ライセンス発行と受付嬢
ダンジョン一般開放の翌日、翼と僕はいつものように話しながら通学路を歩いていた。
「よっし、今日も元気にダンジョン探索するぞ〜!」
「気が早ぇよ。学校終わってからな。」
確かにまだ朝だけどさ。ダンジョン楽しいじゃん?
「学校休もうかな。ダンジョン篭もってる方がお金にもなるし。」
「いや勉強しとかないと後々困るぞ。怪我とかしてダンジョン篭もれなくなったらどうすんだよ?ニートまっしぐらじゃねぇか。」
ふっふっふっ、それを対策していない筈なかろう。
「なに言ってんの。学校行かなくても勉強は出来るでしょ。それに遊びの邪魔になるから高卒までの範囲は時間のある小学生のうちに終わらせてあるし。」
「んなっ!お前天才かよ。」
「天才じゃないよ。ただ他人より遊びに対する欲が強いだけ。昔の僕は遊びとは無縁だったからその分、ね。」
言いつつ僕は昔を振り返る。
翼と出会う前、小学生までの僕は勉強以外に出来ることが無かった。それ以外に時間を使うことは許されていなかったんだ。毎日学校で勉強し、家に帰って母親の監視の下に勉強し、睡眠時間も含め人生の全てが勉強の為に費やされた。全ては母親の自己満足の為に。
あの頃は結構辛かったな。周りの子供達は何も考えず毎日好き放題に遊び回っているのに、僕は毎日机と向き合っているだけだったんだから。何度殺意を覚えたことか。自分でもまだ発展途上の子供の精神でよく耐えたと思うよ。あの時の決意が無ければきっと無理だっただろう。
どんな決意かって?単純なことさ。
僕から自由を奪う勉強は徹底的に排除する、母親が求める水準をいち早く超えて自らの自由を認めさせる。ただそれだけ。たかだか小学生に考えられるのなんてその程度でしょ?
まぁ結局、その目標を達成するぎりぎりの所で僕を縛り付けていた母親は交通事故に巻き込まれて呆気なく死んでしまったんだけど。
その時悲しいとは微塵も思わなかったな。ただもう自由に生きていいんだって喜びだけだった。きっと葬式の間もずっと笑みが溢れていたと思う。
そんな僕を見た父親は今まで僕を母親に任せっきりにしていたことに責任を感じたのか、それとも僕を不気味に思ったのか、理由は知らないけどそれまでとは打って変わって色々と僕を気にかけてくれるようになり、ゲームをしたり、友達を作って遊ぶことも許可してくれた。その頃に丁度翼と出会ったんだったな。
とまあそうした経緯で今の僕は遊ぶということに異常な執着を見せる狂人になった訳だ。
「……ぉう、創!」
「ん?あぁ、ごめん。どうかした?」
「いや、急に黙ったから。」
思ったより時間が経ってたみたいだ。あの頃のことを考えるとついね。やっぱりまだ吹っ切れてないか。
「ははっ、ちょっと昔を思い出してね。」
「昔って、お前そんな歳じゃないだろ。」
「僕にも色々とあるんだよ。それより学校だよ。行かなきゃダメ?」
勉強する気は無いんだけど。多分ずっと寝てるよ?
「だめだ。というかなんだかんだ言ってもちゃんと登校してんじゃねぇか。」
「これは登校じゃない。翼と話しに来ただけだよ。」
「なんか気持ち悪いな。」
翼に変なものを見るような目を向けられてしまった。本当に僕が学校に行く理由なんて友達に会いに行くことくらいなんだけどなぁ。まあ翼は普通の人だから共感出来ないのも無理はないか。空気を戻さないといけないし取り敢えずボケとこ。
「ヒドいなぁ。僕と翼の仲じゃないか。……はっ、まさか浮気!」
「いやお前は俺の彼女じゃねぇよ。」
「じゃあ彼氏か。」
「それもちげぇよ。俺に男の趣味はねぇ。」
「無いのか。あったら腐女子の良い餌になったのにな。」
「そんなもんになりたくねぇよ。……はぁ、お前といるとツッコんでばっかで疲れる。」
僕の終わらないボケに付き合った翼はげんなりした顔で深い溜息と共にそう言った。いつも気持ち良くツッコんでくれるからつい調子に乗ってしまう。悪い癖だな。治す気は無いけど。
「とにかく学校には連れてくからな。ダンジョンはそれからだ。」
「分かったよ。ちゃんと行くって。」
「授業もしっかり受けろよ。」
「それは断る。」
こうして朝の登校時間は過ぎ去って行った。
学校に着いてからは、翼が寝るなというので真面目に授業を受けているふりをしながらずっとダンジョン攻略のことを考えていた。三階層以降での戦闘シミュレーションと、実はまだお披露目していない新しいアイテムの使い道など考えることは沢山あり、なかなか有意義な時間となった。
