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レベル四十

「ん〜!よし!」


 ベッドの上でぐっと伸びをして眠気を吹き飛ばし、意気揚々と支度に取り掛かる。


 今日は待ちに待った土日だ。今週はずっと悠たちのレベル上げで自分のレベル上げをすることが出来なかったから、思う存分ソロダンジョン攻略出来るのが楽しみでしょうがない。勿論悠たちのレベル上げは大事な友達の安全の為だから嫌ではないんだけど、やっぱり全力で体動かせないのはもどかしくて。だから今日明日は倒れるぎりぎりまでやるつもりだ。流石に本当に倒れたら誰も助けてくれないので気を付けるけど。


「ご飯も食べたし携帯食も持った。救急セットも全部揃ってる。準備完了だな。」


 玄関で最終確認を済ませ、靴を履いて外に出る。見上げると空は少しずつ蒼さを増し、朝日が優しく降り注いでいた。


「うん、こういう朝は気持ちがいいね。」


 更に高まった気持ちを胸に学校裏のダンジョンに向かって走り出す。ダンジョンまではかなりの距離があるけれど、不思議と疲れは少しも感じなかった。



「さて、メインの狩り場は三階層以降だから早く降りないとな。」


 ダンジョンに着いて軽く呼吸を整えた僕は、迷わずダンジョン一、二階層を通り過ぎ、三階層へと到達した。


 ここのモンスターもだいぶ狩ったな。スライム、ゴブリンと来てここはトロールなんだよな。ちなみに四階層はオークだ。今日はここで肩慣らしをしたあと四階層に降りて只管狩りを続け、レベル四十に到達するのが目標になっている。一度上昇が止まりかけたレベルだが、四階層のオークの経験値は高く再び上がるようになったので、問題無く達成出来る筈だ。まあ多分四、五十体は覚悟しなきゃいけないだろうけど。


「取り敢えず細かいことは後にして、片っ端から狩らせてもらおうか。」


 いつも通り左手に拳銃、右手にナイフを持ち、いつでも攻撃に移れる体勢になる。そのまま駆け出して、見つけたそばから交戦していく。


「ここでの戦い方は、トロールの武器を手放させてから一方的に攻める、だったよね。」


 普通の人よりもかなり大型なトロールが振り翳す鈍器は掠るだけでもダメージが入る。だからまずは危険を排除するところからやらないと。


 まずはある程度まで近付いて攻撃を誘発させる。次にトロールが鈍器を振り下ろすタイミングでトロール本体に向かってではなくトロールの腕の真横から叩くように魔法で土塊をぶつける。


 ベクトルの関係上横から打撃を加えると攻撃は簡単に逸れる。護身術の応用だね。


 そうして無防備になった瞬間に更に腕に発砲して武器を完全に取り落とさせれば、あとはこちらの独壇場だ。


 細かく動いて振り回される腕を避けつつ、発砲による威嚇と瞬間的に接近してからのナイフによる急所への攻撃を繰り返して弱らせ、ある程度のラインで一気に勝負をかける。そうして急所に確実に攻撃を決め、下がって残心をとる。死体がダンジョンに吸収されたのを確認して魔石を回収する。


 この流れを繰り返して行けば、安定して三階層とついでに四階層も攻略出来る。


 久々の全力運動の感覚に浸りつつ、回収した魔石をアイテムボックスに収納する。


 とここで急に出てきたアイテムボックスの説明をすると、これは『作成』スキルの二十レベル到達の報酬で手に入れた内部スキルのようなものだ。現在選択可能なホラー脱出に関するスキルで、どう見ても持ち運べない量の荷物を持っているのに普通に行動している主人公が重宝する所持アイテム欄を体現したものとなっているようだ。


 簡単に言えば、アイテム量的にあの人たち絶対異空間収納持ってるよね、ってこと。


 ご都合主義に理論を叩きつけていくこのスタイルなかなかいい趣味してると思う。今後どんな恩恵を僕に与えてくれるのか楽しみだな。



 その後、何体かトロールを狩って体が温まってきたと感じたので、四階層に降りることにした。


「今日は何体倒せるかな。効率良く倒して必ず今日中にレベル四十に到達してやる。」


 改めて闘志を燃やし、四階層の奥へと進んで行った。


 間もなくして今日初のオークに遭遇した。どうやら運が良いのか悪いのか三体いるようだ。上手く分断して各個撃破、いや、もっと良い方法で倒させてもらうとしよう。


 まずはいつも通りに先制攻撃から。ヘイトを上手く集めて望む形に誘導しないとな。

 

 パンッ!パンッ!パンッ!


