五階層攻略開始
更新が遅くなりすみません。一つの話を書いているうちに長くなったので二分割して前半を先に載せます。
「ん、今は……六時か。思ったより早く起きれたな。」
昨日あれだけ動いたから早起きは出来ないと思っていたけど、案外寝起きはすっきりしている。やはり頭と身体をバランス良く使って健康的に疲れると深く眠れるみたいだ。
「今日はダンジョンの後素材を売りに行く予定だったからな。寝坊して時間削られなくて良かった。」
ほっと息を吐き、ベッドから起き上がる。
さて、今日も元気にダンジョン攻略だ!
昨日と同様に準備を済ませた僕はダンジョンに向かった。
「さて、ダンジョン着いたけど武器どうしようかな。せっかく新しい武器作れるようになったから使ってみたい気持ちはあるんだけど、慣れない武器だと上手く戦えない危険性もあるんだよな。」
ダンジョンの入口で準備運動しながら考え込む。
昨日新しく解放されたデスゲームの武器は今まで作ることの出来たアイテムに比べて殺傷能力が高いものばかりだ。更に近接遠距離共に多くの種類があり、戦略の幅は確実に広がる。しかしここまで続けて来た拳銃主体の戦い方も捨て難い。ここは……
「うん、実際に五階層で戦ってみてから考えよう。」
一度思考を後回しにして五階層へと進むことにした。
途中で出会したモンスターを倒しつつ三十分程かけて五階層に降りた僕は、一度休憩を挟んで呼吸を整えた。それから改めて今日の探索方針を確認する。
「まずはいつも通りの戦い方でやってみよう。それでいけそうなら新武器も試してみる。これでいいよね。……よし、早速実験の協力者に会いに行こうか。」
ミノタウロスを求めて僕は駆け出した。
間もなくして最初のミノタウロスを見つけた。数は一体。一対一は実験しやすいからとても助かる。ということで、
「実験開始だ。」
まずは今まで通り気配を極力消して接近し、先制攻撃をする。
パァン!
「グモッ!?」
完全に不意をつけたようで問題無く一発目は当たった。しかしあまりダメージは入っていないようだ。やはり一発当たりの火力不足が目立つようになってきたな。
「でも、戦えない訳じゃない。」
気を取り直して再び拳銃を構える。流石に先程の発砲でこちらに気付かれているので今度は真正面からの戦闘だ。恐らくより難易度の高い動きが要求されるだろう。
少し、緊張するな。
「………ふぅ、いくか!」
連続で発砲しつつ全速力でミノタウロスに接近する。真正面から向かって来る僕を迎え討つようにハルバードが振り翳されたので、走る勢いのまま身体を横に倒し速度を落とさず方向転換した。そうして紙一重の位置でハルバードを避け、助走で得た力を跳躍力に変換した僕はミノタウロスの角を掴み頭の上に乗る。
この位置まで来れば色々実験し放題だな。まあ暴れない訳じゃないからそこは頑張ってしがみつかないといけないけど。
まずは試しに首筋にナイフを刺してみるが、やはり五階層のモンスターなだけあって刃が通りづらい。これは拳銃で直接撃ってなんとかというところか。
ミノタウロスが身体を揺らして僕を振り落とそうとするのに合わせて空中へ飛び出し、逆さで落下しながら顔の正面側に回る。そして先程換装した二丁拳銃の照準を両眼に合わせ、にいっと嗤う。
「こんにちは。そして、さようなら。」
パンパァンッ!
