第7章──絡みごとⅡ
Ⅱ
大鳥舞子と大鳥葉子の双子の姉妹は、錫の突拍子もない話に吸い込まれて食い入っていた。
「それじゃ、狛犬さんは実在していて、錫さんのお仲間だっていうわけ?」
「〝いし〟っていう名前まであるんですね…。さすがのお姉ちゃんもビックリでしょ?」
「えぇ…まだまだ知らない世界があるわ。もっとも目の見えない私は、知っている世界も少ないけど…ふふっ」舞子本人だから許される冗談だったが、錫はその冗談に便乗して笑って良いものかどうか悩んだ末に結局笑った。
「そうなのよ錫さん、そうやって遠慮なく笑ってくれた方が嬉しいの。妙に気を使われると返って良い気がしないものよ…」心の中を見透かされていたような言葉に驚いた錫だったが、その言葉に救われた。
「私は目が見えないだけで、その他は誰とも違わないわ。時々面白半分におかしな質問をしてくる人もいるけど、私は全く気にならないの」
「面白半分な質問って?」
「目が見えるようになりたいか?とか目が見えるようになったら一番最初に何が見たい?なんて言う陳腐な質問よ」
「見えるようになりたいか?って…そんなの決まっているじゃない。ホントにバカげた質問…」聞いている錫の方が腹を立てた。
「幼い頃は自分の顔を見てみたかったわ。でも成長と共に感覚が鋭くなると、触っただけで形が分かるになった。そしたら私の顔って満更でもないって知ったの……それどころか私って結構美人なのよね…ふふふっ」
「うんうん…舞子さんは確かに美人だよ──ということは自動的に葉子さんも美人っていうことね!」
「あら…私まで美人にして頂けて光栄!」葉子は大げさに喜んでみせた。
「話を戻しましょうか────たとえば冷たいとか熱いとか、辛いとか甘いとか…そうした感覚は言葉では分からないけど、体感すれば理解できる」
「うん……」
「けれどね、一つだけどうやっても理解できないものがあるの…。なんだと思う?」それがなんなのか、錫には見当もつかなかった。
「分からないでしょう?……それはね────〝色〟よ!」錫は聞いた瞬間〝はっ〟とした。そして、目の見えない人たちのことをまったく理解できていない自分に恥ずかしさを感じてしまった。
「色だけはどうしようもない。どう説明されても想像できない…。だから目が見えるなら何がみたいか?と尋ねてくる人には〝色〟と答えるわ。たいていの人は驚いてるけど…くふふっ」
「ご、ごめんなさい…私も驚いた。……というよりそんなこと考えてなかった…」
「当たり前というのは素晴らしいことよ。今まで意識をすることもないほど当たり前だったことも、失ってみるとその大切さが分かるわ」錫はこの言葉に大きなハンマーで頭を叩かれたような衝撃を受けた。
──「分かったつもりでいてた…。私は霊力を手にしてからというもの、仲間たちに助けられたり教えられたりしながら、少し分かったつもりでいてた。…けど、まだまだそうじゃないみたい…。頭で分かることと、舞子さんのように本当にその立場になってみないと分からないこととは違うんだ。本当に相手の気持ちが分かってあげられないと、本物の聖霊師にはなれない」錫は自分の内面をもっと磨かなければならないと、この時強く感じたのだった。
「…と、ここまでは面白半分に聞いてきた人への答え…。──だけど錫さんにはここから続きの話があるの…」
「私…そういうのスゴく気になるタイプ!」
「でしょう──!?これから葉子以外は誰も知らない私の秘密を聞かせてあげるわ。そのかわり真犯人を捕まえるのに協力してね?」
「し、真犯人を…!?」
「警察に疑われたままだと嫌なの。それに悪い奴を放っておけない。…だからこの際、私たちで犯人を見つけちゃいましょう!」
「そ、そんなこと…できるの?」
「幸い一松って刑事さんも協力的みたいだし…」
「それはそうだけど…。いったいどうやって犯人探しをするの?」
「これから説明するわ。そのかわり今から私が話すことは絶対に内緒だよ」
舞子は意味あり気に口元だけで微笑むと、錫の耳元に口を近づけたのだった。