乃神に丁重に挨拶した。
「ひゃ~…月夜美乃神様…?」錫は目をくりくりさせた。
──「錫雅尊…。姿かたちはそのままでも、今は人間界で修行の身の香神錫なのですね…」
「錫雅様…お久しゅうございます」月夜美乃神は、わざとそう言って錫に目配せした。
「あっ、あぁ…本当に久しぶりだな…」錫は月夜美乃神が信枝の手前、機転を利かせてくれたのだと察した。「私が信枝殿に頼んであなたを呼んでもらったのだ」。
「何か困ったことがありましたか?」
「実は──御扉の中に剣が隠されているはずなのだが…」
「開かない────ですね?」
「はい…。私の考えに間違いがなければ、満月になれば御扉が開くはずです…。そこで…」
「そこで…今すぐ満月にしてほしい──ですね?」
「そのとおりです」すべてを見抜かれている。
「私は月を司る神…それくらい容易いことです。それに信枝と綿とも約束していますし…」月夜美乃神はチラリと信枝と綿に視線を向けてニッコリした。
「以前お会いした時とはお召し物が違っていますね?」信枝が尋ねた。初めて会った時は卑弥呼のような姿だったと記憶していた。
「その昔、逃げた悪霊を追いかけて人間界に来たことがあります。その時は、悪霊に悟られぬよう淑やかな人間を演じていたのです。やがてそれは…物語となって今に残っています。今宵は遥か昔を懐かしみ、その時の姿で現れました…」
「もしかして………かぐや姫…!?」
「ふふっ、どうでしょう…。──さぁ…昔話はこれくらいにして、勤めを果たしましょう!」月夜美乃神は含みを持たせたまま月を見上げた。
「月よ…我と共にある月よ──今こそ天地をそなたの満ちた光で照らすのです」月夜美乃神が両手を広く掲げると、半月だった月はみるみるうちに満月と化していった。
「スッゴ~い!」
「錫雅様、感心していないで早く御扉を…」錫は智信枝栄に促され神殿の中へと急いだ。
「さぁ、私の考えが間違っていなければ開くはず…」御扉に向かうと錫は口を一文字に結んだ。
「ご主人様の答えはどのようなものだったのですか?」いしが尋ねた。
「〝お月さまも満ちる日には御扉も開く〟──弐の木札の答えよ…いや、答えだ!」信枝がいることを時々忘れてしまう。
「なるほど…。以前のカギを再び使うのね」智信枝栄は頷いた。
──「考えてみたら、この弐の札の答えを導き出すヒントを与えてくれたのも信枝だったわね…」錫は、再び重要な役割を果たしてくれた信枝に感謝した。
「御扉を開くには満月が条件──以前の答えを再利用するのだ」
──「錫雅ならそれくらいするわ…」錫は徐に御扉に手をかけ──ゆっくりと引いてみた。