そして来たる放課後、予定通り僕たちはダンジョン攻略をする約束をして、それぞれの家に準備をしに帰ろうとしていた。そんな時、普段学校で遊んでいる友人から声がかかった。名前は神崎 悠という。
「創、翼、今日ダンジョンのライセンス貰いに行かね?」
「悠か。急にどうしたんだ?今までダンジョンのこと興味無さそうだったじゃねぇか。」
確かに悠は体育館組だ。ダンジョン発生以降もいつも通り体育館に行って遊んでいたし、ダンジョンに関する話題も出たことが無かったから興味が無いんだと思っていたけど、そうでもなかったのかな。
「いや、一般開放されたなら一回くらい入ってみようかなって。」
「入るのにライセンスいるんだっけ?」
「無くても入れるけど、持ってると出入りが記録されて安否確認が出来るんだよ。あと、ライセンスが無いと魔石と素材が売れない。」
あ〜そういえばそうだった。せっかく倒しても売れないのは勿体無いな。魔石はスキル用として使えるけど素材はお金に変えるしか使い道が無いからな。
「分かった。ライセンス貰いに行こう。」
「正式に認められて堂々と色んなダンジョン入れる方がいいもんな。俺も賛成。」
「じゃあ決まりだな。後で市役所前に合流しようぜ。あ、ちなみに春樹と涼と虹介も来るから。」
「賑やかになりそうだな。」
「だね。」
という訳でダンジョン行きのメンバーが増えることとなった。
一時間後、それぞれの家で準備を整えた僕たちは約束通り市役所に集まった。全員がいることを確認して悠が口を開く。
「これから新設されたばっかのダンジョン課に行って探索者のライセンスを発行してもらう。皆ちゃんと身分証は持って来てるな?」
「「「「おう!」」」」
「それで、誰から行くの?流石に全員で行くと邪魔になるでしょ。」
ダンジョンの一般開放はかなりの注目を浴びてるからね。危険が伴うからライセンスを発行してもらってすぐに入ろうとする人ばかりではないだろうけど、多少の混雑は予想される。考えて行動した方が良いだろう。
「そうだな。じゃあ創が最初に行ってくれるか?こういうのは一番得意だろ。」
「そうだね。高校入学の時も手続きは自分でやったし多分問題無いよ。」
「んじゃ、宜しく。」
「行ってくる。」
まあこうなるとは思ってた。うちは父親のみでしかも一人暮らししてるから全部自分でやったけど、この年だとまだこういうのは親任せが普通だもんな。妥当な人選だよ。
「さてと、ここかな。」
市役所の中を進むと前に来た時には無かった課が確かに設立されていた。上にはしっかりダンジョン課と記載されている。その前の待機スペースには運良く人がおらず、すぐにでも手続きが出来そうだったので、早速受付の女性に声を掛ける。
「すみません、探索者のライセンス発行がしたいんですが。」
「あ、はい。ではこちらの書類に必要事項を書いて、身分証と一緒に私の所に持ってきて下さい。」
前にも見たような書類が手渡され、それを手に待機スペース横の机に向かい必要事項を記入した。内容としては普通の書類と何ら変わらなかったので、特に困ることも無く数分で書き終えた。
「これで良いですか?」
ペンを戻して受付に戻り、完成した書類と身分証をカウンターに置く。受付の女性は書類を確認して頷くと、
「問題ありません。今からライセンスを発行しますので、そちらの椅子で少々お待ち下さい。」
そう言って受付の奥の方に入って行った。それから数分経って、受付の女性が免許証のようなものを持って戻って来た。
「お待たせしました。こちらがライセンスになります。国営のダンジョンに出入りする際にご提示いただくと探索時間が記録され、数日経っても戻らない等のもしもの時は救助隊が向かう仕組みになっています。その他魔石や素材の買い取りの際にはライセンスが無いと出来ませんので、買い取りを希望される場合は必ずご提示ください。簡単な説明は以上となりますが、何か質問はございますか?」
そうだな。ダンジョン内のことに関しては多分僕の方がよく分かってるからいいとして、何か聞きたいことか。
「直接ダンジョンに関わることではないんですがよろしいでしょうか?」
「ええ、何でしょう。」
「この探索者のライセンスって今の所どれくらいの人が発行しに来てるんでしょうか。よろしければ何歳くらいの人が多いかも教えていただけると嬉しいです。」
大体は予想がつくんだけどね。一応聞いておきたい。
