第8章──四天王Ⅳ
Ⅳ
「一松先輩…やっと判りました」
「ずいぶん時間がかかったな?」
「すみません。ちょっと手間取ってしまって…」
「それでどうだった?早く結果が知りたい!」
「はい。言われていたものと同じナンバーの持ち主のリストがこれです」若い刑事が一松にA4サイズの用紙を渡した。
「これって大鳥舞子の事件に関係あることでしょう?私なりに気を回して、少しばかり車の持ち主を調べてみたのですが、事件に関わっていそうな人物はいませんでした…。それが手間取った理由です…」
「誰かに車を貸したのかもしれないだろう?」
「はい…その可能性はありますが…。気になったのは一台だけ個人の車ではないものがあったことです…」
「あ~…もういいから……早く説明してくれ」一松はイライラしてタバコに火を点けた。
「すみません…つまりです──〝わ〟ナンバーがあったんです」
「〝わ〟ナンバー…………レンタカーか…」
「えぇ。そして………これが事件当日に車を借りていた人物です…。偉いでしょう!?ちゃんと調べてきたんですから…」若い刑事は自分を褒めてから、もう一枚の用紙を一松に手渡した。
──「松本弘志……この男が犯人なのか…?事件の日、大鳥舞子は犯人の車のナンバーを目撃していたんだろうか…?いいや、何をわけの分からないことを考えているんだ僕は…。まったく目の見えない彼女に限ってそれはない…。じゃ、どうして香神さんは、このナンバーの車の持ち主を見つけてくれと僕に頼んできたんだ…?根拠はいったい何なんだ…?彼女は大鳥舞子から何を聞いたんだ…?」一松は頭がこんがらがっていた。
Ⅴ
種女は、父・箕耶鎚に助けられて、元の〝御矢馬仕え〟として矢馬女の身の回りの世話をしていた。命がけで自分を助けてくれた父に申しわけなくて三日三晩泣き続けた種女は、その後も暫く何も手に着かなかった。妹の葉女に支えられて、なんとか身体を動かせるまでになったのは、ほんの半月前の話だ。
箕耶鎚からは、〝今後は神からお告げがあっても自分の胸に納めておいて、絶対に誰にも口外するな〟と厳しく釘を刺されていた。
一方、矢馬女は神殿の建築を再開させるべく地方から宮大工職人たちを抱える準備を進めていた。といっても結局それは長である箕耶鎚の務めだ。箕耶鎚は宮大工たちを集めつつ、銅職人も集める必要があった。太い三本の柱を束ねる道具作りのためだった。
種女が再び御矢馬仕えになったことを面白く思わない連中は大勢いた。田祢壬もその中の一人だった。〝為仕え〟だった田祢壬は、種女がいなければ自分が御矢馬仕えに持ち上げてもらえると信じていたからだ。
──「一度は牢にまで放り込まれた種女が、再び御矢馬仕えに用いられるなど許されるものか…。目の見えない役立たずな女を矢馬女様はどうしてあんなに可愛がるのだ…?あのての女は調子に乗らせるとますます付け上がるに決まってる。見てなさい種女……お前をこれ以上好きにはさせないから…」
田祢壬は種女に対し、憎悪の念を抱き始めていた。