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38.魔術を欲しがる少女(エリアーナ視点)

 人間は空を飛べないというのは嘘ね。


 だってわたしは飛んでいるもの。人間の姿ではなくて鳥だけれど、中身は人間だから間違っていないわ。


 クリュタリオン帝国の皇族は神と聖女の血をひいている一族で、今の皇太子がその血を濃く受け継いでいると教えてくれたのは誰だったかしら?


 確かママのお客さんだった気がしたけれど、忘れちゃった。


 わたしのママは男の人を相手にする仕事をしている。娼婦というお仕事なんだって。ママはその娼婦の中でも偉いらしいわ。


 今までたくさんの男の人たちを見てきたけれど、ママのお客さんは皆身なりの良い人ばかりだった。


 その中にわたしのパパがいる。


 カルクシュタイン王国の貴族でラトレイアー子爵。それがわたしのパパだ。


 パパはよくお土産を持ってママのところを訪れてくる。わたしにもドレスやお菓子をたくさん持ってきてくれるので、パパが大好きだ。


 まもなくパパとママは結婚するらしいので、わたしは貴族の娘になる。身請けというらしい。


 ママと二人で暮らしていたお部屋も素敵だったけれど、パパのお屋敷で用意してくれたわたしのお部屋はもっと豪華で素敵だ。


 ある日、パパがお仕事でクリュタリオン帝国へ行くというので、一緒に連れていってもらうことになった。ママはお留守番らしい。


「ねえ、パパ。クリュタリオン帝国ってどんなところ? わたし皇宮に行ってみたいな」

「とてもいい所だよ。皇宮へは……パパは出入りを許されていないんだ。でも外から見るだけならできるよ」

「外だけなんてつまんない。中に入ってみたい」

「う~ん。鳥にでもならないと無理かな?」


 パパは困ったように笑う。


 中に入らないと皇太子の魔術をトレースできない。皇太子は聖女の血をひいているので、神聖魔術が使えると聞いた。神聖魔術をトレースできたら、わたしは聖女になれる。


「鳥さんになれば、中に入れるの? それならエリーできるよ」

「それは……すごいね」


 そう言ってパパは私の頭を撫でる。信じてないのかな? 本当にできるのに……。


 だってわたしは他人の魔術をトレースできるから、この間ママのお客さんから変身できる魔術をトレースさせてもらったもの。


◇◇◇


 クレイナで休憩した時にすごいものを見てしまったの。


 パパに馬車の中で待っているようにと言われたけれど、退屈でこっそり抜け出しちゃった。


 記念碑のところでわたしと同じ年くらいの女の子が戦っていたのだ。


 見たこともないような魔術で、詠唱も聞いたことがないものだった。


「あの魔術いいな。欲しいな」


 女の子は黒いローブを纏っていたが、纏う前の顔をわたしはしっかり見た。


 最近、『貴族名鑑』で見た顔だもの。


 ローゼンストーン大公女マリエル。


 パパが「宮廷魔術師長の娘だが、あれはポンコツだ」と言っていたけれど、全然ポンコツじゃない。



 クリュタリオン帝国に到着した日の夜、こっそり抜け出して皇宮へ行った。鳥に変身して。


 マリエル公女はちょうど外にいて、すぐ見つけることができた。


『貴族名鑑』の肖像よりずっときれいだ。動物をいっぱい連れている。ペットかな?


 マリエル公女はなぜかわたしの名前を知っていたと思ったのに、猫と同じ名前だって。失礼だよね。


 公女と話していたら、皇太子までやってきた。


 皇太子の顔はパパが細密画ミニアチュールを持っていて見せてもらったから知っていたけれど、素敵な男の子だ。


 でも何か怖い。


 どうしよう? 公女の魔術をトレースしようか? それとも皇太子の魔術?


 困ったな。トレースは一つしかできないし、一度に二つの魔術を使うことはできないもの。


 迷っているうちに騎士らしい制服を着た大人が来た。


 仕方ないな。今日は引き上げよう。


 また来ればいいもの。

エリアーナはまたマリエルに会いに行くようです。

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