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新環境開始

遅くなってすみません。

先月は多忙を極めていた上、さらにここから新しい流れを組んでいくという場面でもあったためなかなか納得の行く形で書き切ることが出来ずひと月ぶりの投稿となってしまいました。

どうしても不安定な投稿ペースになってしまいますが、引き続き読んでいただけると嬉しいです。


「……行くか。」


 外へと続くドアの前で独り、そう呟く。微かに震える身体に活を入れ、ドアを押し開けて一歩足を踏み出した。瞬間、冷たい風が頬を撫でる。いや、季節は夏よりの春だから、特段風が冷たい訳ではない。とするならば、新しい環境に対する不安がそう感じさせたのだろう。


「やっぱ寂しいものは寂しいよな。」


 今日から僕は新しい学校の生徒になる。初めての場所で初めて出会う人たちと過ごし、ただひたすらにダンジョンと向き合う。どんな場所でも適応する自信はあるし人付き合いは得意な方だけど、不安が無いとは言い切れない。貴重な青春時代をダンジョンに捧げようという物好きたちなんだ。きっと良くも悪くも変わった人ばかりだろう。上手く、やれるだろうか。いや、僕の意志で選んだことだ。やるしかない。


「行ってきます。」


 僕以外誰も住んでいない家に向かって、いや、離れたとしても変わらぬ大切な友に向けて、僕はそう言った。




「ここで合ってるよな?」


 一目見ただけで建てられたばかりだと分かる真新しい校舎を見上げつつ、手元のマップを確認する。


 ……やはり間違いないようだ。


「僕のクラスは確か……A−2だったな。」


 校舎内のマップをちらと確認し、校門を通り抜ける。この学校ではタイプごとに建物が分けられており、僕の向かうA棟には戦闘系の能力を持った生徒が集まる。その他の棟は、B棟が支援系、C棟が回復系、D棟が技術系となっている。それに加えて特別大きな建物があり、その中には実践的な講義を受けたり空き時間に訓練をするための修練場と全生徒が入れそうな程の広い食堂がある。全体像としては大学をイメージしてくれると分かりやすいと思う。


「っと、ここがA棟だな。」


 目当ての棟を見つけ、入口だと思われる扉から中に入る。ここでは特に靴を履き替える必要も無いためそのまま指定の教室へと足を進める。教室は二階と三階、四階で、一階には休憩スペースがあり、僕の目的地は四階に上がって二番目の教室だ。


「にしても静かだな。ここに来る途中でも人に会わなかったし。まぁ早めに着いたからまだ皆来てないだけなんだろうけど。」


 そう呟きつつ階段を上り切り、教室の扉の前に立つ。そっと中を覗いてみるが誰もいない。予想はしていたが一番乗りのようだ。いきなり初対面の人と話すことにならなかったのは正直助かる。誰か来るまで隅の方で外を眺めているとしよう。




 外を眺め始めてからどれくらい経っただろうか。窓の外、校門付近にちらほらと人が集まってきた。それから間もなくして建物内に声がし始める。この教室に人が来るのも時間の問題だろう。


 さて、このクラスに来る人はどんな人たちかな?


 期待と不安を抱えながら、その時を待つ。そして、


 ガチャッ……スタスタッ、スッ……


 入ってきた青年は特にこちらになにかすることもなく適当な席に座った。


 ………まぁ初対面でいきなり話しかけるのは勇気いるよな。僕でも多分そうするだろう。気を取り直して次の人がフレンドリーであることに期待するか。




 あれから数人が教室に入ってきたけど今のところ誰も話そうとしないな。皆人見知りなんだろうか。僕?僕は人見知りというか、まずは観察からしたい派。面倒事を避ける為に関わる人は選びたいし、なにより観察が楽しいからね。第三者として俯瞰的に見るといろんなものがよく視える。癖とか性格とか、ね。まぁそれはいいとして、そこそこ人が集まってきたしそろそろなにか動きがあってもいい頃なんだけどな。


「隣、いいかな。」


 ふと、後ろから声がかかった。声がした方に振り向くと、穏やかな、いやこの場合は大人びたと言ったほうがいいか、経験に裏付けされた落ち着きを感じさせる青年が立ってこちらを見ていた。多分三年の生徒だろう。


