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15.王子の初恋(エドアルト視点)

 慎重に考えてポーンを動かす。あと三手で僕の勝ちだ。


 さすがにもう打つ手がないとマリエルも気づき始めているはず。


 マリエルとチェスを始めてこれで何回目の対戦になるだろう。


 最初にマリエルからチェスをしようと言われた時には正直耳を疑った。


 以前のマリエルは今日のドレスは似合っているかとか、おねだりして装飾品を買ってもらったとか、どうでもいいようなことしか話さなかったのだ。


 それに、いつもクロワッサンのように髪をくるくる巻いていたのに、最近はシンプルな髪型しかしてこない。正直そちらの方が似合っている。


 思わず、見惚れてしまうほど可愛い。


 それと――。


「う~ん。打つ手がないですね。投了リザインです。やはり殿下はお強いですね」


 しばらく考え込んでいたマリエルだが、潔くリザインを宣言する。


 僕のことを愛称で呼ばなくなった。少し前まではエドと呼んでいたのに。


「なあ、マリエル。なぜ愛称で呼ばないんだ?」

「えっ?」


 マリエルはきょとんとした顔をする。


「少し前までは僕のことをエドと呼んでいただろう。なぜ急に殿下と呼ぶようになったんだ?」

「それは……殿下は王子ですので、敬称でお呼びするのが当たり前だと思うのです」

「僕たちは従兄妹同士だ。今までどおり愛称で呼んでくれて構わない」


 最近のマリエルは大人びていると思う。母上が女の子は成長が早いと言っていたが、そういうものだろうか?


「ですが……」

「とにかく、エドでいい」


 なおも言い募ろうとするマリエルを制する。彼女は躊躇いがちに頷いた。


 何より僕がマリエルに愛称で呼んでほしかったのだ。



 久しぶりに父上と母上と三人でお茶をともにする機会があった。


「エドアルトは最近マリエルとチェスを始めたそうだな?」

「はい、父上。マリエルは中々手強いです」


 この頃三回に一度はマリエルに負けてしまう。彼女はどんどん勝負強くなっているのだ。


「マリエルは妙に落ち着いてきたな。少し前までは活発であったが」

「陛下。女の子は突然大人びていくものです。マリエルは赤子の頃からきれいな子だったけれど、日を増して可憐になっていきますわね」


 僕には姉妹がいない。そのせいか母上はマリエルを可愛がっている。


「お嫁さんにするなら、マリエルがいいな」


 ついぽろりと本音が漏れてしまった。はっとして口に手を当てる。


「エドアルトはマリエルが好きなのか?」

「ええと……はい」


 僕はテーブルの下で手をせわしなく動かしながら、肯定した。父上は困惑したように苦笑する。


「うむ。困ったな。クリュタリオン帝国の皇太子からマリエルに婚約の打診が来ているのだが……」


 何だって!? クリュタリオン帝国といえば、長年我が国と敵対している国じゃないか!


「僕は反対です! クリュタリオンの皇太子にマリエルを嫁がせるなど、人質みたいなものではないですか!」


 僕は思わず椅子から立ち上がり、声を荒げてしまう。


「今のクリュタリオンの皇帝は友好的だ。マリエルが嫁げば両国間の架け橋となる。良い話だと思うのだがな。しかし、エドアルトがマリエルを好いているとはな。これは困った。う~む」


 父上は悩んでいるようだ。父上は国王だから国のことを考えているのだろう。


 だが、僕はマリエルと離れてしまうのは嫌だ。



 両親との茶会の後、庭園を散歩していると、池で子犬が溺れているのを見つけた。庭園の池はそれほど深くはないが、子犬にとってはそうではないだろう。そもそもなぜ溺れたのだろう? 犬は泳げるものではないのだろうか?


 このまま放っておいてもいいが、犬が目の前で溺れ死んだのでは寝覚めが悪い。


 誰か使用人を呼ぼうとして、はっと気がつく。


 マリエルが「川で溺れている子犬を助けるような優しい男性が好み」だと言ったのを思い出したのだ。チェスの最中の何気ない会話だったが、僕は覚えていた。


 気がつけば僕は池に飛び込んで子犬を助けたのだ。白銀の毛並みをした犬だった。


 子犬はか弱くク~ンと鳴く。


「可愛いな」


 そういえば、マリエルは動物が好きだと言っていたな。


 この子犬はマリエルへの贈り物にしよう。

この後、エドアルトは風邪をひきました。

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