能力開発実験
とてもとても久しぶりの投稿です。
急に書かなくなったり、と思えばこうしていきなり投稿したりと気まぐれで申し訳ありません。
定期的に投稿したいとは思っているのですが、なかなか納得のいく文章にならなかったり、そもそも時間的・精神的に余裕が無かったりと上手くいかないものですね。
今後も投稿自体はするつもりですがいつになるかは保証しかねます。
なので頭の片隅でふわっと記憶していただければ幸いです。
「よっし、今日も今日とてやってきますか。ダンジョン攻略!」
休み明け、といっても昨日もダンジョンに入ったんだけど、当然のように今日もダンジョンに来ている。
平日は基本的に悠たち四人のレベル上げに付き合うことになっているが、今日は偶々皆が他に予定があったり単純にダンジョンに入るつもりが無かったりで、急遽自由に放課後の時間を使えるようになったのだ。
「今週中にはレベル五十いきたいな。とはいえその為には一レベル当たり二、三十体は倒さないといけないよなぁ。なかなか大変だけど、まあお金にもなるし頑張るか。」
一体当たり二千円、それが三十体で六万円。さっき授業中に確認したレベルが四十三だったから七倍して最低四十二万円は稼げる計算か。あれ?週給四十二万って普通に凄くないか?単価安めだと思ってたけど全然高いわ。この調子で稼げたら高卒で家買えるじゃん。なんかやる気出てきた。
え?授業中に確認するなって?
ぼくしってるよ?バレなきゃはんざいじゃないってヒキニートのおにーさんがいってたもん!
と巫山戯るのはそのくらいにして、
「行くかぁ。」
入り口で軽く準備運動して五階層へと向かうことにした。
いつも通り出会ったモンスターを瞬殺して体を温めつつ四階層までをほぼ素通りした僕は、五階層への階段を降りつつ今日の探索方針を考える。
「はぁ、ミノタウロス倒すのはいいけどずっと同じ戦いだと飽きるよね。ちょっと戦い方変えるとかユニーク個体戦とかのイベント発生が欲しいところだな。」
前々からバトルシーンが軽いと思ってたんだよ。なんかこう必死さとか臨場感とかそういうのが無いんだよな。まあ戦ってる本人としては安全に勝てるに越したことはないんだけど、それじゃあ面白みに欠けるよね。皆もそう思うでしょ?
「………よし決めた!今日の探索は戦闘に伴う新スキルの獲得とユニーク個体もしくは上位個体の発見及び討伐を目標にやってくぞ!」
誰もいない五階層に声が虚しく響いたのを確認して、僕は探索を開始した。
ちょっと寂しいな。読者の皆慰めて。……声届かないけどね。
「お、早速いたな。まずは普通の相手で各武器の戦術を鍛えるか。」
開始から数分、最初のミノタウロスを視界に捉えた僕は武器の一覧を眺め、その中から一つを選び『実装』する。
「今の気分はバトルアックスかな。斧系の技能は全く無いけど、どうせモンスター相手じゃ普通の斧術は使えないでしょ。我流で色々試してみるか。」
そうして手にしたバトルアックスを軽く振り回してみる。
うん、ステータスのおかげで重さに振り回されることも無いし長さ、刃の形状、重心も僕の理想通りに『作成』出来てる。昨日使ってみて直したいと思っていたところが自動で改善されてるところをみると、つくづく僕のスキルの有用さを思い知らされるな。僕の想像次第で同じアイテム名でも別のものを作り出せるんだから。
「さて、使い心地の確認も出来たし訓練開始といきますか!」
バトルアックスを前面に掲げ、五十メートル程先のミノタウロスへと近付いて行く。間もなくして相手もこちらを視界に捉え、低く重たい叫びを上げて突進する勢いでこちらへと迫って来た。
こういう素直に攻めてくるところは対人よりもやりやすいんだよな。変にフェイントとか入れてこないからしっかり見ていれば余裕を持って攻撃を躱せる。そうしてスキが出来たところにこちらの攻撃を入れれば簡単にダメージを与えられ、それを何回か繰り返していけば討伐完了だ。ただ対人よりも大変なところも勿論ある。
「グモォッ!」
ブォンッ!ドガァァン!
