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30.大公家に忍び寄る影

 エリアーナ・ラトレイアー。突如として現れたカルクシュタイン王国の聖女。


 ふわりと波打つ金茶色の髪と大きな紫の瞳を持つ優し気な風貌の少女は、貧しい人々にも惜しげなく癒しの力を使い、瞬く間に人々を虜にした。


 だが、私はこの聖女の本当の姿を知っている。


 国外追放をされた私が、護送用の小さな馬車で隣国に運ばれている最中の出来事だ。


 まもなく隣国との国境に差し掛かろうとした橋の上で突然馬が暴れて、馬車は橋の下に転落した。


 衝撃で馬車の外に投げ出された私は落下していく中、確かに見たのだ。


 エリアーナ・ラトレイアーが橋の上で嘲笑を浮かべて、落ちていく私を眺めているのを……。


 おそらく、直接手を下したのはエリアーナではないが、裏で糸を操っているのはあの女だと確信した。聖女のくせに性悪女だ。


 その直後、意識がなくなったので私は即死だったのだろう。


「馬がかわいそう!」

「マリエル、馬がどうかしたのかい?」

「夢を見たのね」


 対面に座る両親が微笑ましいものを見るように私を眺めている。


 どうやら馬車の揺れが心地よくて、うたた寝をしていたらしい。


 私は今、両親とともにクリュタリオン帝国へ向かっている。


「え~と。馬が馬肉になる夢を見ていたの」

「あら。それはかわいそうね」


 お母様が優しく微笑みかけてくる。


「もうすぐクレイナに到着するよ、マリエル。ベルンハルト皇太子殿下が迎えに来てくださるんだ。悪い夢なんかすぐに忘れるよ」


 両国間の国境にあたるクレイナまでベルンが迎えに来てくれるのだ。


 クレイナというのは地名だが、名のとおり第三次クレイナ戦役の舞台だ。そして、お母様を喪うという悲劇が起きた地。


 二度目の人生では必ず悲劇を止めてみせる!


◇◇◇


 クレイナには第二次クレイナ戦役が停戦された際に建設された記念碑がある。


 ベルンとの待ち合わせ場所に指定されたのだがここなのだが……。


「ローゼンストーン大公ご一家ですね?」

「そうだが。君たちはクリュタリオン帝国からの迎えの者か?」


 お父様の問いかけに男は答えない。


 目の前の男たちは明らかにクリュタリオン帝国からの迎えの者ではないだろう。だって黒装束だもの。


 ベルンの供としてつくのであれば、近衛騎士団のはずだ。クリュタリオン帝国の近衛騎士団の制服が黒装束とは到底思えない。


 そもそも、途中の先触れで待ち合わせ場所が変更されたと聞いた時からおかしいとは思っていたのだ。


「我らの目的のため、お命頂戴つかまつる!」


 わあ! いかにも悪党が吐きそうなセリフだ。さしずめ、暗殺者といったところだろう。


 黒装束の男たちが抜刀する。


「マリエル、下がっていなさい」


 お父様とお母様が私を守るように前に立ちはだかる。


 私は両親に言われたとおり、馬車の陰に隠れた。


 辺りを見回すと、私たち一家を守っていた護衛たちが倒れている。皆、死んではいないが、重傷を負っている者が多数いた。黒装束の男たちはかなりの手練れだ。


 お父様はカルクシュタイン王国近衛騎士団長で、お母様は宮廷魔術師長なので、たぶん大丈夫だとは思うが、念のため手は打っておいた。


 とりあえず私は怪我をした人たちの手当てをすることにしよう。

一家の命運は!?

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