6.もふもふの刑
どうしたらお母様を助けることができるだろう?
エドアルト王子との婚約を避けたいというのもあるが、何よりお母様がいなくなるのは嫌だ。
未来を知っているのに何もしないという選択肢はない。
戦争を止める……のは無理だろう。国同士の問題に子供である私がどうこうできるものではない。
お母様を引き止める……のは難しい。お母様は責任感が強い人だ。きっと今回も志願するだろう。
第三次クレイナ戦役が起こるのはもうすぐだ。
何か策はないだろうか? 考えないと!
「何をそんなに悩んでいる?」
「眉間にしわが寄っています。可愛い顔が台無しですよ、マリエル」
「…………」
ラシードはともかくレイリさんまで頻繁に顔を出すようになった。
二人は私の部屋でお菓子を頬張りながらくつろいでいる。
「……掟はどうなったのですか?」
一度親元から放した子に親が会いにくるのは掟に反するのではないのか?
ルリアが両親と交流するのはいいことだとは思うけれど……。
「わたくしはお菓子を食べに来ているだけですよ。人間が作るお菓子は美味しいですから」
伝書フクロウのブランに与える精霊石が毎回五粒しか袋に入っていないのは、ここに来るのが目的だからだろうか?
なぜか精霊石は毎回レイリさんが届けに来てくれている。
「俺はマリエルの魔術の師匠だからな」
ラシードは得意気にふふんと鼻を鳴らす。
魔術をエンシェントエレメンタルドラゴンに教えてもらうのは最高の贅沢だ。
「それでマリエルは何を悩んでいるのですか? 子供の頃から悩みが多いと早く老けてしまいますよ」
レイリさんは見かけが優しそうなのに、毒舌だ。
「……戦争を止める方法を考えています」
「何だ。どこかで争いが起こっているのか?」
「いいえ。例えばですけれど、我が国とクリュタリオン帝国は長年争っていますし、いつ戦争が起こってもおかしくないかなと……」
言葉を濁すと、レイリさんが眉を顰める。
「何か隠していますね? そんな悪い子にはおしおきです!」
おしおき!? ええっ! 何をされるの!?
レイリさんは立ち上がると、私に飛び掛かってくる。
「きゅい!」
ルリアが咄嗟に私の膝の上から……下りる。ええっ! ルリア! 助けてくれないの!?
「レイリさん! おしおきって!?」
目を瞑った私だが、飛び掛かってきたレイリさんが妙に軽いので、そっと目を開ける。
膝の上にはブルーグレーの毛並みの猫が座っていた。
「ロ! ロシアンブルーにゃん!」
「悪い子には『もふもふの刑』です。うふふ。この魅惑のもふもふに勝てますか?」
猫からはレイリさんの声がする。ということはこの猫はもしかして……。
「レイリさん!? ええっ! 猫だったのですか?」
「いいえ。エンシェントエレメンタルドラゴンです。変化することなど造作もないことです」
そうですよね! 人間にもなれるんですから!
「なるほど。マリエルはもふもふ好きだからな。では俺も!」
ラシードは犬に変化すると、私の膝の上に飛び乗ってくる。
「うわあ! 豆柴わん! ラシード様、なぜ私が好きな犬種を!?」
コロコロとして可愛い豆柴姿のラシードはにやりとする。
「お前、よく犬とか猫とか動物の絵を書いているだろう?」
確かにもふもふのお絵描きをしているが、見られていたとは!?
「さあ、洗いざらい隠していることを話してしまいなさい」
もふもふに迫られる。
「こんな手は卑怯だ!」
もふもふもふもふもふもふもふもふ……エンドレス。
マリエルの運命やいかに!?