「ぅおっと!」
パワーが半端じゃないんだよね。避けられるからいいけど掠るだけでもかなりダメージを受ける。万が一直撃したら防具も何も無い僕は即死だ。そういうところがあるから気を抜けないんだよな。
「無事に帰らないと心配する人もいるし、今まで以上に気を引き締めていかないと。」
昨日までの探索でも安全には気を使っていたが、どこか軽く考えていた節があった。楽しむうえで多少の怪我はしょうがない、と。でも今日からは違う。勿論楽しむことが最優先なのには変わらないけど、前提として無傷で生きて帰ることが加わった。来魅さんと約束したからね。
「ノーダメ縛りか。なかなか骨が折れそうだけど、それはそれで楽しめそうだ。」
一度距離を取り、改めて戦術を見直す。
今まではかなりぎりぎりのラインを見切って懐に潜り込んで攻撃してたけど、それだと対応のされ方によっては危険さもある。ここは一度完全に無防備な状態まで誘導してから攻撃するように組み換えないとな。とすると死角からの攻撃もしくは先に武器を手放させる方法になるか。ただあの膂力相手だと武器を手放させるのは難しいかもしれない。死角をつく戦法でやってみるか。
「じゃあ早速試してみよう。」
一度バトルアックスを消し、無防備な状態でミノタウロスへと接近する。当然そんな状態の獲物を放っておく相手ではないのですかさずハルバードを振り翳してきた。でも、
「これだけ身軽なら普段武器有りで避けられてる攻撃を避けられない訳ないよね。」
当社比三倍の余裕を持った回避で上手くミノタウロスの死角に入り込んだ僕は走った勢いを利用して螺旋回転をするように跳び上がった。そして首元に到達する寸前、
「バトルアックス、『実装』。」
手元にバトルアックスを作り出して握りしめ、上半身を引き絞ってタイミングを見計らい振り降ろす。
「っっらあっ!」
ズッ、パアァァン!
回転のトルクを乗せた一撃はミノタウロスの首に深く食い込み、振り抜いた際の勢いで完全に切断した。それから僕は衝撃を吸収しつつ着地し、間もなくしてその後ろにミノタウロスの残された胴体が倒れ込んだ。
「上手くいったか。やっぱり最初から武器持ってる必要無かったな。これからはヒットの直前に出して身軽に戦っていこう。それと、もう一つ実験しなきゃいけないことができたな。」
今までずっと『実装』してきたのにこの発想に至ることは無かった。結構簡単に思いつきそうなことなんだけどな。
「遠隔『実装』、試してみるか。」
一度階層間の階段まで戻りある程度の安全を確保して実験は始まった。まずはいつも通り手元に拳銃を『実装』する。
「まあこれは出来るよね。じゃあ次だ。」
続けて少し離れた位置、頭上一メートル程を意識して『実装』してみる。すると想像した通りの位置に拳銃が出現し予め伸ばしておいた手の上に落下した。
「手元じゃなくても出来るのか。であれば何処までが範囲内なのかを調べないとな。」
今度は目で見えるぎりぎりの位置に意識を向け『実装』してみる。拳銃は、
「あ、多分あれだよね。あそこまで離れてもいけるんだ。」
しっかりと『実装』されていた。分かりやすく限度を知れると思ってやったんだが予想以上のスキル性能だな。
「………うん。この調子なら出来るかもしれないな。」
自分のスキルが新たな面でも有能であることが分かったので、僕はさらなる可能性を求め条件を変更し実験を再開した。内容は見えなくても『実装』出来るか、だ。
まず一つ目、見えない距離では『実装』に成功した。肉眼で確認出来ない位置でも意識を向ければ生み出すのは可能なようだ。
次に見えない位置を試すとこれも成功した。ちなみにここで言う見えない位置というのは障害物に隔てられた先の場所を意味する。そんな場所でもイメージさえ明確に出来ていれば『実装』は可能だった。
そして最後は見えない状況での『実装』だ。目を瞑り、手元、背後、遠距離等様々な位置を思い浮かべスキルを使用した。結果としてはこれも問題無く出来てしまった。
「う〜ん、これは万能過ぎるな。逆に何が出来ないんだ?」
色々と頭を回し考えた末、一つだけ思い付いた。既に他のものが存在する座標への『実装』なら出来ないのではないかと。
「早速試してみるか。」
すぐ近くにあったダンジョンの壁に対し半分埋まるような形で『実装』させてみる。すると拳銃は少しずれた空中に生み出され、そのまま地面に落ちた。
「そっちだったか。てっきりキャンセルされるかと思ってたけど、これなら使いようがあるな。」
敢えて座標を被せることで出現する座標を固定するなんてことも出来るかもしれない。これも一つの可能性と言えるだろう。
ここまでは順調だな。あとは一番気になっていて、もし可能なら恐ろしく戦闘の時間を短縮出来るであろう方法が可能かどうか、それを調べて一先ずの実験は終了といったところか。
