第15章──災いⅡ
Ⅲ
それは大きな地響きとともにやってきた──。
〝ゴゴゴゴ…〟という重低音の後に激しい縦揺れが襲ってきた。立っていた者も次の瞬間には倒れ込んだ。そのあと大地は怒りを顕わにして大きな横揺れに変化した。どのくらいそれが続いただろう──やがて何事も無かったかのように揺れは静まった。
「だ、大丈夫か?」。「誰も怪我はないか?」
皆が声をかけ合った。あちこちで幼子の泣く声がしていたが、全員無事でいるようだ。
けれど大地震の残した爪跡は凄まじく、地は割れ、民家のほとんどが倒壊した。どの民もショックを受けてはいたが、それでも命が助かったことの喜びの方が遥かに勝っていた。
箕耶鎚は、畑に集まった全員がみな助かったことを確認すると、一目散に心御柱を確認しに行った。
「……………………な……なんってことだ……」無惨だった──。ただの一本として残っている柱はない。それでも、ものは考えようだと箕耶鎚は気持ちを切り替えた。
──「今の時点で良かったのだ。もし本殿が完成した後だったら、この程度の心痛では済まなかったろう。それに誰も命を落としてはいない………何よりそれが一番ありがたいことではないか」自らの心の柱だけは倒れないように思いを強く持ち、箕耶鎚は一からやり直す覚悟を決めたのだった。
○
地の怒りに怯えた民だったが、箕耶鎚には誰もが感謝した。箕耶鎚の姿が見えると民たちは手を合わせた。頭を地に擦りつける者もあった。正直、箕耶鎚は感謝されるほど本心が痛んだし、大げさにしてほしくはなかったが、だからといって真実を話すことはできなかった。
それから十数日の時が経った──。矢馬女を苛立たせないために〝心御柱〟を立て直す準備を急いでいた箕耶鎚は、どうにかその作業を終えることができた。
──「地のお怒りで振り出しに戻ってしまったが、これでまた仕事を再開できる」──そう思った矢先、待ったをかけた人物がいた。その人物とは誰あろう矢馬女自身だった──。矢馬女は村の民たちを屋外の集会場に集め、神々しい飾り物を施した身なりで民たちの前に姿を現すと、高く築かれたやぐらの上に立ち両手を大きく広げて高らかに叫んだ。
「我は神と一体なり!我の言葉こそが真実なり!皆、しかと心得よ!」その言葉に民たちは跪き頭を垂れた。
「我は、この神出ずる国を治める、たった一人の選ばれし者。しかるに…この中に神を謀る不届きな奴がおる。その者には裁きを下さねばならん…」矢馬女はやぐらの上から民たちをゆっくりと見回した──。そして右手を高く挙げ、人差し指をピンと立てると、徐に民の一人を指したのだった。
その指の延長線にいた人物とは?────民たちの目が一斉に矢馬女のゆび指した人物に集中した。