 それぞれに一発ずつ銃弾を当て、僕の存在に気付かせつつ距離を詰める。一番近くのオークの攻撃範囲に入った瞬間、手にした斧を振り降ろしてきたので予定通りに急停止し回避した。そのままオークを引きつけつつまた別のオークの攻撃範囲へ入ると、同様に斧を持って攻撃しようとして来たので、これもまた引きつけて最後のオークの下へ向かう。最後のオークの攻撃範囲に侵入し、三体全てが僕を攻撃対象と認識した時点で戦略の前準備は整った。


 まず第一工程はとにかく動いてオークを煽り、連携等をさせないようにしつつ攻撃を単調にさせる。第二工程は僕の動きのみに集中させ、視野を極力僕の周辺だけに狭めさせる。そして第三工程は、攻撃がかち合うところでわざと体勢を崩し攻撃を誘う。そうすれば、


「グオッ!?」

「グアッ!?」

「グオウッ!?」


 綺麗に同士討ちってね。あとは混乱に乗じてとどめを刺すだけの簡単なお仕事だ。


 パンパンパンッ!


 目を狙って引き金を引き、柔らかいところから脳への直接ダメージを決めて、少し離れた位置にて姿勢を整える。


 間もなくしてオーク三体の魔石が残った。手早く回収を済ませ、次の獲物を求めて探索を再開する。そうして昼までに何度か群れに遭遇し、同様の戦法で合計二十二体のオークを討伐した。レベルは二つ上がって三十八。今の所とても順調だ。この調子でどんどん攻略して行きたいが、そろそろ一旦休憩を挟んだほうがいいな。三時間程動き続けていたので、流石に疲労が出て来ている。


 今の所安全地帯だと思われる階段まで戻り、体の力を抜いて横になる。


「ふぅ、結構狩ったな。それでも殆どレベルアップしないんだもんなぁ。最初のレベルアップはおまけみたいなもんだし、実質二十体で一レベルしか上がってない。もしかしなくても追加で五十体くらい倒さないといけないのでは。それは……気が遠いな。はぁ……」


 レベル四十の壁の高さについ溜息を漏らしてしまう。好きでやってることではあるんだけど、流石にあれだけの運動量をこの後倍以上行わなければならないというのは正直辛くないと言えば嘘になる。何かステータスアップ以外の報酬が欲しいな。


「何かないか………うん、やっぱり金だな。今まで僕が倒してきたモンスターのドロップって何円くらいで売れるんだろ。全く予想がつかないな。」


 現時点では流通量が少ないからそのぶん稀少価値がつくけど、どれだけの性能か正確には分からないから今後更に高値になる可能性もある。逆に時間が経ってから売ると稀少価値が下がるけど、正当な評価の下買い取ってもらえる可能性が高くなる。どのタイミングで売るのがベストか。


 仮に今売るとして顧客は誰になるか。それはダンジョンのシステムを解明する為にサンプルを必要とする国家もしくは稀少価値に惹かれたコレクターだろう。

彼等を取引相手と見做した場合、国家は今後継続してサンプルを手に入れる為に信用を築きたい筈だから、良心的な価格設定をすると考えられる。またコレクターには今後稀少価値が下がることを見越してあまり高くは買い取ってもらえないだろうが、それは価値が下がってからも同じことだ。


 では逆にある程度時間を経て売るとした場合の顧客は誰になるか。それは企業だ。今はまだ様子見をしている彼等だが、国が取引を認めればこれ程可能性を秘めた素材は他に無いだろう。いち早く商品化に漕ぎ着ければ顧客を独占することが出来る為、莫大な利益が得られることは間違い無い。それを考えると初期はある程度高めに買い取ってもらえる可能性が高いと予想される。

 

「う〜ん、色々と考えてみたけど結局素材そのものにどれだけの価値が付くかによって損にも得にもなるんだよな。どうせこの先もドロップすることになるだろうし今ある分は売ってしまっても良いか。うん、そういうことにしよう。今は空腹を解消する方が優先だ。そろそろきつい。」


 急速に思考の海から脱し、持ってきていた携帯食を頬張る。途中、勢い良く食べ過ぎて窒息しかけたが、水で上手く流し込み事無きを得た。やっぱり食事はゆっくり味わって食べた方がいいね。ダンジョンに来て死因が窒息死は流石に笑えない。


 それから三十分程食後の休憩をし、全身の疲れ具合を確認して階段を降りる。


「っし!ぼちぼち後半戦やってきますか。」


 軽く身体を動かし戦闘態勢をとって、午前中と同様にダンジョン内を駆け出した。


 二十分程走り続け、後半戦最初の群れに遭遇した。数は四体。


 うん、丁度良さそうだな。ちょっとばかし練習に付き合ってもらおう。


「材料は『作成』した消化器とナイフ三本、そして凝縮に凝縮を加えた『落石(ロックフォール)』。これを合わせて対多数での撹乱戦法が使える筈だ。」


 手元の消化器をオークの群れに向かって投擲し、すかさずナイフを内蔵した『落石(ロックフォール)』を消化器に向かって放つ。飛んで行く石から爪のように伸びたナイフの刃先が着弾寸前の消化器に突き刺さると、オークの目の前で白煙が噴出された。