「さ〜て協力してくれる善良な方はいないかな?」
なんて言いつつ新しいミノタウロスを探すこと三分、曲がり角からそれは現れた。普段戦っているミノタウロスより二周り程大きい体躯で、持っている武器も通常のものよりも大きく破壊力がありそうだ。
「これは予想外だ。確かに上位個体戦は望んでたことだけど、せめて実験しきってから当たりたかったな。ま、来ちゃったものはしょうがないし、実験に付き合ってもらおうか!」
安全を考慮し一度距離を取る。それから戦闘用に姿勢を整え上位個体の出方を窺った。間もなくして相手もこちらの存在に気付き、通常の個体と同様に武器を構えて接近してきた。想定通りの速い移動に対し全力で逃げつつ思考を加速させる。
さて、どう仕留めようか。そうだな、試しに爆弾を口の中にでも『実装』してみよう。体内は同座標と見做されるのかどうかもこれで分かる筈だ。着火は………即時発動型をイメージすれば反映してくれる筈。そこまでコストはかからないしとにかくやってみよう。
『実装』
上位個体が咆哮したタイミングで口内の空間に座標を合わせスキルを発動した。が、すぐに口を閉じられてしまったので実際に生成されたかどうかは確認出来なかった。
「どうかな……お!」
相手の動きが止まった。それから間もなくして響く爆発音。上手くいったようだな。であるならば、
「どんどんいかせてもらおうか!」
立て続けに口内に爆弾を『実装』していく。同時により殺傷能力の高いタイプへと改良していくのも忘れない。相手が動かないのを良いことに内部に金属片を混ぜたりその形状を工夫したりと考え得る限りの変更をして、爆破後の威力を観察しデータを集めた。
そうしてある程度の収穫に満足した頃、上位個体は初めの勢いが完全に消え失せ辛うじて立っているという状態になっていた。だが、それでもまだ死んではいない。
「結構しぶといな。内側からだからかなりのダメージになってる筈なんだけど。流石に上位個体は伊達じゃないってことか。まあでも、ここまで弱ってくれたんなら残りは直接削れそうだね。」
ゴールまでの動き方を脳内で組み立てる。
まずは使用武器の選択からだな。これは取り敢えずバトルアックスでいいだろう。次に接近から攻撃の流れだ。これに関しては今は工夫が必要な状況ではないから速さ全振りで行こう。念の為両手へ牽制もしておこうか。とどめは、まあ断頭が一番楽かな。
よし、動きも固まったしやるか。
上位個体に向けて全速力で駆け寄り、その途中で相手の両腕の通り道にバトルアックスを『実装』する。無駄に持ち手が太いやつだ。これには地面に刺すことでストッパーの役目を担ってもらう。尚且それを足場にして三角跳びの要領で首元まで向かい、先程の個体同様に空中で武器を『実装』する。それから少し動きを変更して前方宙返りでの縦回転斬りで一息に頭を切断した。
「ふぅ、結局緊迫感とか微塵も無かったな。どうもスキルが汎用性高過ぎるんだよね。たった二つしか使ってないのにここまで自由に戦えるんだから。」
まあそこら辺は今後下層に行くにつれて勝手に解決するだろう。でなきゃ僕はなんの苦労も無くこのダンジョンを踏破してしまうことになる。それはちょっとつまらない。
「ま、収穫はあったからいいんだけどね。スキルの適用範囲も判明したし、戦いの工夫も出来たし、まずまずの結果じゃないかな。」
あとはこの実験内容が通常スキルに反映されれば完璧だ。地道に繰り返して行こう。
「さて、次はどの武器を試そうかな。」
「今日の所はこんなもんかな。平日だしそろそろ終わりにして帰らないと。」
あれから二時間ほど実験を続けたところで、僕は帰りの準備をすることにした。といっても荷物は全部アイテムボックスに入れてるから特に何をするでもないんだけどね。
「さてさて気になる実験結果はどうかな?ステータス!」
自宅へと歩みを進めつつ、画面へと目を向ける。
名前 遊城 創
Lv 44
職業 【遊戯開拓者】
HP 880
MP 660
AT 660
MA 440
DF 660
MD 660
職業スキル 『作成』『実装』
通常スキル 『隠密』『精密射撃』『空歩』
魔法 土魔法Lv4
称号 《初級探索者》
「おっ、レベル上がってる。それにこれは……」
空中での姿勢制御を必要とする戦法をメインにしていたおかげか見るからにそれらしきスキルが増えている。どうやら一瞬ではあるが空中を足場に出来るなど空中戦闘の補助が可能なようだ。
「十分過ぎる収穫だな。帰り道に軽く試してみるか。」
そうして僕はスキルを使って空間を上手く利用しつつ、普段ならスピードを落とす道をするすると駆け抜けて幾分か早く自宅に着いたのだった。
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