第12章──並び替えⅢ
Ⅳ
近頃の葉女は姉の種女のことを案じてばかりいた。四六時中、種女の側で番をしてやりたいくらいだった。
例の縫い針騒動からこっち、種女の身の回りには何かと嫌がらせらしきことが頻発していたからだ。
最初は道ばたの途中に、あろうはずのない水たまりができていたり、大きな穴が空いていたりした。種女は一人で歩く時、必ず樫の杖をついて歩くので大事には至らなかったが、一つ間違えば大けがをすることだってあり得る。
足下が駄目だと思った何者かは、道の両端に立っている木と木の間に縄を張った。足下の障害物は杖でなんとか凌げるが、宙づりにされてあるものはそれこそ盲点だ。縄にはご丁寧にベッタリと漆の汁が塗ってあった。しかも種女の胸辺りから上に三本だ。顔面につけばカブれてしまっていただろう。この時はあわやというところを助けてくれた人物がいた──浦祇乃里女だった。縫い針騒動の折りにも種女を助けてくれた矢馬女の側近だ。
「大事ないか…?目の見えない子になんて卑怯なことを…」
「里女様、危ないところをありがとうございました」
「たまたま通りかかっただけじゃ。それより、縫い針騒動から後、屋敷内はどうもおかしな空気が漂っておる。気をつけるがよいぞ…」里女の忠告は間違っていなかった。他にも服を洗って干している間に肥をなすり付けられたり、種女の部屋に毒虫が投げ込まれたりした。さすがに毒虫とて何者かの思惑どおりに種女を襲ったりはしない。そこで今度は飲み水を溜めた瓶に毒虫を大量に忍ばせた。何も知らない種女が、椀で水を掬って飲もうとしたとき、誰かがその椀を叩き落とした。いきなりで驚いた種女は声も出せずに固まってしまった。
「…水に毒虫が浮いておる…。こんなものを飲んだら大変じゃ」
「里女様…?また助けてくだされたのですか?」
「どうやらお前が一人っきりになると悪さをする奴がおるようじゃ」
「ごめんなさい。里女様にいらぬ心配をおかけして…」
「詫びなどいらぬ。けれど、くれぐれも気をつけるがよい…今もこちらの様子を窺っている奴がおるはずじゃからな…」里女は周囲を見渡しながら囁いた。
〇
「里女様め、いらぬことを…。だが考えてみると、こんな嫌がらせを繰り返してもなんの意味もない。種女を完膚なきまで叩き潰す策はないものだろうか…?」苦虫を噛み潰したような顔で、柱の陰から〝じっ〟と覗いていたのは、種女を妬んでいた田祢壬だった。