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11.憂鬱な皇太子(ベルンハルト視点)

 女というのはこうもおしゃべりな生き物なのだろうか?


 庭園のガゼボで対面に座っているアッシェンバッハ侯爵令嬢ミレイアが、聞いてもいないことをひたすら喋り続けている。


 黄色のひらひらしたドレスを着たミレイア嬢は、まるで金糸雀カナリアのようだ。金糸雀のようだというのは、ピーチクパーチクさえずる様が似ているという意味だ。


 マリエルはいつも質素なワンピースを着ていて、物静かなのだが……。


 俺はミレイア嬢の話を聞き流しながら、茶請けのはちみつ漬けレモンを頬張る。


「殿下ははちみつがお好きなのですか?」

「好きというわけではないが、疲れた時に食べるといいらしい」


 マリエルがそう言っていたからな。疲労回復に抗酸化作用があるだったか?


「そうなのですか? よろしければ、一度我がアッシェンバッハ侯爵領へいらしてくださいませ。良質のはちみつを作っておりますのよ」

「考えておこう」


 バカバカしい。なぜはちみつを食べるために、遠く離れたアッシェンバッハ侯爵領へ行かねばならないのか?


 最近、こうして貴族の令嬢たちと茶会の席を設けさせられているのだが、皇太子妃候補を決めるためといったところだろう。


 皇太子妃にはマリエルを迎えるつもりでいるから、無駄な時間だ。


 退屈で仕方がない。早く茶会が終わらないだろうか?


 マリエルに会いに行きたい。



 ある日、庭を散歩していたら、エンシェントエレメンタルドラゴンのラシードに攫われた。


 その時に初めてマリエルと出会ったのだ。


 最初はラシードの弟子というので興味を持った。エンシェントエレメンタルドラゴンを三頭も従えている大公家息女に。


 ラシードには俺から勝負を挑みに行ったのだが、やはり伝説の竜は強かった。


 魔人である俺が負けたのだから。


 クリュタリオン帝国の初代皇帝の皇后は魔神と人間の混血ハーフだった。魔神と伝えられているが、決して邪神ではない。


 皇后は聖女だった母の血を濃く受け継いでいた。腐敗していた帝国の民を皇帝とともに導き、聖女と称えられたのだ。


 皇帝は魔神の弟子だったらしく、相当な魔術の使い手だった。


 初代皇帝皇后の尽力でクリュタリオン帝国は栄え、大陸屈指の大国となったのだ。


 クリュタリオン皇室の血統に時々、初代の血を濃く受け継ぐ者が生まれる。俺はまさにそれだ。


 魔神と人間の血をひくから『魔人』と命名したのは、二代目の皇帝だった。最初の魔人というわけだ。


 だが、魔人として生まれたと知っているのは本人だけ。歴代の魔人がそうであったように、わざわざ魔人だと言う必要はない。


 魔力が高い人間。それだけでいい。


 俺はほとんどの魔術を使いこなせるが、聖女だけが使える神聖魔術も使うことができる。聖女の血をひいているからだ。


 そんな俺と互角の魔力を持つマリエルはまだ五歳だというのに、強かった。本人は自分のことを『ポンコツ』だと言っていたが、謙遜しているのだろう。


 変わった言語で魔術を使うが、マリエルの魔力と相性がいいらしい。


 また戦いたいものだ。何よりマリエルといると飽きない。


 絶対に俺の妃に迎える!


「……下。殿下。聞いていらっしゃいますか?」


 考え事に没頭していて、ミレイア嬢の話を聞いていなかった。


「すまない。少し考え事をしていた」

「次回のお茶会もわたくしをお誘いいただけますか? とお尋ねしております」

「機会があればな」


 正直、自国の貴族令嬢との茶会はうんざりだ。

 


 ミレイア嬢との退屈な茶会が終わったので、マリエルに会いに行こうと自室へ急ぐ。


 自室にはローゼンストーン大公家の門前へ繋がる転移魔法陣を設置してある。


 中庭を通りかかったところでみゃあみゃあと鳴く声が聞こえた。


 声のする方を見ると、木の上で白い子猫が震えながら鳴いている。


 木に登ったのはいいが、下りられなくなったのだろうか?


「猫というのは、なぜ下りられないのに木に登るんだ?」


 放っておこうかと思ったが、ふとマリエルが『木から下りられなくなった子猫を助ける男』が好みだと言っていたのを思い出す。


 俺は風の魔術で子猫を木から下ろしてやり、懐に抱く。


 子猫はみゃあんと鳴くと、俺の懐で眠ってしまった。安心したのか?


「どうしたら良いのだ?」


 そうだ! マリエルはもふもふした動物が好きだと言っていた。あいつへの贈り物にしよう。


 そういえば、勝負に勝った方の言うことを聞くはずだったが、結局引き分けだったな。


 マリエルの望みは何だったのだろう?


 今度、聞いてみることにしよう。

マリエルが気になって仕方がない皇太子でした。

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