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第33章──それぞれに…Ⅲ

 Ⅲ


 錫の生活に平和が戻って半月ほど経った頃──いしと綿がとんでもない吉報(きっぽう)を運んできた。

「ご主人様。紹介(しょうかい)したい奴がおりまして…」

「紹介というよりお披露目(ひろめ)だね」綿が訂正(ていせい)した。

「紹介…?…お披露目…?──いったいなんのこと…?」

「はい。実はわたくしたちのことを報告しに天甦霊主(あまのそれいぬし)様のところへ行ったのです──そうしたら…」


 〇


 天甦霊主はいしと綿の結婚をたいそう喜んだ。なんといってもいしと綿は白の国を救った英雄(えいゆう)なのだ。

「お前たち英雄に私から褒美(ほうび)(あた)えよう」

「褒美などと…。それにわたくしたちは英雄ではないですけん」綿もいしの隣で(うなず)いた。

「まぁそう言うでない…。これから私がそなたたちには絶対に不可能なことをしてやりましょう──それが褒美です」

 (こう)()(しゅ)である狛犬は、拗隠(よういん)の国でのみ生まれる。そこに流れ込んだ人間の(きたな)き心が狡狗を生み、汚き心に(わず)かに()じっていた聖なる心が狛犬を生みだすのだ。

 天甦霊主はいしと綿の霊気を半分ずつ吸い取った。それを神のみ可能な霊力を使って融合(ゆうごう)し、新たな()()を生み出してしまったのだった。

「このような神技(かみわざ)を使ったのはもちろん初めてです」もしかすると、これは神の法を犯す行為かもしれないと天甦霊主は思った。

「さあ──私からの褒美です…」いしと綿は心から礼を言って白の国をあとにした。


 〇


「そんな訳ですご主人様。天甦霊主様はわたくしたちに新たな魂を授けてくださいました」

「出ておいで…。錫殿にご挨拶なさい」綿がそう言うと、錫の目の前に小さな(おす)の狛犬が現れて、ちょこんとお座りした。

「はじめまちて」両手に(おさ)まる小さな狛犬は、行儀(ぎょうぎ)よく〝ぺコン〟と頭を下げた。

「いや~~~ん…カァワイイ~ッ!」思わずチビ狛を抱き上げた錫の目はチャクラまでもがハート型だ。

「私たちの血を分けた──いや…(たましい)を分けた子供ですけん」。「天甦霊主様がくださったご褒美です」

(いき)なことするじゃないの──自称神様(じしょうかみさま)ったら」

「ご主人様、そこでお願いなのですが──是非ともこの子の名づけ親になってください」

「私が!?」

「お願いちまちゅ…ごちゅじんちゃま」

「うんうんイイでちゅよ!」錫の考える時間は一瞬だった。「──では君は今から〝こいし〟でちゅ!」

「〝こいし〟ですって!」。「私の名前を取ってくださったのですね!」綿もいしも大喜びだ。

「うん、幼少期(ようしょうき)の名前ということで!」

「わたくちは〝()()()〟。とーとーちゃま、かーかーちゃま──よろちくでちゅ()()

 小さいが(りん)とした〝こいし〟を見て、たくましい狛犬になるだろうと錫は感じていた。

 ──「だって──いしと綿の魂をもらった子だもん…」



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