「あ、どうぞ…」


 僕は頷いて返事をしつつ考える。他にも空席はあるのに彼が何故僕の隣に来たのかを。


 僕と彼は初対面だから判断材料は今見たものだけなはず……それとも僕の記憶に無い何かがあるのか?振り返ってみても特に思い当たる節は……


「あ〜、他に席があるのになんでって思うよね。実は入学手続きの時に君を見て気になってたんだ。」


 心の中で首を傾げる僕の横で、すまないといった顔の彼がそう告げる。


 ……なるほど、あの場に居たのか。


 時は一ヶ月程前、探索者専門学校に入ることを皆に告げた日の十日後に、僕は入学手続きと能力検査を受けた。内容は単純で、指定されたダンジョン内でモンスター相手に戦闘を行い力を示すというものだった。ある程度の能力が備わっているかを確認することが目的の検査なので、本気を出すことも無くあっという間に終了し手続きは完了した。手続きの際、職業及び能力の詳細を書く項目があったが、ステータスは意図的に見せなければ他人には見えないので武器を作って戦うものということにしておいた。全部は書いてないってだけで嘘は言ってないしね。とまぁそんな感じでなんとなく済ませて帰ったけれど、そういえばあの場には他の探索者も居たんだったな。


「なるほど。でも何か他の人と比べて変わったとこでもあったんですか?」


 特に何も考えず淡々と手続きしていたから、誰かの興味を引くような点は無かったと思うんだけど……


「そうだね、一言で言えば誰よりも落ち着いてた。」


 確かに落ち着いてはいたな。検査で相手したモンスターは普段相手しているものに比べると遥かに弱かったから、戦闘中も終始脱力していた。怪我する心配も無かったから気抜きまくってたな。


「モンスターを前にすれば誰でも少なからず緊張したり昂ったりするものなのに、君は一切そんな素振りを見せなかった。加えてモンスターの討伐もスムーズで無駄が無い。それでかなり戦闘慣れしてるんだろうなって思うと同時に本気の戦闘も見てみたいと思ったんだ。だからこうして声をかけた。」


 あの場でそこまで熱心に僕の戦闘を見てた人が居たとは意外だったな。それにただ見ていただけでもないらしい。そういうところは好感が持てるな。


 う〜ん、今の間に色々と観察した感じから考えても悪い人ではなさそうだ。なら新環境一人目の繋がりとして良いかもしれないな。


「理由は分かりました。………うん。どうやら同じクラスのようですし、これからよろしくお願いします。」

「お、良かった。こちらこそよろしく。俺は棋崎 計(きさき けい)だ。あぁそれと、敬語じゃなくていいよ。あまり堅苦しいのは苦手だからタメ口のほうが寧ろありがたい。」

「じゃあお言葉に甘えて。僕は遊城 創。改めてよろしく。」


 こうして転校して早々に友達が出来た。なんとか独り寂しく学校生活を送ることは避けられそうだ。




 二十分後、以前の学校でのことを話したり、この学校を選んだ者らしくダンジョンの話をしたりとお互いの理解を深めつつ学校側が動き出すのを待っていた僕たちの目に、おそらく教員と思われる大柄で屈強な短髪の男性が教室のドアを開け入ってくるのが映った。


「お、そろそろ始まるみたいだ。」

「一番乗りで来たからなかなか待ったな。」


 計と共に教壇の方に向き直り、視線を男性へと集中させる。


「今日からこのクラスを担当する刀塚 将史(とうづか まさふみ)だ。元は自衛隊所属だったがダンジョンが発生したことで今は攻略班に所属している。俺も職業は戦闘系で主に刀剣を使って戦う。まぁあまり器用ではないが何かあれば頼ってくれ。」


 見たところ三十代後半に差し掛かったくらいで、その表情からは真面目さと威厳が感じられる。先生としての経験は無いだろうけど、隊での指揮や攻略班としての活動で積み重ねて来たものがあるだろうからこの学校の教員としては結構頼りになりそうだ。


「よし、ではこれから今後の授業の流れを簡単に説明する。基本的にはデータとして配布してある内容の通りだ。実戦訓練とダンジョンについての知識を……」


 他の学校と何ら変わりないガイダンスが進められていき、僕たち生徒もそれを淡々と受け入れていく。そうして待つこと十五分程、


「では早速だがこれから戦闘系の君たちが頻繁に使うことになるだろう修練場に向かう。特にその後の日程は組まれてないから、使用時の注意点を説明したあとは各自自由に行動していいことになっている。だがくれぐれも怪我人が出るようなことは避けてくれ。」


 遂に修練場への移動が開始した。ダンジョンから得た資源をもとに建てられた修練場は並の建物とは比較にならない強度があるらしく、中でスキルや魔法を使っても大丈夫だと聞いている。加えてホームページからその大きさや内装等の情報を得ていたためどうしても期待が高まってしまう。実際に見るのが初めてであることもその期待を後押しして、つい笑みが溢れてしまった。ちらと隣りの計を見たが、どうやら同じ心情らしく似たような表情を浮かべている。


 さて、どこまで応えてくれるかな?


 今日一番の高揚感と共に、僕は修練場へと続く道を進んだ。

面白い、続きが読みたいと思った方は、ブックマーク・評価・感想などをつけていただければ幸いです。

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