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40.暴かれた真実

 近衛騎士に付き添われて皇太子執務室に入ってきたのは、エッカルト・ラトレイアー子爵だった。


 記憶にあるよりはずっと若いが、忘れようがない顔。エリアーナの父親だ。


 だが、ラトレイアー子爵が何故ここに?


「ラトレイアー子爵。よく来てくれた」


 ベルンはラトレイアー子爵の顔を知っている?


 クリュタリオン帝国の皇太子だから、敵国の貴族の顔は把握しているだろうが、高位貴族や軍人であればともかく、ラトレイアー子爵は確か貿易商のはずだ。


「お初にお目にかかります。ベルンハルト皇太子殿下。カルクシュタイン王国のラトレイアー子爵家当主、エッカルト・ラトレイアーと申します」


 ラトレイアー子爵は執務机の前に跪くと、ベルンに形式どおりの挨拶をした。しかし、わずかに肩が震えているので緊張しているのだと分かる。


「さて、ラトレイアー子爵。今日ここまで来てもらったのは……」

「誠に申し訳ございません!」


 ベルンが話題を切り出そうとしたのを遮り、ラトレイアー子爵がいきなり謝罪の言葉を口にする。


「うん? 俺はまだ何も申しておらぬが?」

「しかし、面識がない私をわざわざ皇宮まで呼び出されたのは、娘のことでございましょう?」


 エリアーナが皇太子宮に不法侵入をしたことを注意しようと、ラトレイアー子爵を呼び出したのだろうか?


 いや。何となく違う気がする。


 ただ注意をするだけであれば、使者に託せばいいことだ。


「ご息女は中々大胆だな。皇宮へは迂闊に近寄らないように親の其方から注意しておいてくれ。二度目はない」

「はい。よく言い聞かせます。この度は娘がご迷惑をおかけいたしまして、誠に申し訳ございませんでした」


 米つきバッタのようにぺこぺこと頭を下げるラトレイアー子爵に対して、ベルンの態度は冷ややかだ。


 ベルンが次の言葉を発しようとしないので、ラトレイアー子爵は跪いたまま恐る恐る顔を上げる。


「あの……私はもう下がらせていただいてもよろしいでしょうか? 娘を宿に残したままですので……」

「いや。本題はこれからだ。ラトレイアー子爵。其方アッシェンバッハ侯爵を知っておるな?」


 最近覚えたばかりの名だ。確かクリュタリオン帝国の重鎮だったか?


「は、はい。アッシェンバッハ侯爵家の領地で採れるはちみつを我が商会で取引させていただいております」


 何だろう? ラトレイアー子爵の視線が忙しなく動いている。まるで不審者だな。


「先日、アッシェンバッハ侯爵を国家反逆罪で捕らえた」


 国家反逆罪!? 何か大事おおごとになってきた! 私がこんな場所に立ち会っていいのだろうか?


「……そ、それは存じあげませんでした。侯爵と大切な商談をするつもりでクリュタリオン帝国へ参りましたが、無駄足になってしまいました」

「無駄足ではない。ところでこれに見覚えはあるか?」


 ベルンは丸められた一通の羊皮紙を机の上に広げる。


 ここからではよく見えない。だが、ラトレイアー子爵の顔色が変わったのは分かった。


「これは其方がアッシェンバッハ侯爵と交わした契約書だ。内容は言わずとも分かるな」

「まさか……それは署名した本人の魔力を流し込まなければ、内容は分からないはず……」


 はっとラトレイアー子爵が口を押えるが、時すでに遅しだ。ベルンは口の端を吊り上げる。


「こういった秘密文書を読み解く魔術を持つ者が我が国にいるのだ」


 ベルンは横目でちらりとアロイスを見る。


 つまり、アロイスがその魔術の持ち主なわけだ。


「ベルン。いいえ。ベルンハルト皇太子殿下。その契約書には何が書かれているのですか?」


 契約書の内容が気になった私はつい口を挟んでしまう。


「マリエル……公女?」


 今頃、私の存在に気付いたのか、ラトレイアー子爵がこちらに視線を向ける。


「当事者である其方には知る権利があるな。要約すると、カルクシュタイン王国と我が国が戦争するように仕向けるといった感じだ。手始めにローゼンストーン大公一家を暗殺して、我が国の陰謀に見せかける。実に愚かだ」


 何ですって!?


 私は立ち上がると、ラトレイアー子爵の下につかつかと歩み寄る。


「では、あの黒装束の者たちは貴方とアッシェンバッハ侯爵が差し向けたのね?」

「…………」


 ラトレイアー子爵は無言だが、それが答えだ。


 私は拳を震わせると、きっとラトレイアー子爵を睨む。


「愚かだわ」

ついにマリエルがキレるのか?

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