16.普通の犬猫ではない!?
エドアルト王子から子犬をもらった。白銀の毛並みをしたもふもふな子犬だ。
最近、動物をよく贈られる気がするのだが、気のせいだろうか?
「シルヴァー、ルナ、ご飯よ」
子犬にはシルヴァーという名をつけた。長毛のもふもふした白銀の毛並みがきれいだったからだ。
シルヴァーとルナには干し肉を与えている。専用のフードはなぜか食べないのだ。
犬も猫も本来は肉食だが、生肉を与えるわけにはいかない。焼いたり煮たりといろいろ試したのだが、どういうわけか干し肉が気に入ったようなのだ。
おかしいとは思う。しかし、ここは日本とは違う異世界だ。動物たちの食環境も違うのかもしれないと割り切ることにした。
ルリアは先ほど私と一緒にご飯を済ませている。人間と同じものを食べるので、自室でご飯を食べる時はルリアと一緒に食べているのだ。一人でご飯を食べるより楽しいものね。
ブランにはレイリさんに手紙を運んでもらっている。ここのところ、ラシードとレイリさんは顔を見せないので、ルリアの様子を書き綴った手紙を送っているのだ。
「お前に教えることはもうない」とラシードが顔を見せなくてなって久しい。少し寂しさを感じつつ、しんみりしていると――。
「よお! マリエルとチビ久しぶりだな」
「きゅきゅい!?」
ラシードがバルコニーに降り立つと、開口一番にルリアが怒る。「何をしにきた!?」と言っているようだ。
ラシードを見るなり、ルナは「シャー!」と威嚇し、シルヴァーは「う~」と低く唸っている。怪しいやつが来たと思っているのだろう。
「ルナ、シルヴァー、大丈夫よ。その方はルリアのお父様なの」
ルナとシルヴァーの頭を撫でながら、落ち着かせつつもふもふを堪能する。今日もいい毛並みだ。
「あれ? 何か増えているな。そいつらどうしたんだ?」
「猫のルナはベルンハルト皇太子に、犬のシルヴァーはエドアルト王子からそれぞれいただきました」
ルナとシルヴァーに目を向けたラシードの視線は厳しい。
「犬? 猫? いや。こいつら犬猫じゃないぞ」
「えっ!」
私はルナとシルヴァーに目を向ける。だが、どう見てもルナは可愛い子猫だし、シルヴァーは可愛い子犬だ。
「猫は騶吾という瑞獣だ。犬はフェンリルだな。どちらもまだ子供だが」
騶吾というのは東の大陸にいる瑞獣で仁徳のある君主が現れた時にしか姿を見せないそうだ。
成獣になるにつれて、白い毛並みに黒の斑状の縞が混じってくるらしい。
フェンリルは狼型のモンスターなのだが、ドラゴン同様伝説級のモンスターで滅多に姿を現さないらしい。
「どちらも人前に姿を現さないものだぞ。うちのチビにしてもそうだが、お前はそういった類のものに好かれやすいのかもしれないな」
「そうなのですか? 私には可愛い子犬と子猫にしか見えませんが」
「そいつらはお前に懐いているし、まあ害を及ぼすようなことはないだろう」
ただの犬猫ではないと分かっても、ルナとシルヴァーを手放す気はない。こんなに可愛くてもふもふな生き物はいないと思っている。
同じくらいルリアとブランも可愛い。この子たちとスローライフを送るのが私の望みだ。
犬と猫とフクロウ、そしてドラゴンとスローライフがしたい。鞠絵として命を終える前に願ったことが叶ってよかった。
「ところで今日はベルンハルトは来ていないのか?」
「そういえば、ここ三日ほど姿を見せませんね」
時間はまちまちだが、ベルンハルト皇太子は毎日この部屋に訪れていた。
「何だ? 寂しいのか?」
ラシードが顔をにやにやさせてからかう。
「そんなわけがありません」
魔法戦で対戦した相手が五歳児だったので、物珍しかっただけだろう。所詮は一国の皇太子の気まぐれだ。
そろそろ寝支度をしようとしていた時に扉をノックされた。
「マリエル、私だよ。入ってもいいかな?」
「お父様? どうぞ」
訪問者はお父様だった。珍しいな。
お父様は私の部屋に入ってくると、手近にあった椅子に腰かける。
「マリエルの可愛い友人たちは夢の中だね」
お父様は窓際に顔を向けて、目を細めた。窓際ではルリアとルナとシルヴァーが身を寄せ合って眠っている。あの辺りがルリアたちのお気に入りの場所なのだ。
「寝ている姿も可愛いでしょう? ところで何か私にご用ですか? お父様」
お父様は私の顔を見ると、眉尻を下げる。
「こんなに可愛いマリエルを嫁に行かせたくはないな」
「急にどうしたのですか?」
私はまだ五歳なのだ。嫁入りなどもっと先のこと。しかも結婚しないかもしれない。
「マリエルに婚約の話があるんだよ」
「えっ!?」
婚約? 誰と? まさかエドアルト王子!?
動揺しながらもお父様に恐る恐る尋ねてみることにする。
「どなたとのでしょうか?」
「クリュタリオン帝国のベルンハルト皇太子だよ」
えええええええええええ!!!!!
マリエルピンチ!