「そうですね。昨日と合わせてまだ二百名程でしょうか。恐らくまだダンジョンというものがよく分かっていないのであまり気軽に手を出せないんでしょう。それと年代は比較的若い高校生から大学生の方が殆どですね。それより上の年代の方は基本的に既に仕事に就いていてダンジョンに入る余裕もない方が殆どなのに対して、学生の方は時間も興味もある方が多いですから。」
やっぱりそうか。ライセンスの発行が出来るのは高校生からだから、それ以降の年代で比較的自由に生きれるのはその辺りの人達だけだからな。となるとダンジョンではそこまで多くの人に出会す訳ではなさそうか。色々と動き回りたい僕としては都合がいいな。
「そうですか。ありがとうございました。」
「この後すぐにダンジョンに向かうんですか?」
「友人を待たせているので、彼らのライセンスの発行が終わったら向かおうと思っています。」
「そうなんですね。ではお気を付けて。」
「ははっ、ありがとうございます。」
そうして受付の女性のにこやかな笑顔に見送られ、少し離れたところに待たせていた翼たちのところに戻った。
「ライセンス貰ってきたよ。ほら、これ。」
言って貰ったばかりのライセンスを皆に見えるように掲げる。
「おお、こんな感じなんだな。なんか免許証みたいだ。」
「まあ、探索の免許証だからね。後々ダンジョン産の物資が増えて来たらこのライセンスもファンタジーのそれっぽく変わるんじゃないかな。」
ダンジョンに対応したての状況下ではこんなものだ。ラノベに描かれるようなダンジョン関連のものは、ダンジョンが出来てから数年もしくは数十年経った後のものが多いからね。技術革新の進み具合も全然足りないんだから当然だよ。ま、その辺りは今後に期待するとして、
「次は皆の番だよ。今なら空いてるから纏めて発行してもらってきなよ。やり方は受付の人に貰った書類の必要事項を埋めて身分証と一緒に渡すだけだから。」
「案外簡単なんだな。」
「余程複雑な手続きじゃなければ僕たちがすることなんてそのくらいだよ。まあやってくうちに慣れるさ。」
「そういうもんか。分かった、行ってくる。」
「うん、いってらっしゃ~い。」
僕一人を残して五人はダンジョン課の受付へと向かって行った。
暫くして、続々とライセンスを手にキラキラとした眼差しをした悠たちが戻って来た。
「これで俺らも探索者か。なんかすっげえワクワクするな。」
「あぁ、すぐにでもダンジョン行きたくなるな。」
「もう手続きは済んだわけだし早速行くか?」
「そうだな。こっから一番近い国営ダンジョンってどこだ?」
今まであまり興味を示していなかった割に、いざライセンスを手にするとやる気が出てきたようだ。この調子なら僕たちと同じく放課後はダンジョンに篭もりきりになるかもな。
とそんなふうに彼らのこれからを想像していると、
「お前ら俺を置いてくなよ。これからダンジョン行くからってはしゃぎ過ぎだろ。」
遅れて合流した翼が愚痴を溢した。いないと思ったら置いてかれてたのか。可哀想に。
「お疲れ様。なんかあったの?」
「いやぁ、五人で行ったから受付の人が二人で対応してくれたんだけどよ。そのうちの片方の人に気に入られたのかちょっと話が長引いちまった。」
「翼は高一にしては背も大きくてがっしりしてて頼りがいありそうだし、面倒見もいいからね。悠たちがいて余計にそれが際立っただろうから好意を持たれるのも頷けるよ。何より普通にイケメンだし。」
さっき僕を対応してくれた女性もそうだったように、若い探索者を惹きつけるために受付の人は若くて綺麗な女性を採用してるだろうから、年もそんなに離れてないだろう。それなら逆に翼のような優良物件が恋愛対象にされるのもなんらおかしくはない。
「そんなもんかねぇ。」
「そんなもんだよ。翼は優良物件だ。自信持とう。」
「そういう言い方されると素直に喜べないな。」
「少し妬み入ってますから。」
女子達から翼に関して色々質問をされる身にもなってくれ。あれ結構面倒くさいし惨めな気持ちになるんだぞ。
「いや、お前も割とモテてるから。お前が気付いてないだけで結構俺もお前のこと色々聞かれるんだからな。」
そうなのか。てっきり翼に話し掛けてる女子は皆翼に好意があって話し掛けてるんだと思ってた。
「いつの間にかモテてたのか。ダンジョン攻略のことしか頭に無かったわ。」
「この創を知ったら皆どう思うんだろうな。いや、普段から授業中とか寝てるしゆるい感じは伝わってるか。うん、多分変わんねぇな。なんでモテてるんだ?」
「それが分かれば独り身やってないよ。」
「だよな。」
僕たちは二人揃って溜息を吐いた。とそこで悠たちから声がかかる。
「そろそろ行くぞ〜。行き先は一番近い武蔵野国営ダンジョンな。」
