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博士の異常な執着 または私は如何にして心配するのを止めて依存症を愛するようになったか

作者: 何某

 薄暗い研究室で僕はとある研究のために実験の準備を進めていた。


 この実験は非常に困難を極め、幾度となく失敗に終わった。

仲間たちもこのプロジェクトを次々と降りていった。しかし、難病とされる病を治せるかもしれない可能性を最後まで諦めるつもりは無い。そんな僕の事をある人は


「あまりにも非現実的だ。偽薬を精製しようなんて酔狂にも程がある。」 

と嘲った。



 僕はいつものようにタールとニコチン生成物にアセトアルデヒドを添加し混合させた試験薬を適当な紙で巻いた。そしてその先にマッチで点火し恐る恐る口をつける。僕は内心とても冷静を保っていられなかった。もし、この実験が成功したら化学の発展、ひいては人類の進化と繁栄にまで影響を及ぼす。自分の肩にのしかかった重圧で手が震えた。いけない。


僕は大きく息を吸い込んだ。




「よし。成功だ。」


 試験は一筋の狼煙の様な煙をあげて無炎燃焼の反応を示した。

そして吐き出された息も降雪の翌日の朝の息の様に白かった。

しかし、ここまではいつも通り。何度も成功している。この先が問題なのだ。

僕は試薬をもう一度吸い込み…そして吐き出した。それを2、3度繰り返してから耐熱性の容器に試薬を押し付け火を消した。ここからは4時間の経過観察が必要になる。なに。時間は十分にある。ゆっくりと論文の作成や講演会のための資料を集める時間に充てる事にした。


「今日は成功するかもな。」


本日8杯目となる珈琲を準備しながら呑気に考えていた。

パソコンを立ち上げ、来月出版する予定の本の原稿作業を開始した。だが、脳がよい電気信号を処理した瞬間に悪い事が起きる。遅々として原稿が進まない。締め切りまで2週間も無いというのに。しかもパソコンの調子も悪い。いらいらしながら時計に目をやる。くそ。まだ2時間しか経っていない。経過観察は最低4時間空ける事にしているからあと2時間は何とかしなければならない。くそ。くそ。いらいらする。いらいらで考えが全く纏まらなかった。堪らず僕は再び試薬を手にし火をつけた。それは1回目の時と殆ど変わらない反応を示した。しかし、僕は先程とは異なり試薬から発生する白煙を肺に取り込む度に精神の安定と少しの幸福感を得ていた。ゆっくりとそれを味わいながら試薬を使い切った。


「…………くそ」


僕は一言呟いた。今日もまた実験は失敗した。あの衝動に耐えきれなかった。多幸感を味わいたい衝動を。僕は震える手で乱暴に実験レポートを書き、何もかも投げ出したい気分に駆られた。頭をかきむしり薬品棚の中から麦芽由来のエタノール蒸留水を取り出しそのまま飲用した。1度で何㏄摂取したのか分からないくらい大量にだ。

 このエタノール蒸留水には鎮静効果及び睡眠導入効果がある。副作用として酩酊状態、吐き気等がある。だが僕は近頃これ頼らざるを得ないほど不眠が続いている。また、これを飲用すると体の震えが治まるのだ。最早、エタノール蒸留水は僕にとって特効薬である。


 しかし、未だ依存症完治の為の特効薬は見つからない。何がいけない?次回は試薬を変更して実験を行ってみよう。そうだ。天然素材からアプローチしてみよう。芥子なんかはどうだろう。


色々とすみません。何か問題があれば消します…

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