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45.長い一日

あと一話更新します。

 エリアーナは一度目の人生で婚約者を奪い、私を死に追いやった張本人だ。


 だが、二度目の人生でのエリアーナは父親を慕っているただの女の子に過ぎない。


「『無限魔法術式』展開! 戒めの鎖!」


 今まさにエリアーナに襲いかからんとしているラシードの手を魔術の鎖で縛る。


「ぐおっ! マリエル! 何をするんだ!?」


 ラシードが苦悶の表情を浮かべながら、私に抗議する。


 エンシェントエレメンタルドラゴンに通用するか不安だったが、私の魔術はラシードに有効なようだ。


「だってエリアーナが人間に戻ったから」

「それくらい俺も気づいている! 早くこの鎖を解け!」


 魔術の鎖を嚙みちぎろうともがいているラシード。


「面白いからあのままにしておけ。マリエ」


 ベルンは面白そうにラシードを見物している。


「ベルンハルト! てめえ後で覚えてろよ!」


 ラシードは牙を剥いて怒っていた。鋭い牙だなあ。自分の牙で舌を噛んだりしないのだろうか? と間抜けなことを考えていると――。


「……おかしい」


 地面に尻もちをついていたエリアーナがいつの間にか立ち上がって、そう呟いた。


 何がおかしいというのだろう?


「どうしてトレースできないの? 今までこんなことなかったのに!」


 ベルンがはっとして私の方へ振り返る。


「マリエ! 魔法術式を解除しろ!」


 自分の周りを見渡せば、無数の魔法陣が浮かび上がったままだ。そういえば、まだ解除していなかった!


「もう一度! トレース!」


 慌てて魔法術式を解除しようとするが、エリアーナの詠唱の方が先だった。


 しかし、何も起こらない。


「……やっぱりダメだわ……何? 何なの? 貴女何者よ!?」


 混乱したエリアーナが頭を抱えて、後退あとずさる。


 隙をついて駆け出したベルンがエリアーナのみぞおちに拳を打つと、彼女は気を失う。


 よく相手を気絶させる時に使う手だが、ドラマでしか見たことがない。


「ベルン。女の子相手にそれはひどくない?」


 みぞおちは人体の急所だ。


 そこを突くのは護身術で使われる手だが、あれはやられると痛いし、息が止まる。


 訓練を受けた人であればともかく、良い子の皆さんはマネしないように!


「放っておけばマリエに危害を加えるかもしれない」


 ベルンは気絶したエリアーナを地面に寝かせながら、きっぱりと言い切る。


 いやいやいや! エリアーナは魔術をトレースしようとしただけだよ。トレースの仕方は知らんけど……。


「こらっ! 早くこの鎖を解け!」


 あっ! ラシードのことを忘れていた。


◇◇◇


 皇太子宮に帰る頃には夜が明けていた。長い一日だったな。


 少し離れた場所に降り立って庭園に向かうと、人だかりができていた。


 無理もない。何せ嵐にでもあったかのようにひどい惨状だ。


 ベルンは一連の出来事を説明するために皇帝陛下の下に赴くという。


「マリエ、すまないな。結局徹夜になってしまった。今日は部屋でゆっくり過ごすといい」

「ベルンこそ大丈夫なの?」

「俺は慣れているから平気だ」

「しっかり食べて睡眠を摂らないと大きくなれないわよ」


 これは鞠絵の祖母によく言われていた言葉だ。夜更かしが大好きだった私は翌日祖母に見つかって怒られていた。


「何だ? それ。しかし肝に銘じておこう」


 ベルンはふっと笑うと、アロイスとともに去っていった。


「きゅ~い!」


 私も部屋に戻ろうとしたら、ふいにルリアにドンと体当たりされた。


「ルリア!」

「きゅい! きゅきゅきゅ!」


 ルリアは私に顔をこすりつけながら、「心配したよ」と言った。


「ごめんね、ルリア。心配かけて。さあ、部屋に戻りましょう」

「きゅい!」


 部屋に戻ると、ルナたちが一斉に飛びついてきた。


 もふもふたちの毛並みが心地よくて、眠気に襲われた私はそのままベッドに倒れこむように眠りについたのだ。



 後日聞いた話だが、エリアーナは魔力を封印されてカルクシュタイン王国の修道院へ送られるそうだ。


 皇太子宮へ二度も不法侵入して、しかも庭園を破壊した罰として……。


 境遇には同情するが、エリアーナは少々常識に欠けるところがある。良く言えば自由奔放なのだ。


 貴族令嬢は幼少の頃から淑女教育を受けるため、どうしても本音が出せない。


 社交は戦のようなものだ。どうやってマウントをとるか? 要するに弱肉強食なのだ。


 貴族の世界は冷たい。


 その点、市井で育ったエリアーナは自由に生きてきた。


 今思えばそういった自由なところにエドアルトや貴族の令息たちは惹かれたのかもしれない。


 しっかり修道院で学び直して、いつか母親とともに暮らせる日がくるといいと願わずにはいられない。

次回はエピローグです。

引き続きお付き合い願います。

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