44.怪獣合戦絵巻
本日はあと二話更新します。18時予定です。
エリアーナはドラゴンの姿に変わった。禍々しい黒いドラゴンは大きく顎を開ける。
『パパは……悪いことなんてしてないんだから!』
ブレスを吐くのかと思いきや、声を発した。
ドラゴンの姿になっても話すことができるのだなと妙に感心してしまうが、ラシードもドラゴン姿で話せるのだから当たり前かと納得した私だ。
エリアーナは泣きながら、庭園上をめちゃくちゃに暴れ回る。まるで子供が駄々をこねているようだ。
周囲の木々がなぎ倒され、風が吹き荒れる。
「ひゃあ!」
「マリエ!」
ベルンが咄嗟に私を庇うように抱きかかえてくれる。
「マリエル! ベルンハルト! 乗れ!」
ラシードがエンシェントエレメンタルドラゴンの姿に変わったので、ベルンと私はラシードの背に飛び乗る。
暴れているエリアーナから離れようとラシードは上空へ向かって急上昇した。
エリアーナも私たちを追って空へと上昇してくるのが見える。
「追ってきたな。ラシード、全力で飛ぶなよ。あの娘がついてこれる速度で飛べ。何もない場所までおびき寄せて捕える」
「分かっている。俺に命令するな」
前から思っていたが、この二人ってどちらも俺様系男子だよね。
「エリアーナはなぜブレスを使わないのかしら? ラシード様を打ち落とせば私たちに追いつくのは簡単なのに」
「おい! 俺を殺す気か? まあ、世界最強の俺に敵うドラゴンはいないがな」
「レイリさんは?」
「うっ!」
言葉に詰まったな。さすがのラシードも奥さんには敵わないようだ。
ややあってラシードはぽつりぽつりとエリアーナの魔術について推察し始める。
「あの娘は何でも魔術を模写できるようだが、ドラゴンの能力までは完全に模写できないのだろう。それに他の魔術を使ってこないということは直近で模写した魔術しか使えないんだろうな」
ラシードの推察が正しいのだとしたら、一度目の人生でエリアーナは誰かから神聖魔術を模写して聖女になったということになる。
「模写される恐れがあるということは、魔術は使わない方がいいだろうな。そうなると物理的にあの娘を捕えないといけないわけだが……」
ベルンは腕を組んで考え込んでいる。
あの巨体を物理的に捕らえるのは難しい……そう。人間には……。
ふと、地上を見下ろせば未開拓な土地が見えてくる。
あそこなら被害が出なさそうだ。
ラシードも同じ考えだったようでその土地に降下していった。
◇◇◇
目の前で二大巨頭が取っ組み合いをしている。
エンシェントエレメンタルドラゴンであるラシードとドラゴン姿のエリアーナ。まるで怪獣映画を見ているようだ。
ここへ降下する手前でベルンがある作戦を立てた。
『ドラゴンを物理的に抑えられるのは、同じドラゴンだけだ。というわけでラシード頼んだぞ』
『何だと!? 俺に丸投げする気か? あの小娘はお前らに用があってきたんだろうが!』
ベルンの命令口調に憤っているラシードに私は魔法の呪文を投げかける。
『ラシード様、お願いします。お礼にマカロン一年分を差し上げますから』
『よ~し! 分かった! 任せておけ!』
ふっ! ちょろいな。ラシードが甘いものに目がないことはお見通しだ。
ベルンと私は岩陰に隠れて、ラシードとエリアーナの戦いを見守っていた。
「ねえ、ベルン。ラトレイアー子爵とエリアーナを少しだけでも会わせてあげることはできないの?」
「今は無理だな。だが、ラトレイアー子爵はカルクシュタイン王国の貴族だ。我が国で罰することはできないから、そのうちカルクシュタイン王国へ送還することになる。故国へ帰れば家族と会わせることはできるのではないか?」
ラトレイアー子爵の罪状は国家反逆罪だ。おそらく死罪になるだろう。
我が国で貴族が死罪になる時は『名誉の死』が与えられる。『名誉の死』と謳ってあるが、実際は服毒による死だ。執行官立ち合いの下、毒を飲む。
そして、家族に会えるのは刑が執行される前日だ。
「……そう」
一度目の人生ではひどい目に遭わされたが、少しだけエリアーナを気の毒だと思った。
再び視線を二大巨頭へ向けた時に異変が起こる。
ラシードが鋭い爪をエリアーナに振り下ろした時、彼女の姿が歪みドラゴンから人間へと戻ったのだ。
「危ない!」
気がついたら行動に移していた。
人間に戻ったエリアーナの運命は?