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第5章──引き合わせⅡ

 Ⅲ


 (けが)れなき(うつわ)(きよ)(いずみ)をすくいて(われ)にたらせよ


 宝水玉(ほうすいぎょく)を取り出し左手に持った錫は、右手に目的のモノを手にした。

「ご主人様…それは………………あっ!」いしは(しばら)くきょとんとしていたが、錫の(ひらめ)きを理解すると、改めて行儀(ぎょうぎ)()くお座りして目を輝かせた。 

「分かったでしょ?〝我にたらせよ〟……一番身近にあるものは、つい(おろそ)かになっちゃうのよね…」

「けれどご主人様…考えてみれば正解かもしれません」

「だといいんんだけど…。…んじゃ、いくわよ…」錫は宝水玉(ほうすいぎょく)に入った聖水を右手に(にぎ)った()()()()()にポタポタと()らした。「………ねぇいし、ほら…見てみて!」

「う~ん…これは正解ですね、ご主人様」いしは興味深げに小さな木札を(のぞ)き込んで(うな)った。

 錫といしの見ている前で文字が徐々(じょじょ)に薄れていった。やがてすっかり消えてしまうと今度は違う文字が浮かび上がってきたのだった。

 錫が導き出した答えは、〝穢れなき器に清き泉をすくいて我にたらせよ〟と書かれた小さな木札そのものに聖水をかけることだった。

「こ、これは……ご主人様これは…スゴいですけん。──〝我に〟…は小さな木札そのものを()していたのですね」

「うん………。だけどこれって……また頭を痛めそう…」錫が情けない顔でため息を吐いた。いしはモコモコのほっぺたで錫の腕をすりすりとさすって気持ちをほぐしてやった。


 〝穢れなき器に清き泉をすくいて我にたらせよ〟──この文字が変化して(あらわ)れた新たな文字に、錫は早くも頭を(なや)ませた。


 ほ──七 ろ──゛三 い──二 に──一 は──九 


「……こりゃちんぷんかんぷんだわ」

「でもご主人様、これではっきりしたではないですか。やっぱりご主人様は剣の隠し場所を残していたのですよ」

「そ、そうだよね!これって剣の在処(ありか)(しめ)しているんだよね?」

「そうとしか考えられません!──この謎が解けたとき、必ず(つるぎ)が見つかりますけん」

「えら~い!──さすが錫雅…まぁ私だけど…くふふっ…」

「はいです!やっぱりご主人様は()かりのないお方ですけん」

「ねぇいし…同じ主人でも私と錫雅とはぜんぜん違うと思ってなぁい?」錫が悪戯(いたずら)っぽくいしに問いかけた。

「お、思ってないですけん…からかわんでくださいよ」いしはたじたじしながら答えた。

「きゃははは…可愛いねいしは」新たな展開(てんかい)に錫は見通しが明るくなって有頂天(うちょうてん)だ。「あのねいし、たった今閃(ひらめ)いたんだけどね…。この文字のひらがなをよく見て何か思いつかない?」錫は机の引き出しからメモ用紙とポールペンを取り出すとさらさらと書き()えてみた。


 い──二 ろ──゛三 は──九 に──一 ほ──七

「……………あっ、あぁ──っ!」いしも気づいたようだった。

「ほらね…〝い・ろ・は・に・ほ〟──これでスッキリ!」

「ご主人様、この調子だと早いうちに剣が見つかりそうですね?」

「でっしょう~!?…イイ感じ!」舞い上がっていた錫だったが、そこから先に進まなくなってしまった。

「二・三・九・一・七…この数字はなんだろう…?二万三千九百十七円?通帳番号…電話番号…はたまたどこかの金庫のダイヤル?……+-×÷?…それに二番目にだけある〝 ゛〟は…?」錫が考えている間、いしは黙ってそれを見守っていた。東の空を見ると新鮮(しんせん)な太陽がちょこっと顔を出しかけている。

「スゥ~…スゥ~……」錫はいつの間にか深い眠りに落ちていた。 

「お疲れなのでしょう…一晩ずっと考えておられたのですから…」できるものならそっと布団(ふとん)をかけてやりたかった。「…ここまで順調(じゅんちょう)に来ただけでもすごいこと…。なにしろ()()ご主人様のことだ──簡単に見つかるような隠し方はなさらないはず…。ご主人様が生まれ変わったご自分に()てた問題…おそらく難題に違いない…見つけ出せるだろうか?天甦霊主様(あまのそれいぬしさま)の言うとおり、今のご主人様が死ねば白の国の記憶が戻り問題は一気に解決だ。…だがそんな(おろ)かなことはさせない。わたくしは…ご主人様の下僕(しもべ)として、どんなことも()しみませんけん」忠義(ちゅうぎ)(あつ)いいしは、優しく見守るように、錫のしなやかな足下(あしもと)に背を丸めて静かに横になった。


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