身体を回転させて姿勢を整え、しっかりと足で地面を踏みしめた。それから着地の際の溜めを利用して転がり、少し離れた位置で討ち損ねた場合を警戒する。
「………………ふぅ、ちゃんと決まってたみたいで良かった。決め台詞吐いてとどめ刺せてなかったら笑えないからな。」
ミノタウロスが倒れて魔石へと変わったのを確認し、緊張を解いた。
取り敢えずは今まで通りでも戦えるみたいで良かった。でもこれが対多数になると一体当たりに時間をかけるわけにもいかないから、やはり火力不足は否めないか。これは新武器の出番だな。
「まずは安全圏から攻撃出来る方がいいか。それで倒せるならその方が楽だし。」
そうしてライフル、マシンガンを各二セット、爆弾を十個『作成』した。
「取り敢えずこれで戦ってみるか。」
一戦目、二体のミノタウロスに向けて起動した爆弾を投げつけその時を待つ。間もなくして爆弾はその効力を発揮し辺り一帯を吹き飛ばした。煙が消えて行き、徐々に見えてきたミノタウロスは、
「グモォ……」
「グモォッ!」
一体が四肢の一部を欠損して弱っており、もう一体は欠損は無いものの全体的な負傷が見られ怒っている様子だった。
「いや、威力やばくないか?仮にも五階層のモンスターだよ?普通の牛じゃなくてファンタジーなんだよ?それであのダメージって………」
予想を大きく超える威力に作った身でありながら驚いていた。相変わらずファンタジー補正の入ったアイテムに呆れつつも自然と笑みが溢れてしまう。
それと、爆弾を使ってみたことで判明したがダンジョンというものには自動修復機能があるみたいだ。爆破によって崩れた筈の箇所が数秒後には何も無かったかのように綺麗になっている。ここまでしっかり想像通りとは、何処まで僕を喜ばせてくれるのだろうか。先程浮かべた笑みが更に深まるのが自分でも分かった。
「っといけない。今はまだ戦闘中だった。しっかりとどめを刺さないとね。」
負傷して動きが弱っている二体にそっと近付くと自然な流れで拳銃を発砲する。暫くして、そこには二つの大きめの魔石だけが残った。
「ここまで楽に倒せるとは。やっぱりレベル四十で解放されたアイテムはその分基本性能が高いのかもな。それならこの後も期待出来そうだ。」
魔石をアイテムボックスへと収納し、次のミノタウロスを探しに場所を移った。
二戦目、今度は遠くからライフルを使用して一撃必殺を狙う。放たれた銃弾は狙い通りに瞳に吸い込まれ、容赦無くその命を刈り取った。ここでも『精密射撃』が適用され、一発本番で決められたのは嬉しい誤算だった。
三戦目、都合良く六体程纏めて出てきてくれたので、遠慮無くマシンガンを使わせて貰った。大体急所辺りに狙いをつけて乱射すると、驚く程簡単に急所を貫きミノタウロスはバタバタと倒れていった。
「これで遠距離武器の性能確認は出来たな。残るは近接武器か。今までの感じだと、ミノタウロスと正面から打ち合っても遅れは取らなくて済みそうだな。准遠距離武器のクロスボウとかで牽制を入れて優位な環境を作りさえすれば楽に勝てる筈。」
この三戦殆ど動いておらず疲れも無いので、早速近接武器を『作成』して実験を再開した。
四戦目、五戦目、六、七、八、九と片っ端から武器を変えて戦ってみた結果、全ての武器がミノタウロスの膂力による攻撃を受けて壊れない程の耐久性と、拳銃の弾を殆ど通さない硬質な皮膚を安々と突破する切れ味を持っていることが分かった。僕自身が使う上での得意不得意はあれど武器の性能としては段違いだと言えるだろう。
「さて、実験も終わったしそろそろお昼ご飯にしますかね。」
四階層との間の階段まで戻り、昨日持ってきた携帯食料と同じものを取り出す。そして昨日喉を詰まらせ死にかけたことを思い出しながら、今度はゆっくりと時間をかけて咀嚼した。
昨日は急いで食べてたから喉に詰まらせたのもあるけど、そもそも携帯食料自体乾燥したものが殆どで口の水分が奪われるのが問題なんだよなぁ。何か解決出来る方法はないかな。
「う〜ん。あ、出来るかも。アイテムボックスに入ったものって確か時間変化しない筈だから、料理も入れておけるんじゃないか?次来る時やってみよう。」
これが上手く行けばダンジョンに潜りながらほかほかのご飯が食べられるようになる。悠たちと探索する時に差し入れで持って行ったら喜ばれそうだな。
と色々考えているうちに全て食べてしまったな。軽く仮眠を挟んで探索の続きと行こうか。
「ごちそうさま。そしておやすみ。」
誰も居ない空間に自分の声だけが響いている現実に少しの虚しさを感じつつ、僕は眠りに就いた。
「んんっ………はっ!今何時だ?」
目が覚めると同時に跳ね起きて左腕の時計を確認する。時刻は午後一時三十四分。寝たのが丁度正午だから一時間半も寝てしまったことになる。
「やっちゃったな。軽く仮眠取るだけの予定だったのに。やっぱり食後の眠気には勝てなかったか。」
今日はダンジョン課に素材持って行くつもりだからな。市役所が五時までで閉まるのを考えると遅くても四時半には着いておきたい。それからかかる時間の分を逆算すると………あと一時間か。
「午前中の実験で大体戦い方は理解出来てるから最高効率で行けばそこそこ数は稼げる筈。」
