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41.マリエルの怒り

 確証はないが、一度目の人生で第三次クレイナ戦役を引き起こしたきっかけを作ったのは、この愚か者たちが関与していたかもしれない。


 第三次クレイナ戦役の後、ラトレイアー子爵家はさらに財を築いたと聞いた。大方、戦争によって利益を得たのだろう。


 ラトレイアー子爵は表向きは貿易商人だが、裏で武器を取引しているという噂があった。


 戦争が起これば武器が売れる。


 そして、アッシェンバッハ侯爵はクリュタリオン帝国の軍務のトップだ。


 武器商人と軍務を司る国の重鎮。


 互いが己の利益のために戦争を起こす企みをしたとしても不思議ではない。


 そんな考えが私の頭の中を過る。


 だから、気がついた時には行動に移していた。


 執務机の前で跪いていたラトレイアー子爵の頬を思い切り叩く。パン! と高い音が執務室に響いた。


「マリエ!?」


 ベルンが愛称で私の名を叫ぶ。しかし、私は感情を抑えることができない。


「この愚か者! 戦争を起こして何とする!? 己の利益のためか! そのためにどれだけの犠牲を生むと思っている!? 争いは何も生まぬ!」

「黙れ! 小娘が! 貴様があんな大がかりな魔術を使わなければ、上手くいっていたのだ!」


 今までおどおどとしていたラトレイアー子爵が急に態度を変えて激高する。


 そして、私を怒鳴りつけたかと思うと、懐から何かを取り出そうと手を忍ばせた。しかし、その手はアロイスによって遮られる。


「それまでです。ラトレイアー子爵。公女を傷つければさらに罪が増えますよ」


 駆けつけた近衛騎士に捕縛されたラトレイアー子爵はブツブツと何かを呟いている。


「……何故なんだ? ローゼンストーン大公女は魔力がポンコツだと聞いていたのに……あんな魔術を使うなど聞いていない……」



 ラトレイアー子爵が捕縛されて連行されるのを、私は呆然と立ったまま見送った。


「……マリエ。とりあえず座れ」


 ベルンがいつの間にか私の手を握り、ソファへ導いてくれる。


「いやあ。お見事! お前、今までで一番大公女っぽかったぞ!」


 それまで静観していたラシードが拍手をしながら、私をからかう。


「からかわないでください! っぽいではなくて、本当に大公女です!」


 今まで緊迫した雰囲気だったというのに、本当にブレない人だ。いや。ドラゴンか。


 だが、ラシードのおかげで怒りがどこかに吹っ飛んでしまったから、感謝しなければいけないだろう。


「ねえ、ベルン。ラトレイアー子爵はどうなるの?」


 隣に座っているベルンは私の手を握ったままだ。


「今頃、カルクシュタイン王国へ書簡が届いている頃だろう。ラトレイアー子爵家に捜査が入れば、アッシェンバッハ侯爵と交わした契約書が見つかるはずだ。そうなれば、ラトレイアー子爵は国家反逆罪で極刑を免れないだろうな」


 カルクシュタイン王国への書簡はお父様がしたためたそうだ。


 国家反逆罪。大罪だ。ラトレイアー子爵家は爵位剥奪され、財産は国に没収される。


「……エリアーナはどうするのかしら?」

「彼女の母親はまだラトレイアー子爵と結婚前だ。それに彼女たちがラトレイアー子爵に共謀しているという事実はない。母子で市井に戻るだけだろう」


 エリアーナは母親と一緒に花街に戻るのだろうか?


 彼女の行く末が気にならないと言えば嘘になるが、私が気にかけるというのもおかしな話だ。

エリアーナはどうなるのか?

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