26.導く声
どうやらベルンとラシードとはぐれてしまったらしい。
今まで進んでいた道とは違うようだが、何しろ似たような風景だ。ここがどこなのかさっぱり見当がつかない。
こういう時は動かずに助けを待つのがセオリーだ。
しかし、辺り一面の天然石が輝きを放ち点滅している。それはまるで私を誘っているかのようだった。
「う~ん。どうしたらいいかな? 点滅している方へ進めと言われているみたいだけれど……」
しばらく迷ったが、洞窟の招待を受けてみることにした。
点滅している石の輝きのとおり歩を進めると、広い空間に出る。ドームのような形をした空間だ。
そこにも辺り一面天然石が埋まっており、何とも幻想的な光景だった。
「ようこそ。導かれし者よ」
上を見上げていると、声が聞こえる。声は女性のものだ。
「えっ? 誰?」
四方に目を巡らせるが、姿がない。
「貴女の願いは何ですか?」
また声が響くが、相変わらず誰かがいる気配はない。
「私の願い? 第三次クレイナ戦役が起こらないこと?」
声が聞こえるだけで誰もいないのに、なぜか私はそう口走っていた。
第三次クレイナ戦役が起こらなければ、お母様は死ななくてすむ。ベルンと敵同士になってしまうのも嫌だ。
「精霊に好かれし者よ。貴女の願いはきっと叶うでしょう」
そしてまた視界が反転した。
「きゅい! きゅきゅい!」
ルリアの声が聞こえる。とても心配そうに私を呼んでいるようだ。
目を開けると、ルリアがつぶらな瞳から涙を流しているのが目に入る。私は気を失っていたのだろうか?
自分の状態を確認するために身を起こすと、壁にもたれかかるようにして座っている。そして、ルリアは私の膝の上に乗っていた。
「ルリア? どうして泣いているの?」
「きゅい!」
ルリアが飛びついてきたので、私は抱きとめる。
「泣かないでルリア。私は大丈夫だから」
ルリアを慰めるように撫でながら、私は今までの出来事を頭の中で整理するように考えを巡らせた。
願いの洞窟にベルンとラシードと一緒に来て、途中ではぐれたのだ。
それでドームのような空間で声が聞こえて……。
「そういえばルリアがどうしてここに?」
ルリアは確かレイリさんと一緒に留守番をしているはずだ。
「きゅきゅい! きゅ!」
「心配でついてきてくれたの?」
涙をぬぐってやると、ルリアは頷く。
「ありがとう、ルリア。さあ、一緒にラシードとベルンを探しましょう」
「きゅい!」
私が立ち上がると、ルリアは小さな翼を広げ羽ばたく。
一人だと心細いが、ルリアがいるとほっとする。
安心した私は手に握っている物に気づかなかった。
マリエルが握っているものは?




