31.マリエルの奮闘
多勢に無勢。
普通は圧倒的に不利なのだが、たった二人で優勢を保っている。あらためて私の両親はすごいと思う。
こんなに優秀な両親なのに、なぜ娘の私はポンコツなのだろう。
ラシードに出会うことがなければ、一生魔術を上手く使うことができなかった。
でも、そろそろ加勢しないと今度はお母様だけでなく、お父様も喪ってしまうことになる。下手をすると一家仲良くあの世行きだ。
そこら辺に転がっている黒装束の男からローブを剥ぎ取り、羽織る。そして、フードを目深に被る。
こんなものでごまかせるとは思えないが、両親に魔術を使っている姿を見られたくない。
「『無限魔法術式』展開!」
両親に魔術が当たらないように調整して――。
「水の弾丸千二百連射!」
黒装束の男たち目掛けて、水の弾丸が降り注ぐ。
「ぐあっ!」
「うわあああああ!!!!!」
男たちは次々と倒れていく。弾丸と言っても殺さないように調整してあるので、当たってもせいぜい気を失う程度だ。大事な生き証人だからね。
でも、念には念を入れておかないと!
「戒めの鎖!」
魔法陣の射程内にいる黒装束の男たちを魔術の鎖で縛る。
「きゅーーーい!」
ルリアの声だ。どうやら助けが来た。
待ち合わせ場所が変更されると聞いた時に、ブランに頼んでベルンへ手紙を運んでもらったのだ。
今回、クリュタリオン帝国へは我が家の可愛いもふもふたちも伴ってきた。ベルンが連れてきてもいいと言ってくれたからだ。
「マリエル? どうしたの? そんな変な格好をして。いえ。それよりあの魔術は……」
お母様が呆気にとられている。
「人違いです。私は通りすがりの魔法少女セトウチです。助けが来たようですので、私はこれで失礼します」
さっと身を翻そうとしたが、あっさりお母様に捕まってしまった。
「お待ちなさい。じっくりと聞きたいことがあるわ」
やはり母親の目はごまかせなかったようだ。
◇◇◇
駆けつけてくれたベルンとクリュタリオン帝国の近衛騎士団によって、黒装束の男たちは捕縛された。
このままクリュタリオン帝国へ連行して尋問をするそうだ。
「マリエ、無事でよかったよ。ローゼンストーン大公夫妻もご無事で何よりです」
「ベルンハルト皇太子殿下、ご助力感謝いたします」
「俺は何もしていないです。駆けつけた時にはすでに片がついていましたし」
ベルンがちらりと私を見る。
「通りすがりの魔法少女セトウチさんが助けてくれました」
にっこりと微笑んでみる。
「魔法少女セトウチ? あれはマリエの魔力だろう? 一度魔法戦で手合わせをしたことがあるから、魔力の波動は覚えている」
「えっ! 魔法戦の手合わせですか? ベルンハルト皇太子殿下と? いつのことですか?」
お母様が食いついてきた!
「マリエが五歳の頃……もがっ!」
咄嗟にベルンの口を塞ぐが、時すでに遅し。
「そんなに前から魔術を!? リゼロッタ! うちの娘は天才か!?」
「ええ。普通の子供は六歳から魔術を習うものですけれど」
嬉しそうなお父様とは対照的にお母様の額には青筋が浮いている。
この後、両親に魔術を使えるようになった経緯を説明するのが大変だった。
マリエルは両親にこってり絞られました。