第15章──災いⅢ
Ⅳ
魅園から大きな収穫を得て帰ってきた錫たちだったが、それでものんびりと休んでいる暇はなかった。
やっとの思いで見つけ出した第一の剣は、不覚にもまんまと堕羅の亡者に奪われてしまったからだ。なんとしても奪還しなければならない。
けれども同時に第二の剣を見つけ出すヒントも得た。堕羅の大門の玉の中に新たに浮かんだ絵は、間違いなく次の剣へと誘う道しるべのはずだ。この絵をヒントに〝弐の木札〟に記された短文の文字を入れ替えれば、第二の剣に辿り着くはずだった。
「浩子、この絵をどう解釈すればいい…?それが解けないと、短文だけでは答えが出せないよ…」
「…【ひらひら散る木の実は鬼様も飛びつく実】…前の短文より文字数が多いものね…」
「だよねぇ~…また錫ちゃんの頭が噴火しそうだぞぉ~こりゃ…」
「ご主人様…玉に浮かび上がった御扉は、ご主人様の家の神前の御扉でしょうか?」
「それはまだなんとも言えないよ…」
今度の絵は〈御扉とうさぎ〉だった。御扉は左右とも開かれている。そしてその御扉の遙か上でウサギが描かれている絵だった。錫は最初の短文のときと同じ要領で、ひらがなの文字カードを作って並べてみた。
「この絵から単純に引き出せる文字は〝みとびら〟と〝うさぎ〟だね……」
【ひ・ら・ひ・ら・ち・る・き・の・み・は・お・に・さ・ま・も・と・び・つ・く・み】
「まずは〝み〟…あった!次に〝と〟…おぉ~っ、あるじゃん、あるじゃん!」錫はこんな調子で文字カードから一文字一文字抜き取っていった。「あるよ…〝み・と・び・ら〟は全部ある。次の剣が隠してある場所は御扉の中かもね!?」
「だけどねスン…さっきいしが言ったように、剣の隠してある御扉はスンの家の神前の御扉かしら…?」
「実はね…私は我が家の御扉には前から疑問を感じていたの」
「疑問を?」
「うん。最初の秘宝を探しているときのことだけど、私は大掃除の時にパパに尋ねたことがあるの…〝ここにはなんの神様が祀ってあるの?〟って…。その時パパはこう言った──自分も知らない。おじいちゃんからも聞いたことがないって…。それからこうも言った──おじいちゃんが聖霊をそれらしく見せるための飾りじゃないかって…。だけどおじいちゃんの正体を知っている私は、それはあり得ないと思ったんだ」
「虎慈様に限って、そんな小細工は必要ないってことね?」
「そのとおり!結局、天の秘宝の在処を記したメモが御扉の中に隠してあったから、それで私の疑問もなんとなく解決したんだけど、でも今ひとつスッキリはしなかったの…。たった紙切れ一つのために御扉を造ったとは思えなかったから…」
「ということは…ご主人様は家の御扉は剣を隠すために設えたものかもしれないと?」
「うん…今となったらそう思う!祀る神様もないのに、あんな立派な神前いらないもん…。本当の目的は剣を隠すためのものだったと考えたらスッキリしない?」
「ですがご主人様…以前ご主人様が扉を開けました時、わたくしもご一緒させて頂きましたが、剣のような物は無かったと思うのですが…?」
「そこが問題なのよぉ~…………ぎゃはっ!」
「もう…スンったら…ふふふっ。とにかく、このうさぎの絵がもう一つの鍵よね…。けど見て…この短文からは、うさぎの〝さ〟の文字しかないの…」
「とすると何をヒントに残りの文字を組み替えればいいのでしょう?難解ですね…ご主人様」
「頭で考えてもダメね。パパにバレないように御扉を調べてみないと…」
〝みとびら〟の四文字を抜き取ると、残りは十六文字だ。
【ひ・ひ・ら・ち・る・き・の・は・お・に・さ・ま・も・つ・く・み】
剣を見つけ出すためには、この十六文字を組み替えねばならない。だが、〝うさぎ〟の絵の意味が解けないかぎり、この十六文字を正しく組み替えるのは容易なことではなさそうだった──。