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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

作者: パラダイス

朝、目を覚ます。


まだ日は登り切っておらずまだ雲も太陽もない明るい空が外には見えた。


そんな空とは対照的に目覚めは最悪である。


悪夢にうなされて起きたからだった。


俺には彼女がいた。


小学校から高校までずっと一緒の学校へ進み高校1年の夏休みにいつものように彼女の家に遊びに行った時に俺から告った。


既に別れているはずのそんな彼女が夢に出てきたのだ。


恋人繋ぎを真似しようとして肘に腕を通し合い楽しくデートしていた夢だった。


楽しいのだけれども彼女も笑ってくれてたのだけれども彼女の顔はどこか上の空だった。


それでもデートは続き俺たちは夜に帰宅しようとしていた。


今までずっと恋人つなぎしていたはずだったのに気がつけば隣に彼女は居なくなっていた。


振り返ると彼女が別の男と恋人つなぎしていた。


絶望感、虚無感、無数の感情が俺を襲ったその時彼女は急に地面をすり抜け落ちていった。


思わず駆け寄ろうとすると彼女と恋人つなぎしていた男に阻まれて彼女の手を取り逃してしまったところで悪夢が終わった。


あの男の顔が今でも忘れられなかった。


知らない男、名前も、顔も、会ったことすらないのにはっきり覚えているその顔がどうしても忘れられなかった。


胸糞の悪さが収まらないため机の中から1つの写真立てを取り出した。


元カノの写真である。


写真に写る彼女は合格通知を手に満面の笑みを浮かべていた。


「医者になるんだもんな...あいつのことだ勉学に励んで周りと孤立しているんだろうな...」


誰もいない部屋で独り言を溢した。


すると悪夢で胸糞悪くなっていた気持ちがスッと楽になった。


俺のおまじないである。


彼女と別れたのも彼女が医者を目指すからである。


彼女の夢が叶って欲しい俺は彼女に別れを告げた。


彼女の夢は研究医となってALS(筋萎縮性側索硬化症)を解き明かすことである。


彼女の父親がALSで亡くなったからである。


俺も彼女の父親の死に目にあっていたのでよく覚えている。


高一から付き合っていた俺たちは一年経ってわぁきゃあして浮かれていたのだがそれから1ヶ月後に彼女から連絡を受けて病室を訪れそこで泣き崩れる彼女をみた。


病室にに入った途端心肺停止でアラートが鳴り出したその瞬間今まで見たことない悲痛な涙を目にした。


次の日、自身の将来に対して決意を固めた彼女に対して俺から別れを告げたのだ。


もう2度と泣いて欲しくなかったから、もう2度と彼女に苦しんで欲しくなかったから。


だからこそ俺から別れを告げた。


彼女は誰よりも美しかった。


儚げな様相さえ思わせる整った女性的な顔立ちに175の長身、周りから浮き高嶺の花だった。


彼女は誰よりも優しかった。


女神をも彷彿とさせる慈愛に満ちた優しさを持ち、他人のためなら自分の事など後回しにしてしまうくらい。


美優、名前に相応しい人格を持った人である。


写真を眺めて懐かしむ。


幼なじみというステータスを盾にその陰でひっそりと付き合っていたあの頃を、そして俺から別れを告げたあの日を思い出していた。


彼女は学校で最も有名だった。


その美貌、性格、学力、どれをとっても完璧だからである。


だからこそ彼女は1人だった。


ストイックにのめり込む彼女に誰も話しかけようなど罰当たりと言われていたからだ。


そんな彼女と元より1番話していたのは俺である。


俺が彼女と付き合っているように見える妬みからか陰口をよく聞いた。


しかしその陰口でさえも彼女は一言で黙らせた。


「小学校からの幼なじみなの。」


こう彼女が言い放って彼女に釣り合うはずがない俺と仲良くしている理由に納得したのだろう。


付き合っているのではという憶測が飛び交ったり陰口を叩かれることはなくなってしまった。


そんな彼女に俺は自ら別れを告げた。


「なぁ研究医だっけ?まずは医師になるってことだよな?」


「えぇそうよ。頑張るわ。お父さんの命奪った病気を根絶させてやるんだから!」


「はははそりゃ病気が可哀想だな。美優を敵に回したんだからw」


何気ない、いつも通りの会話である。


「だからこそ私は東大目指すわ!


ふふふ応援してよね?」


彼女が笑顔のうちに切り出すべきだと思った俺はそこで話を振った。


「なぁ。別れないか。」


「え!?」


衝撃を受けられたご様子だったのですぐに付け加えた。


「君には夢を叶えてほしい。


でも君は優しすぎる...


