第33章──それぞれに…Ⅴ
Ⅴ
「わ~見て見て宍道湖だよ…宍道湖!」一畑電車の車窓に映る懐かしい景色に錫は大はしゃぎだ。
「今回はちゃんと言えたわねスン」信枝が錫のほっぺたをつっついた。
「錫ちゃんにも学習能力はありますからね~」自慢気な錫だ。
錫たちは再び出雲大社を訪れることになった。満場一致(といっても三人だが)で決まった行き先だった。
出雲大社に着くと、三人は感慨深く境内地を歩いた。
「私がまたここに来たかった理由は分からないでしょ?」信枝が二人に問いかけた。
──「よく分かるけど…うふっ」浩子はそう思いつつ「見当もつかないわ…」と答えた。
──「理由はあれしかないじゃない」錫もそう思ったが「大国様に惚れちゃったのかな?」とボケた。
「ざーんねん。私ね、少し前に体を抜け出してここに来ちゃったの。しかも…しかもよ……錫雅様に頼まれて──きゃー!」錫と浩子は顔の筋肉を動かすことなく、お互いチラリを目を合わせた。「そして…なんと…なんとよ……本当に建ってたのよ!古代の出雲の神殿が…。信じられないでしょう?」
「…そ、そんなの信じられるわけな、な、ないよね浩子」
「そ、そうよ。あれは大昔に建っていた神殿だもん」
「それがあったのよ…この場所にね。それからね…錫雅様と行ってきたわ…またまた異国に──オロチを退治しにね…。錫雅様と私は力を合わせて強敵オロチを見事に封印して………それから……やめとこ…。あんたたちにはどうでもいい話だろうから…。錫雅様に申しわけないわ…」
──「登場人物は二人だけぇ?仲間は出てこないの?……にゃはは…」錫雅尊に一途な信枝を思うと錫の心は複雑だったが、同性として信枝の恋心は理解していた。
決して結ばれることのない切ない恋だが、信枝はそれでも満足だった。信枝の錫雅尊への恋心は、これからますます燃え上がるだろう。
〇
古代出雲歴史博物館──三人は前回ここには立ち寄らなかった。信枝と錫はそれほど興味がなかったからだ。
館内に入ると、三人は思い思いに歩き回った。
「古代出雲大社──模型でも結構な迫力だなぁ…」錫は想像を絶する百㍍級の神殿を思い浮かべていた。
浩子は、とあるガラスケースを意味ありげに覗き込んでいた。
浩子が前回ここに立ち寄らなかったのは他の二人とは違う理由だった。
「探しちゃったよ…。信枝は?」追いついた錫が後ろから声をかけた。
「一足先に外に出たわ…」
「そうなんだ…。浩子は何を見てたの…」ガラスケースに収められていたのは、ちょっと変った代物だった。
「うん…何となく形が可愛くて見入っちゃってたの…」
「ふ~ん…なんだろコレ…変わった形をしたモノが出土したんだね?」
「そうだね………。スン、私たちもそろそろ出よっか?」
「は~い!ねぇ、みんなで出雲ソフトの大盛食べようよ!?」錫の食い気は相変らず健在だ。
「はいはい。なんでも好きなだけどうぞ…うふふ」浩子は笑いながら錫の後を歩いていたが、振り返って呟いた。「みんな………ありがとう」
錫はそれには気づかない体で出口へと向かった。
──「浩子…前回は思い出すのが辛くてここに入らなかったんだね…。それくらい分かるよ──だって私……これでも聖霊師だもん!」
長い長い時代を経て再び持ち主に出会えたことを────星形をした琥珀色の石も、ガラスケースの向こうから懐かしんでいるようだった。
完
聖霊少女錫──全作品をお読みいただきありがとうございました。
当初予定していたより長い長い物語になりました。
続編は考えていませんでしたが、気まぐれで登場させた矢羽走彦のエピソードを書いてみたくて、続編に繋がりました。
続々編も考えていませんでしたが、続編の謎解きだった三つの短文の文字書き換えのアナグラムが完成したとき、続々編へのストーリーも同時に出来上がりました。
これで聖霊少女錫の物語は終わりますが、書ききれなかったエピソードが幾つかあります。
聖霊少女錫──外伝としてこれから書いてみようと思います。
12月から 『天導師』 を配信しますので、お楽しみください!