誰がために金は要る(上)
「誰が為めに鐘は鳴る」(原題: For Whom the Bell Tolls)は,ノーベル文学賞を受賞したアーネスト・ヘミングウェイがスペイン内戦下での恋を描いた長編小説である。本編はヘミングウェイの後継者を自称するカミングウェイがピンパブ界での儚い恋を描いた不朽の名作である。
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(ガード下の赤提灯)
(賀茂は自称・文化人類学者の根木から講義を受けている。)
日本に帰ってしばらくしてジェシカと離婚することを決心しました。相変わらず育児は放棄し家事も全くしないのです。料理といえば私も子供も食べることができないフィリピン料理しかつくりません。
ジェシカが2人の子供の教育をすることは一切ありませんでした。毎日休まず店に出て朝方帰宅してそのまま夕方まで寝て,また店に行くという繰り返しです。子供にかまう暇などあるはずがありません。そうして稼いだ金はすべてゴッドマザーに送金します。そして本国のファミリーは,働くこともなく優雅に生活できるのです。
私が離婚を切り出すとジェシカは離婚届にハンコを押すこともなく子供を連れて家出しました。電話をしても通じませんし,ラインをしても既読スルーです。ジェシカの知り合いを訪ねて探しましたがみんな知らないと言われるだけでした。本当は,不法滞在のフィリピン男と同棲しており,みんなでジェシカを匿まっていたのですが。
たまに帰宅すると自宅から金目のものが消えているので鍵を変えました。弁護士から養育費の請求が来たので払い続けました。本国への仕送りは,一番目の子供のためだけに今でも毎月3万円を送金しています。その金が私の子供のために使われているかどうかは知る術がありませんが,父親として最低限の義務です。
後で知ったことですが,その間ジェシカが連れ出した子供は学校に通っていませんでした。それどころか,私が知らないうちに私の両親に対し,私が生活費を渡さないからといって金を受け取っていたのです。子供は金策の道具にされていたのです。
2年おきに連絡がありました。「子供といっしょにあなたとやりなおしたい。」というのですが,1週間も経つとまた子供を連れていなくなりました。今から思えば配偶者ビザを更新するための保証人として,夫である私のハンコが必要だっただけです。
フィリピーナのネットワークはまるで華僑のようです。フェイスブックなどを通じてお互いヘルプし合う関係はとても強力です。誰かが金に困っていると,ヘルプを要請されたフィリピーナは旦那とか客の親父から金を巻き上げ渡してやるのです。名目は,お母さんが病気になったとか,兄弟が事故にあったとかです。火事もありましたね。
とにかくフィリピーナは日本人とつき合うと,病気とか事故が頻発するのです。私も何度かジェシカに同じようなことを言われて金を渡したことがあります。
二番目の子供が成人し,ジェシカが定住ビザをとったときやっと離婚することができました。慰謝料も払いました。
離婚後,ジェシカは児童扶養手当や生活保護の申請をしたようです。国や市役所から金を受け取る手続きは,ピーナネットワークで共有されているのです。児童扶養手当はともかく,ピンパブで働いてカネを稼いでいる以上,生活保護の受給資格はありませんが,私からこれ以上カネをとれないとわかると,今度は市役所からとってやろうというすさまじい金銭欲です。
ジェシカは離婚後働いていたピンパブの客と再婚したそうです。二番目の子供は不良となり高校を中退して家出しました。その後は何の連絡もありません。