第19章──剣Ⅰ
剣
Ⅰ
錫と浩子は堕羅の大門の玉を覗き込んでいた。
「スンが二本目の剣を見つけたことで、最後の堕羅の大門の玉に絵が浮かび上がったんだね…」
「うん!この絵の意味を解き明かして正しく文字替えをすれば、最後の剣が見つかる──────はず…」
三つ目の堕羅の大門の玉の中には、千木の付いた社の絵があった。その社の中には人物が一人描かれている──着ている服、長い髪を束ねた髪型、そして大きな袋を肩から下げた身なりから、大国主命であると想像がついた。さらにその社の左背後には山があり、その山の右手に半分かかった太陽が描かれている。
今のところ、この絵が何を意味するのか見当もつかないが、第三の剣を見つけるうえで、なくてはならない絵だというのは確たるものだった。
「さて浩子、最後の謎解きと参りましょうか!?」
「そうね…なかなか手強そうだけど、これが解けないと、スンは天甦霊主様に命を捧げないといけないんだものね…」
「そうだよぉ~…こんな命がけの宝探し勘弁してほしいわ…。いしもよろしく頼んだよ!」
「わたくしは足を引っ張らないようにするだけですけん…。なんと言ってもこのいしは、ご主人様の大事な剣を…大事な剣を……くぅ~…」
「……まぁ~た始まった──この子ったら事ある毎にこの調子なのよ…。浩子もなんか言ってやってよ」浩子は〝クスッ〟と笑うと、いしの頭を撫でながら優しく語りかけた。
「いし……心配は無用よ。あなたのご主人様を信じなさい!だって今までの成果を見れば分かるでしょ?最後は必ずなんとかしてくれるのがあなたのご主人様よ………ねぇスン?」
「そ、そうだよぉ~………剣を盗んだ相手は分かっているんだし、取り返してみせるよ……ぐわっはっははは……」まったく自信は無かったが、一応強がってみせた。
【大門の赤鬼は祠泉飲んで襲われる】
「この〝参〟の木札の短文は全部で二十四文字…他の短文より一番文字数が多いよ。………これ見ただけで錫ちゃんは壊れそうだよ…」
テーブルの上に文字カードを並べると、錫は憂鬱なため息を吐いた。
〝だ・い・も・ん・の・あ・か・お・に・は・ほ・こ・ら・い・ず・み・の・ん・で・お・そ・わ・れ・る〟
「スン、肩の力を抜いて考えてみよう。まずは…ここから〝お・お・く・に・ぬ・し・の・み・こ・と〟の文字は────抜き出せない…」
「別の神様の可能性は?」
「う~ん、そうねぇ…この絵を見る限り大国主命の他には考えられない…」
「あっ!たしか大国主命って別の呼び方もあったわよね?」
「あるにはあるわよ〝大物主大神〟もしくは〝大黒様〟…でもその文字も揃わない…」
「では、山にかかったお日さまの絵はどうですか?」いしが割って入った。
「この絵はどう解釈すればいいのやら…。私がこの絵から想像できる言葉は〝やま〟〝たいよう〟〝おひさま〟〝あさひ〟〝ひので〟〝ゆうぐれ〟〝にちぼつ〟 〝ゆうがた〟〝ひぐれ〟〝ゆうひ〟〝たそがれ〟まぁこんなところかな…」
「スンやるじゃない!たくさん出たわね。でも抜き出せる単語が一つもない…」
「ありゃ~…。こんなに頭を振り絞ったのにどれも違うってこと?ふにゃ~ん………ヒントのヒントがほしいわ…」
「山と大国主命といえば…。今わたくしはご主人様が秘宝を探しに行かれた三輪山を思い浮かべました」
「そう言えば、三輪山は大国主命のご神体だったわ!…でもダメだ、〝み・わ〟の文字はあるけど〝や・ま〟の文字はないもん」
「三輪山に入山する受付のあった神社は〝大神神社〟だったけど…」
「わっ、ほらほら…〝お・お・み・わ〟の文字なら抜き出せるよぉ~!」
「じゃ、もしかして正解でありましょうか!?」
「だとすれば、やっぱり三輪山に最後の剣があるってことかな?」
「可能性はあるけど先走りは禁物よ、スン」
「そうだね。仮にこの四文字を抜き出したとしても、残りの二十文字をどう入れ替えるか……これは超難題だわ…」
錫たちは時間を見つけては文字の入れ替えに格闘した。けれども、焦る三人をあざ笑うかのように、新たな短文は文字の中にじっと潜んだままだった。
そうして世間では────慌ただしい師走がそこまでやって来ていた。