39.意外な招待客
その日、皇太子宮は騒がしかった。
入れ替わり立ち替わり人が出入りしている。何か起こったのだろうか?
エリアーナの突然の襲来? からベルンは忙しそうで、同じ皇太子宮にいるというのに中々会えない。
帝都を案内してくれると言っていたのにな。
べっ! 別に寂しいとかじゃないからね! とツンデレになってみる。
「お父様かお母様を誘って散歩でもしようかしら?」
両親を誘いに隣の部屋を訪れるも留守のようだ。
扉の前に立っていた護衛に行き先を尋ねてみる。
「お父様とお母様はどちらへ出かけられたの?」
「皇帝陛下に謁見されております」
「婚約式の打ち合わせかしら?」
「用件までは分かりかねますが、まもなく戻っていらっしゃるかと思います。中でお待ちになりますか?」
もうすぐベルンと私の婚約式だ。両親が皇帝陛下に用事があるとすれば、そのことだろう。
「いいえ。また後で伺うとお伝えして」
「承知いたしました」
一人で散歩するのも寂しいので、ルリアたちを連れて庭園に出る。
「あ~あ。退屈だな。ラシード様かレイリさんが来ないかしら?」
「呼んだか?」
後ろからラシードの声がしたので、びっくりして振り返る。
「ラっ! ラシード様!?」
「きゅ! きゅきゅきゅい!」
「何をしに来ただと? 相変わらず生意気なチビだ。誰に似たんだろうな?」
それはお父さんでしょう。可愛くて賢いところはお母さん似だけれど。
「ラシード様。いついらっしゃったのですか? それに、どうやって皇宮に入ったのですか?」
羽音がしなかったから、全く気付かなかった。
「ついさっきだ。正面から堂々と来た。ベルンハルトのやつに招待されたんだ。もうすぐ婚約式なんだろう?」
「そうですが……」
エンシェントエレメンタルドラゴンを招待? 正体がバレたら大変なことにならないかしら?
「ラシード、来ていたのか? マリエも一緒か」
噂をすれば何とやら。ベルンだ。
ルナが「にゃあ~ん」と甘えた声を出してベルンに飛びついた。
「ルナはベルンが好きなのね」
「何だ? 妬けるか?」
ルナを撫でながら、にやりとベルンが笑う。
「違います!」
「仲が良いな。お前ら」
ラシードまでにやにやしているので、私はぷいとそっぽを向く。
「マリエ、今夜時間はあるか?」
「……あるけれど」
まさかデートの誘い? いやいや。子供だよ。私たち。
「一緒に立ち会ってほしいことがある。ついでにラシードも来ていいぞ」
「俺はついでかよ」
立ち会い? 何の?
◇◇◇
軽く夕食を摂った後、ベルンの執務室へラシードとともに赴いた。
「何の立ち会いをするのかしら?」
「さあな。あいつの考えることは分からん」
皇太子執務室の前まで来ると、侍従が控えていた。この人、カルクシュタイン王国まで同行してきた人だ。名前は確かアロイスだったか。
アロイスは一礼すると、扉を開けてくれた。
「皇太子殿下。マリエル公女様とラシード様がいらっしゃいました」
あれ? ラシードのことを知っているんだ? ベルンはこの侍従を余程信頼しているのね。
「よく来てくれたな。そこのソファにかけてくれ。何か飲むか?」
ベルンは大人用の執務机に座って仕事をしている。立派に皇太子業をしているんだなと感心してしまう。
「温かいお茶をいただけますか?」
「俺は酒がいい。秘蔵の酒とかあるんだろう?」
何ともラシードらしいというか、遠慮がない。
「酒は却下だ。後にしろ。アロイス、温かい茶を淹れてくれ」
「承知いたしました」
慣れた手つきでアロイスはお茶を淹れてくれる。侍従というのはお茶淹れまでやってくれるのか。
「ちっ! 皇太子のくせにケチだな」
「後で浴びるほど飲ませてやるから、我慢しろ」
私は苦笑しながら、アロイスの淹れてくれたお茶を飲む。カモミールかな? いい香りだ。
「ベルン。立ち会いって何をするの?」
「もうすぐ分かる」
書類にペンを走らせながら、ベルンが素っ気なく返事をしてくれた。
しばらくすると扉がノックされたので、アロイスが駆け寄り扉を開ける。
扉から現れたのは意外な人物だった。
意外な人物とは誰なのか?