「了解、今行く。」
武蔵野か、どんなモンスターが出るんだろう。まあ浅い階層なら危険も少ないだろうから、一応悠たち初心者の安全に気を配りつつ楽しませてもらおうかな。
僕たちは市役所を後にし、武蔵野ダンジョンへと自転車を漕いだ。
その頃、市役所内のダンジョン課受付では二人の女性が話していた。先程創と翼を担当した二人だ。
「今の子達皆同じ高校の一年生だったね。ダンジョンに関してはまだ分からないことも多いのに勇気あるなぁ。若いってすごい。」
「いや、私たちもそんなに歳変わらないでしょ。短大出たばっかの二十歳なんだから。それにしてもあの背の高い子、翼君だっけ?格好良かったわよね。私の好みのど真ん中だったわ。あの面倒見の良さと包容感、年下なのに全部任せたくなっちゃう。」
先程ライセンスを発行しに来た六人組の高校生を思い浮かべ、自分には同じことは出来ないと溜息を吐く彼女、友崎 来魅の横で、中学、高校、大学とずっと一緒で、遂に職場まで一緒になった親友の御神 結津姫は翼へと思いを馳せている。
「結津姫は相変わらずだね。ああいう子を見つけるとすぐにぐいぐい行くんだから。翼君も困ってたじゃん。」
「あれぐらいしないと好意は伝わらないの。来魅は奥手過ぎるのよ。さっきだってあの子のこと結構気に入ってたのに何もしないで見送ってたじゃない。」
親友の説教に対し開き直って逆に説教し返しつつ、私はちゃんと気付いてるんだからと来魅の心を見透かしたように結津姫は言った。その言葉を受けた来魅は慌てて反論しようと口を開く。
「そ、創君はそんなんじゃないよ。」
「あら、私はあの子としか言ってないわよ?」
「あっ。」
が、見事に自分で自分の首を絞める結果となった。
「う〜、結津姫のイジワル。………そうだよ、結津姫の言う通りあの子がちょっと気になってる。だってあの歳で凄く大人びてるんだもん。それとどんな問題もどうにかしてくれそうな強さを感じるのに、何処か寂しそうな雰囲気があって隣で支えてあげたくなっちゃうの。あと見た目も好みだったし。」
「来魅はああゆう中性的な子が好きだもんね。身長あんまり高くなくて女の子みたいな可愛らしさがある感じの優しい子。正直来魅の理想ど真ん中って感じね。でも大体ああいう子に限って中に獣を飼ってるものよ。まあ、それも良いギャップになるかもしれないけど。」
「獣って?」
先程見た創の姿から獣を創造出来なかった来魅は、首を傾げて結津姫に問い返す。
「獣は獣よ。そうね、例えばベッドの上では物凄く男らしくなるとか。」
「え、まさか………本当に?」
「あくまで一例よ。そもそも私の経験予測だし。そういう深いところはこれから接して行くうちに知っていけばいいじゃない。素材の買い取りとライセンスの更新の時はまたここに来るんだから。」
「そっか、また会えるんだ。」
また彼と話せるという事実に意図せず来魅の口角は上がっていた。それを見て結津姫はクスッっと笑い、自分の決意を以てその背中を押す。
「そうよ。私は翼君を狙いに行くから来魅も頑張りなさい。今はまだ年齢的に駄目だけど、二年待てば結婚も出来る年になるんだから。」
「凄いやる気だね……」
「当たり前よ。そうやっていい相手を見つけようと思ってこの仕事に応募したんだから。」
「私は偶々就職先で悩んでた時にこの仕事の募集があったから、運良く受かればいいな程度で受けて受かっちゃっただけなんだけどな。」
「運良くじゃないわよ。来魅はすっごく可愛いんだから受かって当然なの。この仕事は国の仕事だけど、より多くの探索者にダンジョンからの情報を持ち帰ってもらう為に見た目重視で採用されてるんだから。」
「そうなの?」
「やっぱり気付いてなかったのね。まあとにかくそういう訳だから、自分の武器をしっかり使ってお互い頑張りましょ。」
「う、うん。」
こうして凄くやる気の一人とそれに引っ張られるもう一人という受付嬢二人によって、密かに創と翼の心を射止めようという作戦が開始されたのだった。
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最近はどうも一話当たりの文章量が多めになっている気がします。区切りのいいところまで書こうと思うとどうしてもそうなるんです。読む方としては、ある程度の長さで区切って短めの話をこまめに更新していくタイプと、今まで通りしっかりした区切りまでの話を書いて更新するののどちらが良いでしょうか?宜しければ意見をいただけませんか。




