第26章──真堕羅のオロチⅢ
Ⅴ
ただでさえ不気味に満ちた真堕羅の空気は、更にその不気味さを増していた。
「グオ──!力が漲る…辰夜代よ、間もなくだ。間もなく真堕羅のオロチが私のものになる。魂が熱く燃えるようだ…」
真堕羅のオロチから漏放された妖しい霊気は最早真堕羅を覆いつくすほどに達していた。この霊気が仮にガスだったとすれば、小さな火花で大爆発を起こすに違いなかった。
「蚣妖魎蛇様…手始めに〝黒の国〟即ち〝地獄〟を手中に収めるのですね?」
「そうだ。地獄を手に入れたら、次は鬼や亡者を駒にして、白の国を占領するのだ。見ていろよ…もうすぐだ──もうすぐ奴らは、この蚣妖魎蛇様にひれ伏すことになる…ぐふふふっ」
──「そうだ、もうすぐだ……もうすぐ白の国が私のものになるのだ…」辰夜代の目の奥は冷たく光っていた。
Ⅵ
布羅保志之綿胡は体の震えを抑えられなかった。「奴は、私の霊力欲しさにいきなり襲ってきました」
「それで…どうやって戦った?──普通の人間が互角に戦えるとは思えん…」長老は不思議がって綿胡を見回した。
「長老にはこれが見えますか?」綿胡は霊気を集めて剣を出してみせた。
「なんじゃそりゃ!?──霊剣か…!?」
「日・月・光といいます。これでモノノケを退治しました」
「なんとも見事な剣だな。お前さん…いったい何者だ?」
「これが見える長老もスゴいですけど…」綿胡は旅の途中で日・月・光を授かったことを伝え、その剣で真堕羅のオロチを退治したことを話して聞かせた。
「なるほど…修行で死にかけたお前さんに神玉が…つまり霊神の力が備わったというのじゃな」
「はい。おかげで見たくないモノがわんさか見えるようになって…。生きているのが恐いのです…ふははっ」綿胡は力なく笑った。
「恐いながらもその剣で悪い霊や憑物を退治して回っているというわけか?」
「まぁ、そんなところです。目的は悪霊退治ではなく、この世の最果てを目指すことですが…」
「………。お前さんが辿り着くこの世の果てに待っているものは、お前さんを虚しくさせるだけじゃ」
「それはどういう意味で?」
「お前さんが辿り着くこの世の果ては、さらなるこの世の果ての入り口に過ぎんということじゃよ」
「何を言っておられるのか分かりませんが…」
「わしらの知らぬ大きな世がまだまだたくさんある…。わしらの見ている大地など、その世の爪の先ほどの大きさもないということじゃ」
「ちょ…長老は行かれたのですか?」
「まさか。鳥でもなければ渡れない大海の遥か向こうだ。わしはそれを神に教えられた」
「い、行ってみたい…」
「それはまず、この世の果てに辿り着いてからのこと。それより本題に戻そう──お前さんその剣を使ってどうやって夜泉のモノノケを倒したのじゃ?」
長老の質問に綿胡は苦笑いしながら答えた。