こんな俺なんかと付き合い、誰よりも他人に尽くす君には俺は足枷でしかない。


俺は臨床検査技師になる!というかドイツに留学しようと思う。


遠距離で恋愛とかいう足枷なんて付けないでお互いが卒業し終えた時にまた、また...


今度は結婚してくれないか?」


別れという名の告白をした。


俺は美優が大好きだ。小学校の頃からも周りから浮いていた彼女は俺の憧れでありそれこそ太陽のような存在だった。


最初は同じクラスで帰り道が途中まで同じというだけで仲良くなったかもしれない。


だけれどもその頃から俺はきっと恋していたのだろう。


陰キャでクラスでいつも1人の俺とは真逆の眩しすぎてクラスでいつも1人の美優、だからこそ惹かれあったのかもしれない。


俺たちは喧嘩なんてしたことがなかった。お互いがお互いを尊重しあったから。


俺たちは付き合っては1年かもしれないがそれまでの長い間、裏を返せば何もなかった。


それを終わらせるために去年告白したのだ。


今まで感じてすらいなかった虚無を満たされてはじめて気づく恋心、俺は美優がより好きになった。


彼女はどう思ってたかは別れる日まで分からなかった。


彼女は誰にも優しい。


怪我した人がいれば年寄りだろうと年下の子供だろうと見知らぬ誰であれ傍にいてあげるくらい優しかった。


だからこそ彼女が本心で俺をどう思っていたかなんてわかるわけもなかった。


別に彼女が嘘を付くとは思えない、だけど自分如きを本当に好きに思ってくれているなんて思えなかったのだ。


その日、初めて喧嘩した。


喧嘩して初めて彼女が本心で俺を好きでいてくれたことに気がついた。


自室に帰ってから、泣き叫び、気がつけば夜が明けてしまったのだ。


夜が明けたのに気がついてすぐにLINEで謝る、だけど既読は付かなかった。


その後紆余曲折を経て仲直りした。


この時点で恋人ではなくなっていた。


お互いそれを理解したからこそ言葉を交わした。


「「 夢を叶えてまた会おう! 」」


懐旧を経て気持ちを立て直し寮を出た。


気持ちこそ立て直したもののソワソワが止まらなかった。


虫の知らせというべきだろうか。


立て直したとはいえとても心は安まったとは言い難かった。


LINEで何気ない一言を選び彼女に向けて送信した。


おはよう


既読は付かなかった。


彼女は医学部にいる。忙しくて見る暇もないのだろう。


そう割り切って大学へ通った。


寮へ付くと寮母のメアリさんが1枚の手紙を渡してくれた。


中には招待状と手紙が入っていた。


招待状の内容を確認してみる。


地元の福岡の葬儀場だった。


訳も分からなかったため手紙を確認する。


くしゃくしゃになりいくつもの染みができた手紙にはこう書かれてあった。


美優が亡くなりましたのでそのご報告と葬儀の招待状を送ります。


死因は他殺です。


犯人は捕まりましたが美優が還らぬ人となってしまいました。


貴方に美優の


そこで手紙は止まっていた。


そこからは滲みすぎて読み取れない。


慌てて届け出を提出しパスポートと財布だけを持って飛び出した。


27時間かけて帰省した。


すぐに彼女の家に飛び込んだ。


「ゆ、雄馬君...て、手紙届いて良かった...」


美優の母親は事切れたように倒れた。


その様子をみて本当に彼女が亡くなったのだとわかった。


「み、美優...」


俺も膝から崩れ落ちた。


葬儀は一通り終わった。


棺の中の彼女は当時の異彩を放っていた美貌は見る影もなかった。


バラバラになった四肢を綺麗に拭かれ不完全なパズルのピース合わせのようにお情け程度につけられていた上に化粧を施されていたのを思い出す。


胸の痛みは悲痛を通り越し麻痺してもはや何も感じられなくなっていた。


食べても味が感じず、寝なくても眠気もなく、移動中も疲労も足に伝わる地面の感触も何もわからなくなっていた。


葬儀の次の日、俺は彼女の家を訪ねた。


美優の母親はなんとか気持ちを立て直し俺に全てを明かしてくれた。


そして状況が理解できてなかっただろうということでテレビで連日特集されていた録画内容を見せてくれたのだ。


そこに映る犯行時刻、犯人の顔、死因、全てが繋がり目を覚ました。


「あぁ...美優が教えてくれてたのか...


くっそ!何がおはようだよ...


...お前が伝えてくれてたのか。


無念...


お前の夢...俺が叶えてやる...」


俺は学校を退学し日本へと


夢、それは何かを伝えるものなのだろう。


あれは悪夢などではない、散った少女が1人の男に託した夢だった。


儚い儚い人の夢だった。



あえて少女の真意は書いておりません。


人の夢とはそういうものだと思います。

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