第33章──それぞれに…Ⅰ
それぞれに…
Ⅰ
「ねぇ、お姉ちゃん…錫さんとお姉ちゃんはやっぱり前世で繋がっていたの?」
「うん、そうだった…。でも、気になりだすと居ても立ってもいられない錫さんが、前世を聞かなかったのには驚きだったわ…」
「私の方が気になるわ。お姉ちゃん、ナイショで教えてくれない?」大鳥葉子は興味深げにねだってみた。
「だめよ、教えてあげない…」大鳥舞子は意地悪っぽくそう言って布団に入った。
「イジワルなんだからぁ~…」笑いながらふくれて葉子も布団に入った。
「ねぇ葉子…ちょっと面白い昔話があるから、子守歌がわりに聞かせてあげるわ」そういうと舞子は空で語り始めた。
《昔むかし…とっても昔──あるところに小さな村がありました。
この村の守り神は山奥にある小さな滝と、その滝を見守る夫婦の老木でした。
いつからか、村はこの地方に棲む恐ろしい化け物にたびたび襲われるようになりました。村人たちは娘たちを生贄にしていましたが、とうとう差し出す娘もいなくなりました。
そんなある日──村に一人の旅人が訪れました。守り神の小さな滝と夫婦の老木は、この旅人を嗾けてまんまと丸め込むと、みごと化け物を退治させたのでした。
滝は今も村の守り神としてどこかにありますが、夫婦の老木はいつしか朽ちてしまったのでした…。
神様は滝と村をずっと守り続けてきた夫婦の老木に、褒美として一つだけ願いを叶えてやることにしました。
愛し合っていた夫婦の老木は、また生まれ変わっても、どんな形であれ一緒にいたいと言いました。
神様はその望みを叶えてやると約束しました。
そうして夫婦の老木は、人間となって一緒に生まれ変わったのでした…》
「…………。この夫婦の老木って、お姉ちゃんと私…?」
「さぁ、どうでしょうか…」
「なんだかちょっとスッキリしない終わり方だなぁ…」そう呟いていた葉子だったが、暫くすると気持ち良さそうな寝息が聞こえてきた。
「葉子…寝ちゃった…?──寝ちゃったかな…?もう少し続きがあるんだけどね──老木はこんなことも思っていたようよ…」
《叶えてもらえる願い事は一つだけでしたが、夫婦の老木は、心の中でもう一つ願っていたことがありました。「化け物を退治して村を救ってくれたあの旅人とも再び会いたい」──と…。神様は老木のそんなささやかな願いも叶えてやることにしたのでした────おしまい》
──「…どうやらもう一つの望みも叶ったみたい…。再び会えたもの……布羅保志之綿胡っていう旅人さんと…」
その夜──舞子は錫と一緒に大きな化け物を退治する夢をみた。