「「グオォッ!?」」

「「グアッ!?」」


 唐突に視界を白く塗り潰されたオーク達は混乱したように動きを止める。そのスキを逃さず接近した僕は背後から首に手を掛け頭に直接銃口を付け引き金を引いた。最短距離から放たれた弾丸はこめかみを貫き確かに一つの命を散らした。


「次。」


 崩れ落ちるオークから少し離れた別のオークに跳び移り、同様にして二体目、三体目と屠って行く。そして最後の一体となった所でようやく混乱から立ち直ったオークが怒りの表情で所持した斧をこちらに振り下ろして来た。それをより踏み込むことで回避し、無防備な体に足を掛けて跳び上がり首へと絡み付く。それから斧を持った手に土塊を放って牽制しつつ頭を掴んで固定し、落下の際の力を回転力に変換して首を回す。


 ゴキンッ


 少し勢いを付けて回ったおかげか上手く折れてくれたようだ。なんとなくでやってみたけど出来て良かった。


「ふぅ、これで一つ目は討伐完了っと。あとこれを十回以上やるのか、ゴールが遠いな。まあ弱音吐いてもやることに変わりはないし、諦めて頑張るか。」


 気を取り直して再びダンジョンを駆け回った。



 六時間後、五十六体目のオークを倒した瞬間待ち望んだ声が聞こえた。


[レベルアップしました]


「はぁ、はぁ………はぁ、やっとか。ほんときつかったな。今まで生きてきて一番長く運動したかも。」


 六時間休むことなく動かし続けた足を止め、荒い息を吐きながら終わりを噛み締める。


 覚悟はしていたが、実際やってみると想像以上に大変だったな。同じモンスターを狩り続けて慣れたのをいいことに三時間を超えた辺りからはほぼ無心で狩っていたくらいだ。


 周回スキップチケット実装しないかな………


「まあとにかく目標は達成した。後は五階層の下見をして帰ろう。ステータスの確認は………寝る前でいいか。」


 疲労を自覚し震え始めた脚に鞭打って、先程見つけた五階層へと続く階段を降りていく。少し歩いたところで牛の頭を持つ人型のモンスターが視界に映った。


 あれはミノタウロスかな?やっぱりこのダンジョンはとことんまでメジャーなモンスターしか出ないんだな。まあ分かりやすくていいけどさ。結局なんだろうが倒すだけだし。で、どれくらいの強さかだけど、それは明日でいいかな。今日は疲れた。僕は帰って寝ます。


 そうして自分の気持ちに正直に従い、一切の寄り道をせずダンジョンの外まで戻って来た。そのまま森を抜けて一般道に出る。


 ここまでくれば遭難の心配も無いし、あとは家に帰るだけだ。ラストスパート、頑張るか。


 残りの気力を振り絞り、僕は家まで歩き始めた。



 家の前に辿り着くと、鍵を開けて家に入り、お風呂で汚れを落とした後は夕食を食べる余裕も無くベッドへと倒れ込んだ。


「はぁ、この柔らかさ、天国だ。これが無かったら二日連続で丸一日ダンジョンは出来ないな。ありがとうふかふかおふとん。……………さて、ステータスチェックの時間だ。レベル四十になってどうなったかな?」


 うつ伏せから仰向けに姿勢を変え、ステータスを開く。



名前 遊城 創

Lv 40

職業 【遊戯開拓者(ゲームクリエイター)

HP 800

MP 600

AT 600

MA 400

DF 600

MD 600

職業(ジョブ)スキル 『作成』『実装』

通常(ノーマル)スキル 『隠密』『精密射撃』

魔法 土魔法Lv4

称号 《初級探索者》



「ここまでは予想通りだ。問題は『作成』内の変化だな。レベル四十の恩恵はなんだろう。」


 言いつつスキルの詳細を開く。


[ジャンルを選択してください]

・ホラー脱出

〘関連スキル:『アイテムボックス』〙

・デスゲーム


 あ、ジャンル増えてる。次はデスゲームか。物騒ではあるけど戦いに使うと考えるとなかなか良さそうだな。何作れるんだろ?


[アイテムを選択してください]

・日本刀

・長槍

・バトルアックス

・デスサイズ

・鉈

・クロスボウ

・ライフル

・チェーンソー

・爆弾

・スタンガン

・包丁

・毒薬

・睡眠薬

・マシンガン

etc……


 うわぁ、武器だらけだ。参加者向けから運営側が使うようなものまでかなりの量を取り揃えてるな。これは間違い無く戦略の幅が広がるし、攻撃の威力増加も見込める。頑張った甲斐はあったみたいだ。


「レベルアップってやっぱり大切なんだな。次は多分六十でデスゲーム関連のスキルが手に入る筈だからそれまでまた頑張らないと。」


 その為にも、今はしっかり休んで動ける身体を用意しないとな。


 こうして努力に見合うだけの報酬と新たな目標を得た僕は、満たされた気持ちで目を閉じた。それから間もなくして、僕の意識は夜の闇に溶けていった。

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