22.もふもふを愛でよう
次に行った宝石店では残念ながら気に入るものがなく、今回は購入見送りとなった。
大人用の大きな宝石をはめ込んだ指輪や総ダイヤモンドのネックレスなど、子供の体には負担でしかない。
レストランでは子供用のランチを予約してあったらしく、提供された料理は何となくお子様ランチの豪華バージョンという感じで美味しかった。
「ふう。お腹いっぱいです。腹ごなしに少し散歩でもしませんか? 確か近くにきれいな庭園があるのです。ベルン? どうかしましたか?」
先ほどからベルンが難しい顔をして何事か考え込んでいる。
「ああ、いや。何でもない。いいぞ。その庭園に散歩に行こう」
心ここにあらずといった感じだ。
「何でもなくはないでしょう。食事の最中も上の空でしたし、何か悩み事でも?」
「宝石か……」
「え? 宝石がどうかしましたか? もしかして、何も選ばなかったことを気にしていますか?」
気に入るものがなかったとはいえ、適当に何か選べばよかっただろうか? しかし、子供が身に付けるようなデザインのものはあの店にはなかったのだ。
「いや。そうではない。有名な店とはいえ、其方に似合いそうなものはなかった。俺の選択ミスだ」
そもそも今の私はまだ五歳児なのだ。まだ本格的な装飾品を身に付けるには早い。
「お気になさらず。それより散歩に行きましょう。今の時期はユリが見頃です」
「分かった」
表面上は笑みを浮かべているが、憂いは晴れていないようだ。
俺様系男子は思うとおりに事が運ばないのはお気に召さないのかも?
◇◇◇
「評判のカフェとはこういうことか?」
「そうですよ。ああ、可愛い!」
私の足元には可愛い猫たちがわらわらと集まってきている。
意外だったのだが、この世界にもいわゆる猫カフェのようなものがあったのだ。
侍女からその話を聞いた時に、今すぐ飛んで行きたい衝動に駆られた。
日本ではだいたいワンドリンク制で猫と触れ合うカフェが多かったが、この世界ではガラス一枚隔てた向こうで猫たちの愛らしい姿を拝みながら、食事を楽しむというものだ。
ただし、別料金を払えば猫たちと遊ぶことができる。
もちろん、もふもふたちと戯れたい私は別料金を払い、ただいま猫たちと遊んでいる最中だ。ちなみに料金はベルンが払ってくれた。
「猫というのは気まぐれであまり人に近寄らない動物だと思っていたが……」
「そういう子もいますが、こういったところの猫は人に慣れていますから」
「それにしても、慣れすぎではないか?」
気がつけば、このスペースにいる猫たちは私の下に集まっていた。
「いいではないですか。もふもふし放題です!」
猫たちの毛並みをもふりまくりながら、私の顔は自分でも分かるほど緩みきっていた。
「マリエが楽しければ、それで良い」
ベルンは足元の猫をひょいと掬いあげたが、猫はシャー! と威嚇するとするりと腕の中から飛び出してしまった。
王都ではこういったお店がまだあるのだろうか?
早速、リサーチしなくては!
もしかすると、この世界でも『もふもふを愛でる日』ができるかもしれない。
とりあえず、このお店の会員になっておこう。
『もふもふを愛でる日』の復活は近い……かもしれない。