階段を降り、出来るだけ群れに遭遇することを願いつつダンジョン内の探索を始めた。
「良かった。五体いる。」
開始五分、最初に見つけたミノタウロスは複数体の群れだった。これ幸いと僕は手元にマシンガンを『実装』し、乱射を開始する。
「やっぱり何も考えず乱射してるだけで倒せるのは楽でいいね。その分魔石の消費はそこそこ多いんだけど。」
それから一分と経たずしてミノタウロス達は五つの魔石を残し、ダンジョンへと吸収された。それらをアイテムボックスにしまい、すぐさま次の群れを探して足を動かす。
再び見つけたミノタウロスはまたも複数体の群れだった。今度もまたマシンガンを乱射し計六つの魔石を手に入れる。
やはり短時間で多くを倒すのにはこの方法が一番だ。戦闘訓練にはならないが、それは時間のある時にしっかりやれば問題ない。
「この調子で三十体くらいはいきたいな。レベルアップで移動速度も上がってるしこの出現ペースなら多分出来るでしょ。」
そうして遭遇の度に瞬殺を繰り返して迎えた予定の一時間後、計三十四個の魔石を回収し四階層への階段に戻って来た。途中、ミノタウロスが武器を手放す場面があったのでついでにそれも回収してアイテムボックスに入れてある。これは一時間にしてはなかなかの収穫だったんじゃないだろうか。まあ何よりも時間通りに戻って来れて良かった。
「よし、今日はここまで。後はダンジョン課で買取してもらうだけだな。……あ、でも流石にこの汗だくの状態で行くのは申し訳無いし一旦帰ってシャワー浴びてから行こう。」
予定ではそのままダンジョン課に向かう予定だったから少し急がないと間に合わなくなるな。今日は通常より早く探索を切り上げている分、帰り道は残りの体力を全て使い切るつもりで走ろう。使える体力は無駄にしたくないからね。
「………ふぅ、行くか。」
息を吐いて気持ちを切り替えてから装備を二丁拳銃のみに変え、ダンジョンの外へと走り出す。
「頼むからこういう時は出てこないでくれよ。せめて走って避けられる範囲で。」
実験中とは打って変わって極力モンスターに出会さないことを願い、運悪く出会ってしまったモンスターはステータス任せの全力疾走で躱し続けること二十分、僕はダンジョンの入口に到着した。
ここからはモンスターはいない。他に見ている人もいない。だからただ最速で走り抜けることだけに集中すれば良い。
細かい障害が取り払われ自由になった僕は、ダンジョンを駆けてきた勢いのまま止まることなく朝通って来た道を逆に辿って行く。ここが最もスピードを出せる区間であり、出来る限りここで時間を削っておきたいというのもあって段々と脚の回りは速くなって行き、それに付随して視界の木々も瞬く間に過ぎ去って行った。
それから過去最速の四十分で森を抜けきり、通学路に出たところで一度足を止める。
「はぁ、はぁ………ふぅ、はぁ、いやぁ途中コケた時は死ぬかと思ったな。けどまさか自然に体が動いてパルクールじみた動きで走り続けるとは。」
今まで練習した記憶無いけどいつの間にあんなこと出来るようになってたんだろ?ステータス補正って凄いな。今なら屋上から飛び降りても普通に着地出来そう。
「とこうしてる場合じゃないな。せっかく稼いだ時間が勿体無い。全力では走れないし早く帰らないとな。」
え?疲れたのかって?いや、驚いたことに体力には余裕があるんだよね。ほんと不思議なくらい。それじゃあなんで全力で走れないのかっていうと、単純に周りの人が驚くからだね。
今の僕の最速は多分オリンピックの金メダリストより上だから、その速さで延々と走り続けてる人がいたら普通にびっくりする。今はまだダンジョンが開放されたばかりでステータスがどれほどの恩恵を齎すのかが一般的に知られていないから、人前では実力を隠しておいた方が余計な問題にならなくて済むんだよね。
という訳で、
「適度に手を抜きつつ急ぎますか。」
徒歩数分の自宅に向けジョギングを開始した。
自宅に着いて服を雑に脱ぎ捨てた僕は即風呂場に飛び込みシャワーを浴びる。
「あ〜生き返る〜。」
冷たい流水が長時間の全力運動で火照った身体を癒やしていく。あまり長くやりすぎるのは良くないが、今はまだこの涼しさに浸っていたいな。
「まあ、そうも言ってられないんだけどさ。はぁ、そろそろダンジョン課行く準備しないと。」
シャワーを止めて風呂場から出た後、身体についた水分をタオルで拭き取りつつ時計を確認する。
四時五分、少し予定より遅れているけどこうやって汗を流す時間を取ったことを考えれば頑張った方か。レベルアップで出せる速さも上がってるからダンジョン課に着くのは予定通りになりそうだな。まあ、自転車移動が競技者並みになることは考えないものとしよう。走って行く訳じゃないからきっと大丈夫な筈だ!………多分。
細かいことを頭から追い出し、手早く服を着直してから家に鍵をかけて自転車に跨がる。
「予定の時間まであと十分。曲がり角とかで人を轢かないように気を付けていこう。それでも余裕で着く筈だ。」
そうして周囲の安全に気を配りつつ僕は市役所へとペダルを漕ぎ始めた。
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