今さらの
――――三日後。
「そういえば、陛下。お帰りにならなくてよいのですか?」
本を読んでいたアイリは、ふと思い出したように顔を上げると、ファビアーノの背中に向かって言った。
窓際の机で書き物をしていたファビアーノは、椅子に腕をかけて半身だけ振り返って、からかうような目をアイリに向ける。
「なんだ。帰ってほしいのか?」
アイリはその言い草に苦笑し、首を振った。
「いえ。いてくれるのは嬉しいのですが、お忙しいのでしょう?」
素直な気持ちを口にしたアイリに笑い、ファビアーノは立ち上がって、アイリの隣に腰を下ろす。それから、安心させるように髪に触れながら、笑みを浮かべた。
「俺はしばらくここで公務を行う。その為の手紙だ。何人かこちらに呼ぶから、騒がしくなるかもしれんが、いいか?」
「それは構いませんが、あちらは」
「エヴァルドに任せてある。子供たちの事もな」
ということは、兄弟で仲違いする事は無かったのか、とアイリは安心した。自分に対する疑惑が無くなった今、エヴァルド以上に、ファビアーノが信頼できる者は居ないだろう。
「エヴァルド様でしたら、エヴェリーナ殿下が喜びますわね。マティアス殿下のお勉強もきっと捗りますわ。ね、陛下」
「そうだな……」
頷きながらも、ファビアーノはどこか釈然としない顔をしていた。その表情に気が付いたアイリが、不思議そうに首を傾げる。