19.マリエルを巡る少年たちの熱き戦い
いやいやいや。恋に発展する要素はあった? なかったよね?
エドアルト王子とはチェスしかしていない。
きれいな庭園を散歩とか手紙のやり取りとか、何かロマンがあることしたっけ?
あえていえばシルヴァーをもらったけれど……。
あっ!
そういえば、好きな男の子の好みを聞かれて、『川で溺れている子犬を助けるような優しい男性が好みです』と言ったことがある。
まさか、それで池で溺れていたシルヴァーを助けて自分は風邪をひいたとか?
エドアルト王子がシルヴァーを贈ってくれた経緯は彼の従者から聞いたのだ。
「僕が勝ったら、マリエルと婚約破棄をしろ!」
何か婚約破棄された相手に言われるのは複雑な気持ちだ。
「では俺が勝ったら、お前は金輪際マリエルに関わらないということでいいか?」
ベルンハルト! お前も賭けにのるんじゃない!
「お待ちください! 私はチェスの賭けの対象など嫌です! 私は物ではありません!」
ベルンハルト皇太子は私に微笑むと、親指をぐっと立てる。
「安心しろ。勝つのは俺だ」
おい! 人の話を聞け!
「マリエル、望まぬ政略結婚などしなくていいんだ。大丈夫だ。僕が必ず勝つから」
エドアルト王子はドヤ顔だ。
お前も人の話を聞け!
私の反論は無視され、二人は勝手にチェスの対戦を始めてしまった。
沈黙が流れる中、ベルンハルト皇太子とエドアルト王子のチェスの対局が続く。
私は二人の間に座り、状況を黙って見守っていた。
エドアルト王子もまあまあチェスが強いが、ベルンハルト皇太子のチェスの腕も相当なものだ。
最初、悪手と思われた手が後々有利な状況に変わってきている。
まあ、鞠絵のお祖父ちゃんの将棋の腕前には負けるけれど……。
私も何かを賭けてベルンハルト皇太子と対戦をしてみようか?
今度お手合わせ願うことにしよう。
そうじゃなくて!
何を賭けてもいいが、私との婚約を賭けの対象にしないでほしい。
この対戦が終わったら、二人にお説教をすることにしよう。
第一局目はステールメイトで引き分けた。
ステールメイトとはチェックされていないのに、動かせる駒がないことだ。
この場合はチェスでは引き分けとなる。
「なかなかやるな。ベルンハルト皇太子」
「其方もな。エドアルト王子」
二人はにやりと笑みを浮かべる。
チェスを通じて友情が生まれたとか?
「では、第二局目といこうか?」
「望むところだ」
二人がチェスの駒を並べ直そうとしたところで横槍を入れる。
「はい! そこまで!」
あからさまに不機嫌そうな顔をして二人とも私を見やった。
「何だ? マリエル」
「これは男の戦いだ。女は口を出すな」
その女を賭けた戦いだろうが!
私はチェス盤をバンと叩く。
「何度も申しますが、私は物ではありません! 賭けの対象にされるのであれば、私は今すぐ修道院に参ります!」
二人とも唖然とした顔をしている。無論脅しのつもりだが、説得力がないかな? でも婚約式の後に花嫁になる女性が修道院に入ったら大問題だよね。
「「それはダメだ!」」
しばらく間があいた後、二人は声を揃えて抗議をする。脅しが効いたのかな?
「修道院へ行くなど許さぬ。其方を娶るのは神ではなく俺だ!」
「いや! 僕だ!」
私はがっくりと項垂れた。全然脅しが効いてない。おもちゃを取り合うお子ちゃまを相手にしているようだ。もう、どうしよう?
私は途方に暮れた。
マリエルの中の人は大人です。